火あぶりで木片をしゃぶる
翌日。
三度目の正直ってやつだね。
またここ、処刑台の上に戻ってきました。
ちなみにシワシワはもとに戻ったから安心。
「——大罪人、メリィナ! 今日こそ貴様を灰にしてやる!」
王太子殿下、目が血走ってる。
徹夜で対策練ってたのかな? ご苦労様です。
今日の私は、中央に立てられた太い木の柱に縛り付けられている。
足元には山盛りの薪。油まで撒かれてる丁寧仕様。
なるほど、火あぶりか。
観衆の皆さんも、さすがに飽きてきたのか、それとも恐怖しているのか、静まり返ってる。
誰も石とか投げてこない。
「燃やせぇッ!!」
王太子の絶叫と共に、宮廷魔術師たちの魔法が撃ち込まれた。
——ボウッ!!
特大の火炎球が顔面直撃。
「きゃーっ!」
「ひぃ!」
観客から悲鳴が上がる。
さらに油に引火して、一瞬で炎の壁ができる。
オレンジ色の世界。
普通なら熱さで悶え苦しんで、皮膚がただれて死ぬところだ。
でも、全然へーき。
暑いんだけど、熱くはないというか。
『害意ダメージ(焼却)を無効化しました』
『350ポイントを取得しました』
ポイントゲット!
ありがたいね~。
──ボフッ!
「ん?」
その瞬間、髪の毛が爆発した音がした。
頭を触ってみる。
(アフロになってる……?)
さらさらの令嬢ヘアが、見事なチリチリアフロになってしまった。なんでだよ。
淡い桃色髪のせいで、デフォルメされた桜の木みたいになってんじゃん。
さらに問題なのは、私が今全裸なことだ。
炎で私を縛っていたロープが焼き切れたのはいいとして。
着ていた下着(シルク製)が、チリチリと燃えちゃった。
悪役令嬢の最期が全裸アフロ桜って、そんなことある?
まあ、アフロもテンション上がる髪型ではあるし、桜はめでたい。
全裸になっても炎が隠してくれてるから、セーフかな?
それより問題なのは、匂いだ。
木が燃える、香ばしい匂い。
これが私の空腹中枢を刺激してくる。
(……なんか、燻製みたいな匂いするなぁ)
足元の薪が炭化して、いい感じに煙を出している
この匂い、バーベキューの時の「肉を待っている時間」の匂いだ。
私はゴクリと喉を鳴らした。
肉はない。
でも、香ばしい煙はある。
ということは、アレだ。
私は全裸(炎エフェクト付き)で、脳内ウィンドウを開いた。
味をくれ。『真実』を見せてくれる、最強の相棒をくれ。
(ハタゾン、検索。「焼き肉のタレ」)
『検索結果:多数』
『金色の味、マイ焼肉家さん、徐々庵の……』
(金色の中辛。ここは王道を征く)
『購入しますか? 500ポイント(残高:500ポイント)』
(購入)
ポーン。
ダンボールが落ちてくる。
なぜか燃えない。最近のダンボールすごいな。
テープをはがし、瓶を取り出す。
ダンボールはキレイにたたんで置いておく。
外から王太子が勝利を確信している声が聞こえる。
「ははは! 燃えろ! 骨まで灰になれ! これでもう貴様の顔を見なくて済む!」
残念。
今から見るよ。
私は炎の壁の切れ目から、ターゲットを定めた。
火の勢いが弱い外周部分に、ちょうどよく炙られた手ごろな木片(熱滅菌済み)が落ちている。
——ぬッ。
私は轟音を立てる炎の中から、真っ白な腕だけを突き出した。
「……ひっ!?」
王太子の短い悲鳴。
私は構わず、地面に落ちていた「いい感じに焙られた木片」を鷲掴みにした。
そして、炎の中から顔を出す。
ぬぅっと。
「ごきげんよう」
「な、な……」
王太子が腰を抜かして後ずさる。
お化けでも見たような顔だね。失礼な。
まあ今は王太子はどうでもいいや。
私は掴んだ木片を、タレの瓶に直接ドボンと漬けた。
ジュワァァァ……!
タレが熱い木片に触れて沸騰する。
焦げた醤油とニンニクの暴力的な香りが爆発する。
この匂いだ。
この匂いだけで、空想の白飯三杯はいける。というかいった。
私はタレが染み込んだ木片を、口へと運んだ。
——じゅわっ。
かじるんじゃない。
しゃぶるのだ。
口の中に広がる、濃厚なタレの味。
そして鼻に抜ける、強烈なスモークの香り。
(……んんっ!)
すごい。
これは肉だ。
私は今、旨味ジャーキーをしゃぶっている。
私はチュパチュパと音を立てて、木片をしゃぶった。
味が薄くなったら、またタレにつける。無限機関だ。
しかもこのジャーキー、植物由来だからね。
「オーガニックだね……」
思わずつぶやく。
まさか私が『オーガニック』をできるなんて。
ありがとう焼き肉のタレ。
「き、貴様……何を……」
王太子が震える声で聞いてくる。
私は口の周りをタレでベトベトにしながら、ニッコリ笑って答えた。
「殿下も召し上がります? 骨付き肉の味がしますよ」
言いながら、タレまみれの木片を差し出す。
その瞬間。
王太子の何かがプツンと切れた音がした。
「……もういい」
王太子は虚ろな目で呟いた。
「もういい! 殺せん! こいつは人間じゃない!」
「追放だ! 今すぐここから叩き出せ! 二度と私の視界に入れるなァァッ!!」
え、そんな。
次の処刑(食事)は?
「お、おい! 誰か早くしろ! 叩き出せ!」
王太子の命令、誰も聞かないじゃん。
みんな震えて固まってるよ。パワハラじゃ人は動かないよ。
あ、私が燃えてるから近づけないのか。
『王太子の完全敗北を確認しました』
『ボーナスとして350ポイントを取得しました』
人の負かしてポイントを得る。私って罪な女……
しかし追放かぁ。悪役令嬢の運命からは逃れられなかったね。
とりあえずダンボールは持っていこうかな。
便利だし、燃えないゴミっぽいからね。
炎をまとったままスタスタと街の出口に向かって歩き出す。
群衆が悲鳴を上げて逃げ惑う。
おっと、ちゃんと王太子殿下にご挨拶しておかないと。
こういうので育ちが出るからね。
「ご機嫌よう、殿下。王家のご繁栄をお祈り申し上げますわ」
「い、今すぐ消えろぉぉぉ~~~!」
ひどい!
王太子ともあろうお方が。育ちが知れるね。
私は木片をしゃぶりながら、王都の門へと向かった。
さて、外の世界にはどんな食材が待っているのかな?
私の破綻飯ライフは、まだ始まったばかりだ!
***
【今日の破綻飯ハック】
やあみんな! メシ子だよ!
オーガニックしてる?
今日は自然派なメニューを紹介しちゃうよ!
テッテレー!
★No.003『いい感じに焙られた木片のジャーキー』
材料: 焙られた木片、焼肉のタレ(中辛)
調理時間: 0秒(直付け)
破綻度: ★☆☆☆☆(オーガニック)
冷蔵庫に腐ったお肉しかない?
大丈夫! 最高のタレに、炭素と煙があれば、それはもう肉だよ!
いろんなタレを用意して、味変を楽しもう!
火事になるから絶対にコンロで木片を焙るなよ!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「ジャーキー(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




