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3,丁寧な第三王子と不躾な令息


 案内された会場は、王城の庭。季節の花が見事に咲き誇り、目を奪われました。いくつもパラソルが立てられ、日陰で休めるよう配慮もされています。


 そのパラソルも花で装飾されていて、まるで一つのオブジェのよう。空間に馴染み、美しい景色を作り上げていました。


 これが王家主催のパーティー。ただ贅を尽くすだけではない、素晴らしい気配りや美的感覚に圧倒されます。


 暫くすると、第三王子であるウィルクス殿下がいらっしゃいました。少年らしい丸い輪郭に、ぱっちりと丸い青色の瞳。綺麗なブロンドの髪をさらりとなびかせ、中央の椅子に着席しました。


 ……仏頂面の私より、はるかに可愛らしいお方ですね。


 参加者はぞろぞろと列を成し、殿下への挨拶が始まりました。挨拶は身分の高い者から行うので、侯爵家の令息令嬢であるお兄様と私は、比較的早めに挨拶へ向かいます。


 張り切った両親によって、豪奢で重すぎるドレスを着せられた私は、裾を軽く持ち上げて、お兄様と共に王子の前へ進みます。


 先にお兄様が挨拶し、色々と話し終えると、私の順番が回ってきました。コレリー先生に教わった通り、丁寧にカーテシーします。


「お初にお目にかかります。リヴィエル侯爵家が長女、ソレーヌと申します。この度はおめでとうございます」


 私は笑みを浮かべて、挨拶と祝いの言葉だけを淡々と述べました。


 先に挨拶していた公爵令嬢やお兄様はあまりにも話が長く、他の令息令嬢も一言でも多く話したいと、必死に話題を考えているようでした。


 ですが、これだけ後がつかえてるのですから、すぐ終わらせた方がいいでしょう。挨拶だけで時間を消費するなんて勿体ないですから。


 あまりにもあっさりとした挨拶だったせいか、ウィルクス殿下は一瞬目を見張った気がしました。

 

「……ありがとうございます。第三王子、ウィルクス・フォン・モントブールです。今日は楽しんでいってくださいね」


 丁寧に感謝の言葉を返され、優しげな笑顔を向けられた私は「あら……」と驚きました。


 王家の方も、お父様のように強欲で横暴なのでしょうと思っていましたが、この王子様はそんなふうに見えません。

 

 私の勝手な想像よりも、ウィルクス殿下の印象はよくなりました。せっかくなら少し話しかけてみたいという気持ちが浮上します。家や親のことなど関係なく、友達になれたなら嬉しいですから。


 ――しかし、自由な交流時間が始まった途端、多くの令息令嬢達が我先にとウィルクス殿下の周りに群がっていきました。お兄様も負けじとそこに入っていきましたが、人垣に埋もれて一瞬で見えなくなってしまいました。


 あ……無理。あんなところに入っていくなんて。


 押し合い圧し合い、色とりどりの衣装が入り乱れている様子を見て、私の心は即座にポキリと折れてしまったのです。


 仕方がないので、当初の予定通り、お菓子を堪能することにしました。置かれているお菓子をお皿に盛って、盛って、盛っていきます。


 いくら領地が広大でも、田舎では砂糖が中々出回らず、甘味はそう食べられません。……我が家が貧乏なのも相まって、ですけれど。私、これでも侯爵令嬢だというのに。


 私はウィルクス殿下や、彼に群がる令息令嬢には目もくれず、綺麗なお菓子を眺めては、パラソルの下の椅子に座って黙々と食べ続けました。


 そろそろ減っただろうかと、時間を置いてから再びウィルクス殿下の方へ目を向けてみました。しかし、まだまだ多くの令息令嬢が集まっています。


 しかもその隣には、シャノワール公爵家のコランティーヌ様がぴったりとくっつき、パスキエン辺境伯家のイディッタ様も必死で話しかけています。


 今日は声をかけられなさそうですね。突っ込んでいくのも面倒ですし、あれは……大変そう。

 

 そんなふうに諦めて手を伸ばすと、取ってきたお菓子が残りひとつになってしまったことに気がつきました。最後のバターサンドを噛み締めるように堪能します。


 それにしても……流石に食べすぎたかもしれません。念の為、一度お花を摘みに行きましょうか。


 私はひっそりと会場から抜け出しました。すると、後ろから不躾に「おい」と声をかけられたのです。


 もしかして、私に言っているの?


 怪訝な顔で振り返ると、そこにはコランティーヌ嬢と同じく、ずっとウィルクス殿下の側にいた令息が立っていました。


 誰……?お父様から「変な令息と仲良くして、無駄に興味を持たれるようなことは控えるように。下位の令息相手なら話さなくていい」と言われていたので、令嬢達の情報は完璧に覚えましたが、令息達については上級貴族の令息以外、覚えていませんでした。


 そもそも、見ず知らずの相手に「おい」なんて。家格を問わず、無礼極まりありません。私は、何の返事もせず首を傾げました。


「お前、ウィルクス殿下を祝う席にも関わらず、殿下に挨拶しただけで一切寄って来なかったよな?殿下を軽んじているのか!?」

「え?」


 意味不明な叱責に、私は眉を(ひそ)めます。


「私は、決して殿下を軽んじたつもりはありませんが」

「それなら何故話しかけてこない?ずっと菓子ばかり食べて、殿下を祝う気などなさそうだったじゃないか!」


 キッと睨まれ、うんざりしました。あなた達、自分を優先するばかりで、殿下の表情の変化に気付いていないの?と。


「殿下のすぐ近くにいたのに分からないのですか?殿下のことを本当に(おもんぱか)れない人に言われたくないのですが」

「なんだと!?」

「それに、身分など関係なく、初対面の令嬢に向かって『おい』や『お前』なんて。名乗りもせずに、失礼な態度を取っているのはそちらでしょう。これ以上、話しかけてこないでください」


 ピシャリと言い切って、私は令息に背を向けました。ざぁっと風が吹き抜け、草花が揺れています。「おい!話はまだ終わってないぞ!」と喚く声は聞こえていましたが、全て無視してお手洗いに向かいました。


 ……はぁ、面倒くさい。


 つい溜息が零れてしまいます。誰かと仲良くなれたらいいなと思っていましたが……やはり私は一人の方が楽でいいようです。


 この性格のせいか、両親やお兄様とすら上手く意思疎通が出来ない私。楽しく話せる相手は、コレリー先生だけ。


 だから、王子様に見初められるなんて非現実的な願いではなく、話せる友達が出来たらいいと願っていたのですが……。


 あんな人とは親しくなりたくありません。ずっとウィルクス殿下にまとわりついていたような人達とも。


 会場に戻ったら、また隅の方でお菓子を摘んで静かに過ごしていればいい――そう考えていました。



 ですが、私が会場へ戻ると、それまでの和気あいあいとした空気から一転しました。その場がしんと静まり返ります。


「……ねぇ、戻ってきたわよ」

「やだ、あっちに行きましょ」


 私が目を瞬いている間に、遠ざかっていく令息令嬢。私は唖然とするしかありませんでした。


 この後私は、例の令息との会話が、私の人生を揺るがすことになってしまったと知るのです。




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