マヨネーズで騎士の誇りを汚す
数分後。
森の中に、黄金タッグが完成した。
一人は、銀色の鎧を着た女騎士。ただし、ノーパン。
もう一人は、元・公爵令嬢の私。騎士からご厚意でいただいたシルクのキャミソールとかぼちゃパンツを装着済みだ。
「ふぅ……」
私は白い布の感触を確かめて、満足げに息を吐いた。
若干サイズが大きいけど、紐でしばればなんとかなる。
「素晴らしいフィット感。守られている安心感。これでわたくしも社会復帰ですわね」
「……スースーする」
女騎士が内股になりながら、涙目で震えている。
「心許ない……鎧を着ているのに、まるで全裸で戦場に立っている気分だ……」
「気のせいですわ。観測されるまでは穿いてるのと同じことですもの」
「言ってる意味はわからんのに、なぜか説得力があるのはなんなんだ……」
まあ天才物理学者の発想だしね。
さて、衣食住の「衣」は(私の分だけ)解決した。
次は中断していた「食」だ。
私は切り株のうえの「ダンボール皿」を見た。
そこには、タレと肉汁を吸って茶色く染まった乾パンが鎮座している。
この絵面。さながら「味の染みた宝石」だ。
でもさ、なんか足りないよね。
画竜点睛を欠くっていうか。
私はハタゾンを開いた。
さっき、女騎士の罪悪感から巻き上げた500ポイントがある。
(マヨネーズ。業務用。購入!)
ポーン。
空から巨大な影が落ちてくる。
——ズドォォォォン!!
地響きと共に、私の身長ほどもある「巨大なダンボール箱」が着地した。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
女騎士が剣を構える。
けど敵じゃないよ。
私は慣れた手つきで箱を開封した。
箱の中には、大量の緩衝材。
そしてその中央に、ポツンと鎮座する「業務用マヨネーズ(1kg)」。
「ちっさ!」
女騎士がツッコんだ。
「箱に対して中身が小さすぎるだろ! なんだこの無駄な空間は!」
「素人ですわねぇ、騎士さん。これは『過剰包装』っていうサービスですのよ。おかげで中身は無傷なのですわ」
私はマヨネーズを取り出し、頬ずりした。
会いたかった。私の恋人。
「ん?」
箱の底に「おまけ」がある。
「こ、これは! 除菌ウェットティッシュ!」
除菌ウェットティッシュ。
それは、手の汚れから顔の油まで、あらゆるものを無に帰す最高のギア。
さすがハタゾン。気が利いてる。
私は一枚取り出して、木の枝で作った箸と、自分の手を丁寧に拭いた。
ハタゾンダンボールの抗菌仕様と合わせて、完璧な衛生環境が整った。
「よし」
私はマヨネーズのキャップを開ける。
銀紙を剥がす。
そして、茶色い乾パンの海に向けて、思いっきり絞り出す。
——ビュルルルッ。
茶色いドロドロに、白いドロドロをオン。
酸味の効いた香りが、醤油ダレの香ばしさと混ざり合う。
カロリーとカロリーの魔融合だ。
そのビジュアルは、背徳的であり、暴力的であり、そして何より美しい。
プラモでは意図的な『汚し』をウェザリングというらしい。
じゃあこれは『マヨリング』だ。
「完成ですわ……」
私は震える声で言った。
「名付けて、『騎士の誇りをドロドロにしたやつ』」
「名前に悪意しかないぞ!?」
私は箸で、マヨネーズとタレが染み込んだ乾パンを摘まみ上げ、口に運ぶ。
「……んん~~~ッ!!」
キマるわーこれ。
タレの塩分。肉汁の旨味。乾パンの糖質。
そしてそれらを全て包み込み、パワープレイでまとめ上げるマヨネーズのコクと酸味。
ウマすぎ。暴力。
異世界よ、これが「文明」だ。
管理された化学調味料のシンフォニーだ。
「最高……」
私は恍惚の表情で咀嚼を続けた。
横で見ていた女騎士が、ごくりと喉を鳴らす。
「……そ、そんなに美味いのか?」
「あら? 召し上がります?」
私は食べかけのドロドロ(箸上げ状態)を差し出した。
このドロみこそが破綻道。咀嚼しなくていいからね。
「うっ……見た目の威圧感がすごいな……」
「何を仰いますの。元は貴女のパンでしょう? 責任もって召し上がって?」
「せ、責任……」
女騎士は躊躇していたが、空腹と責任感には勝てなかったらしい。
恐る恐る、口を開けてパクリと食べた。
もぐもぐ。
……ピタリ。
彼女の動きが止まる。
カッ! と目が見開かれる。
「……っ!?」
「どうです? 最高しておりまして?」
「……なんだこれは……!?」
女騎士が愕然としている。
「硬くて味気ない乾パンが、まるで濃厚なシチューを含んだパンのように……いや、もっと背徳的な……貴族の宴でも出ないような、濃密な味がする……」
「マヨネーズは偉大なのですわ。さあ、もっとマヨしてさしあげますわ」
「くっ……もっとだ! もっとかけろ!」
結局、私たちは二人で乾パンを貪り食った。
あっという間に完食。
お腹いっぱい。
気づけば、森には夜の帳が下りていた。
「さて、お腹いっぱいになったし寝るとしますわ」
「待て待て。野営の準備もなしにか?!」
女騎士が慌てている。
「火もないし、せめて風除けがないと凍え死ぬぞ」
そういえば下着だった。確かに肌寒い。
けど問題ない。
「大丈夫ですわ。家ならありましてよ」
私は、さっきマヨネーズが入っていた「巨大なダンボール箱」を指さした。
「ハタゾン・ハウス(1R)ですわ」
「ただの紙箱に見えるのだが……」
「失礼ですわね。防火・防水・防風・高断熱。しかも緩衝材のベッド付きですわよ。そこらの安宿より快適ですわ」
そう言って緩衝材のうえにダイブする。
──バスーン!
「なんだ?! 爆裂アイテムか?!」
「……」
盛大な音を立ててエアクッションが破裂した。
さすがにダイブは無理があったか。
良い子は真似するなよ!
ともあれ過剰包装のおかげで、人間二人が余裕で入れるサイズがある。
ナイフで即席の入り口をつくって、箱の中にエアクッションを丁寧に敷き、ベッドと枕を二組用意する。
「さあ、鎧を脱いでこちらにおいで……」
「え、私も入るのか?! 本当にそこで寝るのか?!」
「イヤなら無理にとは言いませんわ。あー快適だなー」
「くっ……入る! 入れろ! え……あったか」
こうして私たちは、巨大なハタゾンの箱の中で、身を寄せ合って一夜を明かすことになった。
ちなみに女騎士は替えの下着持ってたよ。良かったね。
***
【今日の破綻飯】
やあみんな! メシ子だよ!
味が濃すぎる時って、白いもので全部なかったことにしたくなるよね!
今日のメニューはこれ!
テッテレー!
★No.0007『つけ置き乾パンにマヨかけたやつ』
材料: つけ置き乾パン、マヨネーズ
調理時間:10秒
破綻度: ★☆☆☆☆(調味料かけただけ)
茶色いものに白いものをかけると、だいたい勝ちだよ!
カロリーアップで明日の活力になるよ!
でも、マヨに依存するのはほどほどに!
味はまとまっても、人生はまとまらないよ!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「マヨリング(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




