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毒草をマヨでキメる

 翌朝。

 ハタゾン・ハウス(ダンボール)の寝心地は最高だった。

 エアクッションの弾力。遮音性。完璧なプライベート空間。


「ふわぁ……よく寝ましたわ」


 私は大きく伸びをして、ダンボールから這い出した。

 横では、女騎士がまだ丸まって寝ている。


「新しい朝が来ましたわよ。希望の朝ですわ!」


 私は彼女の頬をペチペチと叩いた。


「ん……うぅ……はっ!?」


 女騎士が飛び起きた。


「す、すまない。あまりに快適でぐっすり眠ってしまった……」

「さすがハタゾン・ハウスですわ」


 そこで、女騎士が私の顔を見て驚く。


「き、貴殿、髪が……」

「え? ああ、もとに戻ってますわね」


 アフロ、寝たら戻ってた。よかったよかった。


「サラサラのロングヘアじゃないか! あの状態からなぜ?!」

「育ちがいいからですわ」

「育ちが?! 育ちで?!」


 女騎士が「うらやましい……だが私も育ちは悪くないはず……であれば……」となんかブツブツつぶやきだした。何こいつ、怖。


 てか、お互いの名前も知らないんだった。朝食代わりの「追いマヨ乾パン」をかじりながら、女騎士に話しかけた。


「そういえば、自己紹介がまだでしたわね。私はメシ子。過去を捨てた破綻者(はたんもの)。トキシック・サバイバーですわ」


 優雅にカーテシーをキメる。スカートないけど。


「トキシ……? い、いや、私のほうこそ、命の恩人に名を名乗るのを忘れていた。大変失礼した」

「え、野生のくっころさんですわよね?」

「昨日から言っているが、その『くっころ』というのは何なんだ……?」


 いや、自分で言ってるでしょうが。

 まあ前世のスラングを説明するのも野暮なので、適当にヘラヘラしてごまかしておこう。


「ヘラッ、ヘラッ」

「なぜ笑っている……まあいい」


 女騎士が立ち上がり、胸を張った。

 その瞳には確かな誇りが宿っている。理想の騎士って感じだ。


「私の名は、ヤツネ・コレット・ロシュフォール。ロシュフォール公爵家の長女にして、王宮騎士団の第三席だ」


 えっ、公爵家?! 王宮騎士団?!


「なるほど、道理で……」

「何がだ?」

「いえ、髪が……」


 ヤツネ嬢の頭には立派な三本のアホ毛が生えていた。第三位だから三本のアホ毛、わかりやすい。


「王宮騎士団の序列はそのように(アホ毛で)表すのですね」

「ん? ああ。第一席、第二席となっている。現在の末席は第十八席だ」


 その人は十八本アホ毛が生えてるってこと?!


「うわぁ。それは早く序列を上げたいですわね」

「ああ、皆第一位を目指して切磋琢磨している」


 三本のアホ毛も心なしか誇らしげだ。


「てか野生のくっころさん、騎士のうえに良家のお嬢様だったのですわね。ノーパンなのに」

「もう着ている! それに『野生のくっころ』ではない! ヤツネ・コレット・ロシュフォールだ!」

「ヤツネ・コレット・ロシュフォール……」

「そうだ。ヤツネと呼んでくれ」


 待てよ……?

 『ヤツ』ネ・『コ』れっと・『ロ』シュフォール…… 

 『ヤツ』『コ』『ロ』……

 

 ヤッコロ?


「おい! やっぱり野生のくっころじゃねーか!」

「何がだ?!」

「ヤッコロさんとお呼びしますわね」

「なんでだ?!」


 ヤツネ改めヤッコロは、頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「はぁ……もういい。好きに呼べ……。それより、急がねばならないんだ」

「急ぐ? なぜ?」

「母上の薬だ」


 ヤッコロが言うには、彼女の母親が奇病にかかっており、その特効薬となる薬草がこの森にしか生えていないらしい。

 だから危険を顧みず、単身で森に入ったのだとか。


「その薬草の名前は?」

「『聖女の涙』だ。白い花弁に、ギザギザの葉を持つ」

「へぇ。見つかりましたの?」

「それが……」


 ヤッコロが苦渋の表情で、腰のポーチから数本の草を取り出した。

 どれも同じに見える。白い花に、ギザギザの葉。


「この森には、『聖女の涙』と瓜二つの猛毒草、『悪魔のヨダレ』が群生しているんだ。見た目では区別がつかない。市場に出回っているのも偽物ばかりで……」

「なるほど。ロシアンルーレットってわけですわね」

「ロシ……? ともかく、鑑定にも時間がかかる。母上は一刻を争うのだ。私が鑑定眼を持っていれば……」


 私は草を受け取り、しげしげと観察した。

 確かに同じに見える。

 植物図鑑があっても無理ゲーだ。


 でも、私には最強の鑑定スキルがある。


「任せなさい。私が鑑定してさしあげますわ」

「鑑定スキル持ちなのか?!」

「いいえ。絶対味覚(ジャンク・タン)ですわ」


 私は躊躇なく、一本目の草を口に放り込んだ。


「な、何をしている! 毒だったら死ぬぞ!」


 ヤッコロが止めようとするが、もう遅い。

 私は草を咀嚼する。


 もぐもぐ。

 ……ペッ。


「こいつ、『整えて』きやがる!」


 私は吐き出した。

 健康に良さそうな、なんともいえない苦味。

 シムラ漢方の27番みたいな味だ。


「これは『聖女の涙(薬)』ですわ。私には無用の長物……あげますわ」

「た、食べただけで分かるのか……?」

「次」


 私は二本目を口に入れた。


 もぐもぐ。

 ……ビリビリッ!!


 来た。これだ。

 舌を刺すような強烈な痺れ。

 喉が焼けるような刺激。

 脳髄に直接響くような、ケミカルな警告信号。


「んんっ……!」


 私は恍惚の声を漏らした。


「これですわ……この刺激……!」

「だ、大丈夫か?! 顔が真紫になったぞ!?」

「これは『悪魔のヨダレ(毒)』ですわ。素晴らしい。舌が麻痺するほどのスパイス感」


『害意ダメージ(毒)を無効化しました』

『対価として1ポイントを獲得しました』


 えっ! こんな素晴らしいものを食べて、さらにポイントももらえるの?!

 ひゃっほー! 500本食べればマヨ確じゃん!


「盛り上がってまいりましたわ」


 森に出る。

 生えている草を片っ端から齧っていった。


「整う。薬草。ヤッコロにあげます」

「破綻。毒草。私がもらいます」

「整う。薬草。いらない」

「痺れる。毒草。最高」


 数分後。

 ヤッコロの手には山盛りの薬草が。

 私の手には山盛りの毒草が握られていた。


「信じられん……毒草を平気で食べている……顔は真紫なのに……」

「何ドン引きしてんだ。おめーのお母さまのためだろうが」

「す、すまない。そうだったな」


 それに、私にはこれがあるのだ。


「テッテレー。マヨネーズ~」


 私は毒草の束に、懐から取り出したマヨネーズをたっぷりとかけた。


「見てなさい。この毒草のピリピリ感は、マヨネーズの油分でコーティングすることで、マイルドな旨辛に昇華されるのですわ」

「無毒化されるということか……?」

「そうですわ」

「す、すごいのだなその『マヨネーズ』というやつは」


 いや信じるのかよ。みんなは道端であった下着女の言うことは信じちゃダメだよ。


 ともかく。


「いただきます」


 パクッ。

 マヨネーズまみれの毒草を食べる。


「……感謝……ッ」


 両手を合わせて涙する。

 これだ。これなのだ。

 相反する最強がぶつかり合い、さらなる高みに至る。

 味のアウフヘーベン。真実への到達。


 ヤッコロが驚愕の表情で見ている。


「全身火だるまでワイルドボアを倒し、毒草を無毒化して食す……破綻者(はたんもの)とは一体何なのだ……」

「破綻とは、生活を捨てたものだけが至れる境地也」


 ともあれ、これでお母様の薬は確保できた。

 ミッションコンプリートだ。


***


【今日の破綻飯】


 やあみんな! メシ子だよ!

 冷蔵庫の奥で、溶けかかった野菜を見つける日ってあるよね!


 今日のメニューはこれ!


 テッテレー!


★No.0008『溶解野菜にマヨかけたやつ』

 材料: 溶解野菜、マヨネーズ

 調理時間:5かけるだけ

 破綻度: ★★★☆☆(味は救えても鮮度は救えない)


 溶けかかった野菜も、マヨネーズをかければだいたい食べ物になるよ!

 ちょっと液が染み出してるくらいなら、コクで押し切れるからね!

 でも普通に腹は壊すから、消費は計画的にね!


 それじゃあ、またね!


 「高評価」と「鮮度(お気に入り登録)」よろしく!


 ハタンキュ~(挨拶)

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