生姜チューブで蘇生する
辺境都市エッジストン。
そのど真ん中にドカンとそびえ立つロシュフォール公爵邸は、控えめに言ってもガチの豪邸だった。
「お帰りなさいませ、ヤツネお嬢様! ……ひぃっ!?」
出迎えたメイドたちが、ヤッコロの姿を見て悲鳴を上げた。
敬愛するお嬢様がボロボロの鎧姿なのだ。何があったかと心配になるのは当然。
「あんなに驚いて。ヤッコロ、愛されてるんですわね」
「悲鳴はメシ子殿の見た目にだと思うが……」
「えっ」
お嬢様のシュミーズとドロワーズを着こなす、顔面真紫のド不審者(私)の参上に、屋敷は一瞬でパニック映画みたいになったけど、ヤッコロが「事情は後だ! 母上は!」と一喝すると、空気はピリッと引き締まった。
通されたのは、屋敷の奥にあるひたすら豪華な寝室。
天蓋付きのふかふかベッドには、一人のご婦人が横たわっていた。
顔面は雪みたいに真っ白。分厚い毛布に何重にも包まれてるのに、ガチガチと歯の根が合わないほど震えまくっている。見てるこっちまで寒くなりそうだ。
「母上……!」
ヤッコロがベッドに駆け寄る。
「おお、ヤツネお嬢様! それはもしや……!」
傍らに控えていた白髭の侍医が、ヤッコロの持つ草を見て声を上げた。
「幻の特効薬、『聖女の涙』! ……しかし、猛毒の『悪魔のヨダレ』かもしれません。今すぐ入念な鑑定にかけましょう!」
「必要ない。私が保証する。これは本物の『聖女の涙』だ」
ヤッコロが力強く断言し、チラりと私を見る。
うん。
冷静に考えて、森で出会った全裸女を信用するってヤバくない?
お母さまの命かかってるのよ?
ピュアすぎるヤッコロ、ピュッコロ大魔王かよ。
まあ、本当に正解だからいいんだけどさ。
「すぐに煎じてくれ! 母上を苦しみから救ってやってくれ!」
「承知いたしました! さっそく薬研にかけ、三日三晩、とろ火でじっくりと煮込みましょう!」
「三日だと!?」
ヤッコロが血相を変えて、侍医の詰め寄る。今にも胸ぐらを掴みそうだ。
「ひぃっ!? お、お嬢様!?」
「母上は今もこれほど苦しんでいるのだぞ! 三日も耐えられるわけがないだろう! 急を要するのだ、もっと早く効く方法はないのか!?」
「そ、そう申されましても……! この薬草は非常にデリケートでしてな。三日三晩かけてゆっくりと成分を抽出しなければ、本来の薬効は得られないのですじゃ!」
「くっ……! そんな……!」
ヤッコロが絶望に顔を歪める。
三日。丸三日だ。
その間、お母様はずっとこの冷凍庫みたいな体で苦しまなきゃいけないってこと?
それに……私の米もその間お預けになるよね?
人の命も、胃袋も、スピードが命なんだわ。
「お下がりなさいませ、ヤッコロ」
私は颯爽と二人の間に割って入った。
もちろん、シルクの下着姿のままでね。
「メ、メシ子殿……?」
「私に妙案がありますわ。お母さまの苦痛を一秒でも早く取り除き、活力を取り戻すための!」
「な、なんなのだ君は! そのふざけた格好で! 医術の素人が口出しするでない!」
「素人? いいえ、私は『破綻者』ですわ」
「はた……? 何だと?」
私は無駄に胸を張り、ベッドのお母様を見下ろした。
「私が今すぐ、その冷え切った体を内側から燃やしてさしあげますわ!」
私は空中にステータス画面を呼び出す。
ヤッコロの尊厳から生まれた、500ポイント。お母さまのために使わせてもらうぜ!
喚でよ!
「ハーターゾーーーーーンッ!」
ポーン。
ピシッ、メキメキメキッ……ドッッシャァァァン!!
「きゃあああああっ!?」
「て、敵襲ーーッ!?」
お屋敷の立派な天井が木端微塵に粉砕され、空から巨大な段ボール箱が寝室のど真ん中にドッシーン!と墜落した。
舞い散る瓦礫と木片。ごめんね天井。あとでダンボール(高性能)で直すから。
私は埃を払いながら、ハタゾンの箱を颯爽と開封した。
「お待たせいたしましたわ」
手にしたのは、黄金色に輝く円筒形のパッケージ。
「な、なんじゃそれは! 天井に穴が……!」
侍医が腰を抜かしているのを華麗にスルーして、私はベッドのお母様に馬乗りになった。
さすがにヤッコロが止めに来た。
「め、メシ子殿、母上に何をする気だ!」
私は、まっすぐにヤッコロを見つめる。
「ヤッコロ」
「な、なんだ?」
「破綻道を、信じて」
「は、破綻道を……」
私の言葉に、目をぐっと閉じたヤッコロ。
やがて小さく息を吐く。
「メシ子殿は、奇妙な髪形で、火だるま状態で現れ、そのあと全裸になり、私の貞操を奪った」
冷静に考えてヤベーな私。信じてもらえる要素ゼロ。
でも貞操は奪ってないから。奪ったのは下着までだから。
「だが、赤の他人である私のためにグランドボアに立ち向かい、さらに毒をいとわずこの『聖女の涙』を見つけてくれた」
お、いい感じの流れ。
ヤッコロが力強く私を見返してくる。
「信じよう! メシ子殿を。そして、破綻道を!」
いや、信じるなよ。
なんだよ破綻道って。
まあいいや。進めよう。
「お母さまの容態は『冷え』! そして、『冷え』にはこれですわ!」
そう、黄金色に輝く円筒形。
『おろし生姜チューブ』だ! しかも業務用(1kg)。
風邪を引いたらコイツを一気飲みする。
それが私の破綻のアンサーなのだった。でも真似すんなよ!
生姜チューブの新品のシールをピリッと剥がし、キャップを開けた。
ツンと鼻を突く、大地の力強い香り。これぞジンゲロールとショウガオールの生命の結晶。
私は震えるお母様の顎をガシッと掴み、無理やり口をこじ開けた。
ごめんね、ちょっと荒療治だよ!
「命を、燃やせぇぇぇぇ!」
業務用チューブの先端を口内へ向け、両手で思いっきり握り潰す。
——ビュルルルルルルッ!!
「あがっ!? んぐっ!?」
黄金色のペーストが、お母様の喉の奥へと直接流し込まれていく。
手加減一切なしの、ダイレクト・ジンジャー・チャージだ。
「頼む……! 破綻道……そしてメシ子殿ッ!!」
「あ、お医者さんは『聖女の涙』準備しててね」
「あ、は、はあ」
こういうのは所詮民間療法だからね。
メシ子は、医学的な治療を推奨いたします。
チューブの半分(約500g)を絞り出したところで、お母様の体に異変が起きた。
ガチガチと震えていた体が、ピタリと止まる。
そして。
「カッ……!!」
お母様の両目が、限界まで見開かれた。
「カァァァァァァァッ!!? カ、カラァァァァッ!! 熱い! 喉が、胃袋が焼けるぅぅぅぅッ!!」
お母様がベッドからバネみたいに跳ね起きた。
さっきまで顔面蒼白だった肌は、一瞬にして茹でダコみたいに真っ赤に染まっている。
全身の毛穴からは、滝のような汗が噴き出していた。
デトックス効果、半端ないね。
「はぁっ! はぁっ! み、水を! お水をちょうだい! あと……なんだか無性にお腹がお空いたわ! お肉よ! お肉を持ってきなさい!!」
さっきまで死にかけていたご婦人が、毛布を蹴り飛ばし、部屋中に響き渡る大声で叫んだ。
見てよ、この生命力の大爆発。
致死量スレスレの生姜の刺激が、奇病のウイルスを物理的に焼き殺したってわけだ。
「は、母上……!? 治ったのですか……!?」
「ば、馬鹿な……唯一の特効薬を使わずに……これが破綻道……!」
ヤッコロと侍医が、信じられないものを見る目で私と生姜チューブを交互に見ている。
私は半分空になったチューブをポイッと放り捨て、乱れたシュミーズをシュバッと直した。
そして、優雅にカーテシーをキメる。
(マジで治ると思わなかった)
異世界人ってすごい。
***
【今日の破綻ライフハック】
やあみんな! メシ子だよ!
生姜って身体にいいんだって! いかにもそんな見た目してるよね!
今日のライフハックはこれ!
テッテレー!
★No.0011『つらい風邪に生姜チューブ』
材料: 生姜チューブ、勢い
効果: 一瞬だけ命が燃える
代償: 喉と胃も燃える
破綻度: ★★★☆☆(民間療法)
風邪がつらいときには生姜がいいよ!
おすすめはチューブ直!
エナドリ感覚でグビッといけちゃうよ!
用法用量を守ってね! そして医者行け!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「チューブ(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




