他人の羞恥でポイントを得る
悪魔のヨダレとかいう、最高にヤバいスパイス(毒草)を手に入れた。
ついでに、ヤッコロのお母さまを救う薬草もだ。
「礼を言う、メシ子殿。母を救えるのは貴殿のおかげだ」
ヤッコロが真剣な顔で頭を下げる。
「いいえ。win-winですわ。スパイス(毒草)が手に入りましたし」
「私は母上の待つ領地へ戻らねばならない。ここから半日ほどの『辺境都市エッジストン』だ。ロシュフォール家の屋敷があるのだが……」
ヤッコロが上目づかいでこちらを見てくる。
なんだ、ついて来てほしいのか、この女騎士。
仕方ない。話を合わせてあげよう。
「奇遇ですわね。私もそこへ向かうつもりでしたの」
ヤッコロがパァっと笑顔になる。
「本当か? ならば同行してくれ! 命の恩人をこのまま野放しにはできん。屋敷に来れば、礼も弾むぞ」
「お礼……お米ある?」
「もちろんだ」
米! 破綻道に欠かせぬ白銀の至宝!
「衣服も用意しよう。メシ子殿の美貌なら、きっとドレスも似合うぞ」
「おい初対面でツラの話すんなよ。コンプラ違反だぞ」
「コン……な、なんだ?」
あ、異世界人にルッキズムとか通じないか。
というか褒めてくれたんだから喜ばないとね。
「ありがと(はぁと)」
「あ、ああ……?」
怪訝な表情をしたヤッコロ。
すぐに黒焦げのイノシシを指さす。
「ところで……グランドボアはどうするんだ?」
あ、グランドボアって言うんだこのクソでかイノシシ。
「え、食べる?」
残ったタレマヨを差し出す。お肉に合うからね。
「い、いや。もうお腹がいっぱいだ。そうではなく、討伐の証となる牙などだ」
「え、いらないけど」
「あのクラスのボアを単身で討伐しておいて?! 名誉なことだぞ! 功名心がないのか?!」
「名誉ねぇ」
名誉じゃ腹は膨れないからね。
そもそも、下着でうろついてる追放令嬢に功名もクソもないでしょ。
「それに、素材を売れば金にもなる! A級冒険者のライセンスだってもらえるぞ!」
「冒険者ライセンス……?」
私が興味を示したからか、ヤッコロが畳みかけてくる。
「そうだ。いろいろと優遇されるし、より高度で危険な任務も受けられるようになる」
危険?
つまり、害意受け放題ってこと?
ポイント残高を確認する。
『ポイント:0ポイント』
稼がなきゃ……稼がなきゃ……!
危険な害意にさらされなきゃ!
「牙を持ち帰りますわよ!」
「協力しよう!」
「まかせましたわ!」
「ああ!……え?」
いや、元社畜の追放令嬢に動物解体とかできるわけないでしょ。
ヤッコロは手際よく素材を解体してくれた。
***
数時間後。
私たちは辺境都市エッジストンの城門の前に到着した。
ヤッコロは解体作業を終え、ボロボロになった銀色の鎧を再び身にまとっている。
対する私は、シュミーズとドロワーズ姿だ。
「止まれ!……ま、まさかヤツネお嬢様ですか!?」
門番の兵士が槍を下ろし、驚いた声を上げた。
さすが領主の娘。顔パスだ。
「ああ、ご苦労」
「なんと……お帰りが遅く、皆心配しておりました! 鎧がボロボロではないですか! 一体何が……」
「道中、グランドボアに急襲されてな」
「グランドボア?! ご無事で何よりです。さすがはお嬢様、見事討ち取られたのですね!」
門番が尊敬の眼差しを向けるが、ヤッコロは首を横に振った。
「勘違いするな。私が倒したのではない。ここにいるメシ子殿が、単身でボアを退け、私の命を救ってくれたのだ。彼女は私の恩人だ」
うんうん。
正確には宮廷魔術師の魔法が、だけどね。すごかったねあの炎。私アフロになっちゃったよ。
「えっ……? この、顔が真紫で、下着の奇人……失礼、こちらの御仁がですか!?」
門番が驚いて私をまじまじと見る。
そこで、彼の視線がピタリと止まった。
「……ん? ちょっと待ってください。そのシュミーズとドロワーズに刺繍されているのは……ロシュフォール公爵家の紋章と、お嬢様の名前!?」
門番が目を剥いた。
あ、これヤッコロの家の特注品だったんだ。見えないところにお金かけてるね。
「ヤ、ヤツネお嬢様……なぜこの方が、お嬢様の下着を……?」
「うっ……そ、それは、その……海千山千の事情があり……」
ヤッコロが冷や汗を流して言い淀む。
もごもごしてたら怪しまれるじゃないか。ここは私がフォローしてあげないと。
「ヤッコロにお借りしましたのよ」
「ヤッコロ? いや、お借りした……?」
門番の怪訝な表情を見て、女騎士が声を張り上げる。
「ち、違うぞ! 誤解だ! 私はちゃんと履いている! 今はしっかり履いているからな!」
「えっ? あ、はい。……履いて、おられるのですよね?」
「そうだ! 履いているぞ! 鎧の下は絶対に履いている!」
聞いてもないのに必死に「履いている」と連呼するヤッコロ。
門番は「なぜそんなに必死に……?」と、かえって疑心暗鬼の目を向けている。
ヤッコロの肩をポン、と叩く。
「……ヤッコロ。見苦しいですわ」
「おい! なんだその言い方は!」
「お嬢様、まさか……」
「だから履いてるんだって!」
「ロシュフォール家の名にかけて?」
「履いていることを誓う! ……って何を誓わせてるんだ!」
「つまり、履いてないのですか?!」
「履いてるんだってば!」
そこでヤッコロがハッと我に返る。
顔を抑えて崩れ落ちる。
「というか私は何を叫んでいるんだ! あ~~~~~ッ!」
『女騎士の羞恥を検知しました:500ポイント』
(おっ、ポイント入った。すまんね)
自爆とは言え、他人の尊厳を換金するなんて、なんて心が痛むスキルなんだろうか。
「だが、破綻道とはかくも厳しいのだ」
「くっ、破綻道、一体何なのだ……!」
「さ、案内してくださる? お母様の薬が一刻も早く必要なのでしょう?」
「うう……もうお嫁にいけない……」
「だからコンプラ気をつけろや。結婚だけが幸せじゃねぇんだよ」
ヤッコロは涙目で私を睨みつけながら、内股で城門をくぐった(履いてるのに)。
門番は訝し気な表情のまま、私たちの背中を見送っていた。
こうして私は、辺境都市エッジストンへと足を踏み入れた。
待ってろお米。待ってろ日本の心。
私の破綻道は、文明社会でも止まらない。
***
【今日の破綻ハック】
やあみんな! メシ子だよ!
パンツくらい履かない日だってあるよ!
今日のハックはこれ!
テッテレー!
★No.009『過剰防衛(自爆)』
材料:やましい心
効果: 否定はできる
代償: 逆に怪しまれる
破綻度: ★★★★★(墓穴)
「私のプリン食べた?」って聞かれただけなのに、つい「いやほんと違う! 私じゃない! 食べてない! 信じて!」って必死になりすぎて、逆に完全に犯人になるときあるよね!
自信を持って「食べてないよ」と一言いって去ろう!
だって落として食べられなかったからね!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「プリン(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




