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段ボールを着て料理をする

 森の中。そして、ジビエの丸焼き(でかイノシシ)。


 美味い。

 たしかに美味い。

 でも、食べているうちに、私の体に異変が起き始めた。


「……んぐっ」


 喉が詰まるような感覚。

 胃がびっくりしている。

 肌がムズムズする。


(……丁寧(せいかつ)がすぎる!)


 気づいてしまった。

 このイノシシの肉、ちゃんとしすぎている。


 前世からの社畜生活。

 そして、ここ数日のハタゾン生活。

 私の体は「破綻飯」に最適化されてしまっている。

 まともな食事を過剰摂取すると、体が拒絶反応(好転反応?)を起こすらしい。


「うう……ケミカルが欲しい……」


「お、おい? 大丈夫か? 毒でもあったか?」


 女騎士が心配そうに覗き込んでくる。

 毒じゃない。健常という名の猛毒だ。


 私は肉を食べる手を止めた。

 ふぅ、と息を吐く。


「食べます?」

「は?! い、いや、うまそうだが……」


 すると、女騎士が私の全身を見て、真っ赤な顔で叫んだ。


「と、というか貴殿! その恰好!」

「ん? なんですの?」

「全裸じゃないか! 何があった!」


 そういえばそうだった。

 説明するのも面倒だし、とりあえずヘラヘラしておこう。


「ヘラッ、ヘラッ」

「な、なぜ笑う? だ、だが事情があるのだろう」


 そこで女騎士は自分のマントを破いた。


「これを使え。少しはマシだろう」


 優しい。ノブレス・オブリージュってやつだね。

 でも問題ない。


「心配にはおよびませんわ」

「な、なんだと? どういうことだ? 全裸なのに?」


 私は立ち上がり、足元に転がっていた「ハタゾンの空きダンボール」を拾い上げた。

 さっきタレが入っていたやつだ。


「生活は破綻しても、社会には適応せよ」

「は?」

「しっかり正装いたしますわよ」


 私は段ボール箱を逆さまにして、頭からすっぽりと被った。


 ——ズボッ。


 上半身が箱に収まる。

 箱人間。


「な、なんだその奇行は……」


 女騎士が呆然としている隙に、私はしゃがんで箱の中で気合を入れた。

 ここだ。ここから手足を出す!


「ぬんッ!」


 ——ズボォッ!! バリィッ!!


 私は内側から段ボールを突き破り、両手と頭を外に出した。


「なんか出たぁぁぁッ!?」


 女騎士が悲鳴を上げて後ずさる。

 ふふん、驚いたか。


「これが新装備、『ハタゾン・リバース』ですわ」

「ハタ……何を言っている?」

「どうかしら? これなら文句ないでしょう」

「……あ、ああ。まあ、隠れてはいるが……」


 女騎士は疲れた顔で頷いた。

 よし、衣食住の「衣」は解決した。

 次は「食」の改善だ。


 ジビエ肉じゃない。

 もっとこう『生活の終焉』が感じられるナイスなものを……


 私は女騎士の荷物袋をじっと見た。


「ねえ、野生のくっころさん。なにか食べるもの持ってないかしら?」

「え? あ、ああ……これはあるが」


 彼女が取り出したのは、石のように硬い「乾パン」だった。

 軍用の保存食だ。味気ないやつ。


 つまり、最高じゃん。


「それだ! それちょうだい!」

「いいが……硬いぞ? 水で戻さないと……」


 私は乾パンをひったくると、さっき着た段ボールの「フタ部分(余り)」をちぎり取った。

 それを指でギュッギュと押し込む。

 耐火・耐水仕様の即席紙皿の完成だ。


 ハタゾンの段ボールは優秀だなぁ。

 なんならきっと抗菌効果だってついてるに違いない。


 私は段ボール皿に、イノシシから溢れ出た肉汁と、残ったタレを注ぎ込んだ。

 乾パンを浸す。


「ああっ!? なにをする! 汚い!」

「あ? 汚くないわ。企業努力の結晶だぞ? 黙って見てろや」


 私は乾パンが汁を吸うのをじっと待つ。

 1分、2分、3分……。

 カチカチだった乾パンが、茶色い汁を吸ってふやけていく。


「……よし」


 私はふやけた乾パンを拾い上げた。

 ドロドロのブヨブヨ。

 最高の見た目だ。


「なんてことかしら……私、料理してる……丁寧~」

「料理なのかそれは……?」

「失礼ですわね。時間を置くことで味が染みる。調理工程を経た立派な料理ですわ」

「そ、そうなのか? 私がおかしいのか?」

「いただきます」


 混乱している女騎士を放置して、私はブヨブヨの乾パンを口に放り込んだ。


 ……じゅわっ。

 口の中で広がる、小麦の甘味と、タレの暴力的な塩分。


「いい……」


 これだ。この感じ。

 胃が落ち着いていくのが分かる。


 でも、一つだけ足りないものがある。


(マヨネーズだ)


 この醤油ベースの味には、マヨネーズのコクが必要だ。

 そうすればこの料理は完全体になる。

 タレだけじゃ、ちょっとしょっぱいんだよね。


 私はハタゾンを開く。

 残高確認。


『現在ポイント:0ポイント』


 ……詰んだ。

 さっきタレを買ったから、すっからかんだ。


 稼がなきゃ。

 目の前には、手負いの女騎士。

 イノシシはもういない。

 つまり、殴ってくれるのは彼女しかいない。


 私は女騎士に詰め寄った。

 ダンボールを着たまま。


「ねえ、野生のくっころさん」

「な、なんだ」

「その剣で、私を斬ってくれませんこと?」

「はあぁぁッ!?」


 女騎士が素っ頓狂な声を上げた。


***


【今日の破綻飯】


 やあみんな! メシ子だよ!

 硬すぎてそのままじゃ食べる気がしないものって、たまにあるよね!


 今日のメニューはこれ!


 テッテレー!


★No.0005『乾パンのつけ置き』

 材料: 乾パン、肉汁、焼き肉のタレ

 調理時間:3分(待つだけ)

 破綻度: ★☆☆☆☆(ちゃんとした料理)


 硬いパンも、汁に沈めておけばだいたい優しくなるよ!

 肉汁とタレを吸わせれば、気分はもうフレンチトースト(概念)!

 食えない時間が、味を育てるんだね!


 それじゃあ、またね!


 「高評価」と「つけ置き(お気に入り登録)」よろしく!


 ハタンキュ~(挨拶)


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