火だるまで巨大豚に突っ込む
王都を追い出されて、数時間。
私は森の中を歩いていた。
現在、深刻な問題が発生している。
お腹が空いた?
いや、それもあるけど、もっと根本的な問題だ。
(……没収された)
悔やんでも悔やみきれない。
マヨネーズとめんつゆのことだ。
あれは昨日のこと。
水攻めの後、牢屋に戻される際に、看守たちに取り上げられたのだ。
「特級呪物だ」「異臭がすごい」とか言って、厳重な封印箱に入れられてしまった。なんか禁物庫に収納されたらしい。
失礼しちゃうよね。あれは食品だっつーの。
不幸中の幸いなのは、今日——火あぶりの刑で手に入れた『焼き肉のタレ』は、そのまま持ってこれたことだ。
処刑場からそのまま「追放」されたからね。没収される暇がなかった。
でも、ここからが問題。
私は手元の瓶を逆さまにして振ってみた。
……ポタッ。
最後の一滴が地面に落ちる。
(空っぽ……)
そう、空なのだ。
歩きながら木片(熱滅菌済み)をしゃぶったり、指につけて指ジャーキーにしながら舐めたりしてたら、いつの間にかなくなっていた。
タレの消費スピードを甘く見ていた。
つまり現在、私は「調味料ゼロ」の状態。
さらに悪いことに、ポイントもない。
『現在ポイント:250ポイント』
……少ない。
処刑喰らったのよ? しかも3回もよ?
それでマヨネーズと、めんつゆと、タレで終わり?
まあそれはそれでありがたいことではあったけどね。
ともかく250ポイントじゃ、マヨネーズもタレ(500ポイント)も買えない。
せいぜい『塩(小袋)』が関の山だ。
もちろん塩はうまいよ。でもバリエーションがね。
せっかくの破綻した日常が、モノクロに染まってしまうよね。
(稼がなきゃ……)
私は決意を固めた。
今の私は、火あぶりの火がメラメラと燃え続けている「歩くキャンプファイヤー」状態だ。しかもアフロ。間違えたマッチ棒状態。
これだけ目立てば、魔物の一匹や二匹、寄ってくるはず。
魔物に殴られれば、ポイントが入る。
ポイントが入れば、タレが買える。
完璧な計画だ。
さあ来い、害意。私を殴れ。殺す気で来い。
──ガササッ
……ん?
茂みの向こうから音が聞こえる。
ちょうどいい。
(野生のモンスターに違いない!)
私は茂みをかき分けた。
「くっ……殺せ!」
「野生のくっころ?!」
そこには、野生のくっころ、もとい、一人の女騎士が倒れていた。
銀色の鎧はボロボロで、剣は取り落としている。
そして彼女を見下ろしているのは、体長3メートルを超える巨大なイノシシの化け物だ。
「ブモォォォォォッ!!」
イノシシが巨大な牙を光らせ、よだれを垂らしている。
まさに絶体絶命。
捕食される5秒前。
でも、私の目には違って見えた。
(……ポイント源だ)
(あと、肉だ)
あのイノシシ、殺る気満々だ。
あの牙で突進されたら、きっと「致死ダメージ回避」でガッポリ稼げるに違いない。
500、いや1000ポイントはいけるか?
そうすればタレが買える!
私は茂みから飛び出した。
火だるまで。アフロで。
空っぽの瓶を握りしめて。
「すいませーん! 私を殴ってくださーい!!」
私は笑顔でイノシシに向かって全力ダッシュした。
両手を広げて。ウェルカム・バイオレンス。
「ブモッ!?」
「えっ……!?」
イノシシと女騎士が同時にこっちを見た。
何を驚くことがある!
追放令嬢がそんなに珍しいか!
「見せもんじゃねぇんだよ! 早く殴れよッ!!」
「ブモォォッ!?」
イノシシが身を引く。
よし、来るか? 突進か?
カモン、害意!
私はノーガードでイノシシの懐に飛び込んだ。
両手を広げて受け止めるぜ!
——ボワッ!
イノシシに抱き着いたら、私の体を覆っていた炎が燃え移った
あらわになる健康的なボディ(スッポンポン)。
女騎士の目が点になった気がする。
「ブ……ブギィィィィィッ!!?」
イノシシの剛毛と脂肪たっぷりの腹が燃え盛っている。
よく燃えるなぁ、魔物の脂って。
イノシシは私を攻撃するどころじゃなかった。
火だるまになって転げまわり、断末魔の叫びを上げてのたうち回る。
「あ、逃げるな! 突進しろ! 一発ド突いてから燃えろ!」
私は追いかけた。
火だるまのイノシシを、全裸の私が追いかける絵図。
サピエンス前史かな?
「ブギィィィ……!!」
数秒後。
イノシシは焼け焦げて動かなくなった。
『害意ダメージ(接触)を無効化しました:50ポイント』
『ボアの精神的苦痛(焼死)を検知しました:100ポイント』
『女騎士の恐怖を検知しました:100ポイント』
『合計250ポイントを取得しました』
……くっ。
合計250ポイント。手持ちと合わせて500か。
殴られていればもっと稼げたのに。
(けど、買える!)
私はハタゾンを開く。
(焼き肉のタレ。500ポイント。購入!)
ポーン。
空から降ってくる段ボール。
即開封。愛しの瓶を取り上げる。
おかえり、神の味。2本目ゲット。
目の前には、いい感じに丸焼きになった巨大なイノシシ肉。
表面はカリカリ。中はジューシー(推測)。
「お借りしますわね」
「えっ、あ、どうぞ」
女騎士の剣を借りる。
イノシシの肉(肩ロースあたり)をざっくり切り取る。
タレをドボドボとかける。
正座して手を合わせる。
「いただきます」
ガブリ。
(……!!)
美味い。
これは……本物の肉だ。
木片じゃない。草でもない。
正真正銘、動物性タンパク質の味がする!
タレの味に負けない、肉の旨味。
感動で涙が出そうだ。
やっぱり、肉とタレの相性は最強だね。DNAに刻まれた勝利の味だ。
つーかこれ、ジビエじゃん。木片オーガニックといい、破綻者としてあるまじき丁寧さだ。私って、丁寧~。
「……お、おい」
肉に夢中になってたら、後ろから声をかけられた。
忘れてた。野生のくっころさんだ。
彼女は座り込んだまま、震える指で私を指さしていた。
顔色が悪い。
もう危機は去ったんだけど。
大きなケガでもしたんだろうか。
私は女騎士に気遣いの言葉をかける。
「大丈夫ですか?」
女騎士は引きつった顔で言った。
「そ、そっちの方が大丈夫かぁぁぁッ!?!?」
なによっ、失礼なやつ!
***
【今日の破綻飯】
やあみんな! メシ子だよ!
丁寧なくらしって、意外と森の中に落ちてることあるよね!
今日のメニューはこれ!
テッテレー!
★No.0004『焼きたてジビエにタレかけたやつ』
材料: 丸焼きイノシシ肉、焼き肉のタレ
調理時間:0秒(もう焼けてる)
破綻度: ☆☆☆☆☆(丁寧の極致)
ジビエ肉って、味が豊かだよね!
なんていうか、自由の味がするよ!
都会の喧騒は、肉を濁らせるんだね!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「ジビエ(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




