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ギルドのチンピラからカツアゲ

 ヤッコロのお母さまの奇跡の回復劇を追えたその足で、冒険者ギルドに来た。

 グランドボアの素材を早く換金したいし、冒険者ライセンスも欲しいからね。


 分厚い木製の扉を押し開けると、むさ苦しい熱気と、安い酒と、血と汗の匂いが押し寄せてきた。


「ふふっ……」


 私は思わず笑みをこぼした。

 荒くれ者たちが集う危険な場所。

 害意をハタゾンポイントに変える私にとって、ここは『ポイント採掘場』だ。


 私が一歩足を踏み入れた瞬間、ギルド内の喧騒がピタリと止まった。


 無理もない。

 片や、激戦を物語るボロボロの鎧を着た女騎士。

 片や、キャミとかぼちゃパンツだけを身にまとった顔面真紫女(私)。

 ツッコミどころの過積載だ。


 静まり返るギルド。

 やがて、一番近くのテーブルで安いエール(麦酒)を飲んでいた、顔に傷のある大柄な男が立ち上がった。


「おいおい……ここは貴族のお嬢ちゃん……え、お嬢ちゃん?」


 私の顔色を見て、一瞬男がハテナマークで埋め尽くされる。

 が、すぐに気を取り直したかのように言葉を続ける。


「貴族のお嬢ちゃんが、下着姿で……え、なんで下着……?


 再度男がハテナマークを顔に浮かべる。だが、すぐテンプレ通りの言葉を放つ。


「ともかく、お嬢ちゃんが来るような場所じゃねぇぜ?」


 男が下品な笑みを浮かべ、仲間たちも下卑た笑い声を上げる。


「金持ちの道楽か? それとも頭がおかしいのか? どっちにしろ、俺たちがたっぷりと『冒険者のルール』ってやつを教えてやろうか、ゲヘヘ」


 ちゃんとテンプレ遂行できて偉いね。

 教科書に載せたいほど完璧な、見事なまでのチンピラムーブ。


『害意(嘲笑・劣情)を検知しました:30ポイント』


 チャリン。

 脳内で心地よい音が鳴る。

 来た! 不労所得!


「貴様ら、この御仁は単身でグランド……」

「ヤッコロ、手を出してはいけませんわよ。これは私の戦いですわ」


 私は止めに入ろうとしたヤッコロを手で制し、チンピラに向かって優雅に一歩踏み出した。


「素晴らしいご挨拶ですわね、殿方。もっとですわ。もっとその汚らしい瞳でわたくしを舐め回し、蔑みの言葉をぶつけてくださいませ!」

「……は?」


 チンピラの顔から笑みが消えた。


「さあ! 遠慮はいりませんわ! なんならその薄汚い拳で、わたくしの頬を全力で殴り飛ばしてごらんなさい! 殺す気で来てくださいませ!」


 私は両手を広げ、ノーガードで男に歩み寄る。

 カモン、バイオレンス。

 カモン、ボーナスポイント。


「来いオラッ! 来いッ!」

「ひっ……な、なんだこいつ……狂ってやがる……」


 チンピラが恐怖で顔を引きつらせ、後ずさりした。


『害意が困惑と恐怖に変わりました。ポイントの取得を停止します』


 ……あ?

 停止?


「はぁ? ポイント止まったじゃねーか!」


 私は激昂した。

 せっかくのボーナスステージだというのに、こんなところで逃がすわけにはいかない。


「おいコラ! やれっつってんだろ! 口だけじゃなくてさっさと手ェ出せや! 殴れ! 私を殴れぇぇ!」

「ヒィィィッ!? す、すんません! 俺が悪かったです!」


 私が鬼の形相になりながら胸ぐらを掴みに行くと、大柄なチンピラは涙目で土下座した。

 おいおい、嘘でしょ。

 ガタイの良さとその顔の傷は飾りかよ。


「チッ……使えねぇな」

「やめろメシ子殿! 泣いているだろう!」


 ヤッコロが慌てて私を引き剥がす。


 私は打ち捨てるように男を解放した。


「オイ! ほかに骨のあるヤツはいねぇのか?!」


 周囲を見渡す。

 ギルド中の冒険者たちが、ガクガク震えながら壁際に避難していた。

 これでしばらく、誰も私に害意を向けてはくれないだろう。大損害だ。


「はぁ、萎えましたわ……。おや?」


 ふと見ると、男が座っていたテーブルに、酒のボトルが置かれていた。

 中には、彼らが飲んでいた安いエールが残っている。


 私はカウンターからジョッキを手に取り、エールを注いだ。


 ツンと鼻を突く、粗悪なアルコールの匂いと、酸いような発酵臭。

 お世辞にも上品とは言えない。

 だが、私にはわかる。これこそが、労働者の血肉となる「生きた酒」だ。


「おい、何を……」


 ヤッコロが見守る中、私は懐から業務用マヨネーズを取り出した。

 キャップを開け、エールに向かって絞り出そうとする。


「ま、待て! 正気か!?」


 ヤッコロが慌てて止めた。


「酒にそんな脂の塊を入れたら、分離してドロドロの油が浮くだけだぞ! 人間の飲み物じゃなくなる!」

「素人ですわね、ヤッコロ」


 私は優雅に微笑んだ。


「アルコールは『(から)のカロリー』と呼ばれていますわ。つまり、飲んでも力にはならない。そこにマヨネーズの『物理的なカロリー』を添加することで、真の完全飲料(エナジードリンク)へと昇華するのですわ」

「エナ……なんだって?」

「それに、強烈な油分が胃の粘膜をコーティングし、悪酔いを防いでくれますのよ。これはもはや、酒場における医療行為ですわ」

「そ、そうなのか? それも破綻道なのか?!」


 頭を抱えて悩んでいるヤッコロは放置。

 琥珀色の安酒に、白い油分の塊を投下する。


 ——ビュルルッ。


 そして、備え付けのマドラー(ただの木の棒)で親の仇のようにかき混ぜた。

 油と水分が強制的に混ざり合い、暴力的な『乳化』が引き起こされる。


「完成ですわ。『労働者の汗と涙のマヨ・カクテル』」


 私は濁った白い液体を、一気に喉へと流し込んだ。


 ごきゅっ、ごきゅっ。

 ……ぷはぁっ!


「最高-ッ!」


 喉を焼く粗悪なアルコールの刺激。

 それをマヨネーズの酸味と暴力的な油分が、強引に包み込んでいく。

 ただの安酒が、まるで濃厚なクリームリキュールのような、圧倒的なパンチ力を持った液体へと昇華されている。


 異世界よ、これが文明だ。

 これが破綻道だ。


「な、なんだあの謎の白いドロドロは……?」


 荒くれものめ、無粋なことを言う。

 きちんと訂正するぞ。


「謎ではない。企業努力の結晶だ」

「ヒッ……こっち向いた!」

「バカッ! 音を立てるんじゃねぇ!」


 完全に猛獣とか怪異に対する反応じゃねーか。

 ギルドの空気が、困惑から恐怖に変わるのを感じた。


「あ、あの……ご、ご用件を伺います……」


 カウンターの奥から、受付嬢が震える声で話しかけてきた。

 私はウェットティッシュで優雅に唇の端のマヨネーズを拭うと、受付へと向かった。


「ええ。換金と、冒険者登録をお願いしますわ」


 ヤッコロが、背負っていた袋から「グランドボアの牙と毛皮(一部黒焦げ)」をカウンターにドンッと置く。


「ひっ! こ、これは……グランドボア!?」


 受付嬢が目を見開いた。


「しかも、この見事な熱処理……熟練の魔法使いによる討伐ですね!? す、素晴らしい素材です! すぐに査定いたします!」


 そうだね。宮廷魔術師の炎で焼いたからね。

 あとでお礼しにいかないとな。


 数分後。

 カウンターには、ずっしりと重い皮袋が置かれた。


「査定額、金貨12枚となります」


 ギルドがざわつく。


「き、金貨12枚だって?!」

「しばらく遊んで暮らせる額じゃねーか!」


 金貨かぁ。


「それ、ハタゾンだと何ポイントくらい?」

「ハタ……? え、と、こちらが、A級のハンターライセンスです」

「このカードってポイントつく? 還元率どのくらい? ちな1%いかな話にならんよ」

「え、ぽ、ぽいん? え、えーと……」


 そこで、ヤッコロにカウンターから引きはがされる。


「すまん。この御仁は遠い国から来たものでな。さあ! 屋敷に戻るぞ!」

「あ、騒がせたね、お嬢さん。迷惑料だ」


 金貨1枚をピンッと指ではじく。


 ドボッ


 あらぬ方向に飛んでって、さっき飲み残したマヨ酒にインした。


「……」

「……」


 珍妙な空気の中、ジョッキから金貨を取り出し、ウェットティッシュで拭く。


「迷惑料だ」


 改めてカウンターに金貨を置く。


「えっ、あ、はあ……えっ、こんなに? えっ、受け取れません!」


 あまりの出来事に感情がぐちゃぐちゃになっている受付嬢をしり目に、引きずられるようにギルドを後にした。



***


【今日の破綻飯】


 やあみんな! メシ子だよ!

 お酒はハタチになってから!


 今日のメニューはこれ!


 テッテレー!


★No.0010『パーフェクト・カロリー・ドリンク』

 材料: 安酒、マヨネーズ

 調理時間:10秒(混ぜるだけ)

 破綻度: ★★★☆☆(理屈だけは通ってる)


 アルコールって「空のカロリー」って呼ばれるらしいよ! 気分は上がるのに、お腹は埋まらないんだって!

 だったらガチのカロリーを出せば、パーフェクトになるってこと!

 ただし、完成するのは飲み物じゃなくて破綻だよ!


 それじゃあ、またね!


 「高評価」と「完全飲料(お気に入り登録)」よろしく!


 ハタンキュ~(挨拶)

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