水攻めをめんつゆで割る
ギロチンが粉砕されてから、数分後。
みんなパニックになっちゃった。
「な、なぜ死なん……! なぜ刃が砕けた……! なぜ雑草を食べている!」
王太子殿下、顔面蒼白でわめいてるね。
うん、意味わかんないよね。
私もわかんない。
でも雑草食べてる理由は明確。お腹空いてるから。
「パンがなければ、草マヨを食べればいいじゃない」
「何を……? 貴様……ふざけるな……ッ!」
おっと、王太子が再起動した。
「処刑はまだ終わっていない! ギロチンが効かぬなら、魔法だ! 宮廷魔導師団、前へ!」
号令と共に、ローブを着た集団がゾロゾロと出てくる。
おお、ファンタジー。魔法使いだ。火とか出すのかな。焼きマヨができるかな?
「その女を水球に閉じ込めろ! 呼吸を奪い、苦しみ抜かせて殺すのだ!」
あ、水かぁ。
なるほど、水攻め。窒息死狙いとはね。
「陰湿〜」
「貴様……ッ! 放てェッ!」
魔導師たちが杖を振るう。
次の瞬間、私の周囲の空間が歪み、大量の水が発生した。
——バシャンッ!!
逃げる間もなく、私は巨大な水の球体に包み込まれた。
足が地に着かない。上下左右、完全に水。
冷たい。
「ぶく、ごぼ……」
口から泡が漏れる。
本来なら、ここでパニックになって溺れ死ぬところだ。
でも、変なんだよね。
息苦しくない。
肺に水が入ってこないというか、「溺れる」という現象そのものがキャンセルされてる感じ。
『害意ダメージ(水)を無効化しました』
『350ポイントを取得しました』
ほらね。
ログが出た。私は水の中で、優雅にぷかぷかと浮遊する。
でも、異変があった。
自分の手を見てみる。
指先が、ものすごい勢いでシワシワになってる。
お風呂に何時間浸かったんだってくらい、皮膚がふやけてるんだよね。
たぶん顔も梅干しみたいになってる。
全身シワシワの下着女。客観的に考えてヤバすぎる。
「ははは! 見ろ、あの無残な姿を! 全身が老婆のように……ん、なんで老婆?」
外では王太子が怪訝な顔してる。
まあ、どうでもいいよね。
それより問題なのは、この水だ。
口の中に入ってくる水が、許せない。
味が全然しない。
魔力で生成された水だから?
刺激のない液体なんて、ただの質量じゃん。
味がしなきゃ、生きてる心地がしない。カルキ臭い水道水さえ恋しい。
私はシワシワの手で、脳内ウィンドウを操作した。
(ハタゾン、検索。「めんつゆ」)
『検索結果:多数』
『濃縮2倍、3倍、ストレート……』
(3倍濃縮だ。一番コスパがいいやつ)
『購入しますか? 300ポイント(残高:450ポイント)』
(購入!)
ポーン、という決済音。
──ドバシャアッ!
「な、なんだ?!」
「敵襲かっ?!」
空から段ボールが振ってきて、水球の中にイン。
さすがハタゾン、耐水ダンボールだ。
ダンボールを空けると、「見慣れたオレンジ色のキャップのペットボトル」が入っていた。
「お、おい! アイツ何をしている! 誰か止めろ!」
王太子が騒いでる。
でも関係なし。
私は水中でペットボトルのキャップを開け、中身をドボドボと周囲にぶちまけた。
透明だった水球が、みるみるうちに茶褐色に染まっていく。
カツオと昆布の、芳醇な香りが(水の中だけど)広がる。
3倍濃縮のめんつゆを、この大量の水で割ることで、ちょうどいい「お吸い物」濃度になるのだ。
私は茶色くなった液体を、ゴクゴクと飲み干した。
(……ぷはーっ)
美味い。
出汁の旨味が、乾いた体に染み渡る。
これだよこれ。
え、そうめん?
そんなもんは生活者が茹でておけ。
我ら破綻者はめんつゆゴクゴクしておくぜ!
(最高だ)
私はシワシワの下着姿で、茶色い水球に浮かびながら、ひたすらめんつゆ水を飲み続けた。
水分補給、完了!
「な、なんだ……!?」
「水が……茶色くなったぞ!?」
「汚っ! なんか汚れたぞ!」
汚いとはなんだ!
企業努力の結晶だぞ。
琥珀よりも美しいぞ。
「き、貴様……! まさか処刑用の聖水を、汚染して飲んでいるのか……!?」
王太子が絶叫している。
私は空になったペットボトルを振り回して、「おかわり」のジェスチャーをした。
この水球、飲み干したらなくなっちゃうからね。もっと足してほしい。
「ひ、ひぃ……! 化け物だ……!」
「殿下! これ以上は魔力が持ちません! あいつ、水を全部飲んでしまいます!」
魔導師長が泣きそうな顔で訴える。
なんだ、もう終わり?
まだお腹たぷたぷじゃないんだけど。
「ええい、一旦中止だ! これ以上恥をさらすな!」
水球が解除される。
シワシワの私はビチャビチャの下着姿で地面に着地した。
王太子に詰め寄る。
「殿下、まだ物足りませんわ」
「ヒッ……!」
「もうちょっとポイントが欲しいのですわ」
「ポイ……? 何を言っている?!」
ようは一発殴ってくれればいいんだよ。プロレスラーのように両手を広げて王太子に詰め寄る。
「ウェルカム・バイオレンス!」
「なにをっ……は、早くこいつを牢屋へ戻せ! 明日だ! 明日こそ、もっと残酷な処刑を用意してやるからな!!」
王太子殿下、捨て台詞を吐いて逃走。
「あっ、ポイントが」
兵士たちに囲まれて連行される。君たち、手が震えてるよ。
(ふぅ。しかし染み渡った)
明日はどんなメニューかな?
火あぶりだったらいいな。
そしたら焼き肉のタレ買っちゃおうかな?
私はシワシワのままスキップしながら、地下牢への階段を降りていった。
***
【今日の破綻飯ハック】
やあみんな! メシ子だよ!
味がしないものを飲まされる日って、たまにあるよね!
今日のメニューはこれ!
テッテレー!
★No.0002『めんつゆを薄めたやつ』
材料: 水、めんつゆ
調理時間:10秒(混ぜるだけ)
破綻度: ★☆☆☆☆(蕎麦湯みたいなもの)
味のない水も、めんつゆを入れれば豊かなスープになるよ!
コツはちょっと濃いめにすること!
流した涙のぶんだけ、塩分が必要だからね!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「めんつゆ(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




