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第44話 破綻令嬢は絵本を朗読する

 神話の氷剣による、神速の一閃。

 王国騎士団第三位、ヤツネ・コレット・ロシュフォールの決意の一振りは、見事に超巨大暴走ゴーレムを打ち砕き、北の砦を救った。


 ……まあ、代償として、砦から北の領地一帯が「人が住めないレベルの永久凍土」になっちゃったんだけどね。


 そして今、北の砦の一室はは、お通夜のような重苦しい空気に包まれていた。


 ベッドの上で、ヤッコロが顔面を土気色にして、死人のように横たわっているからだ。


「団長……どうかご自分を責めないでください! 魔王軍は退けたのです!」

「そうです! 凍った大地はそのうち溶けますって!」


 ベッドの周りでヤッコロの部下の騎士たちが必死に呼びかけているが、ヤッコロはうわ言のように口をパクパクさせるだけで、焦点も合っていない。


「うーん。これ、ただの落ち込みにしては重症すぎない?」


 私がベッドの脇で適当にリンゴをかじりながら言うと、遅れて応援に駆け付けた聖女セイ子が、ヤッコロの額に手を当てて深刻な顔で頷いた。


「ええ、メシ子様の仰る通りです。これは単なる心労ではありません……『自責の念を食らう邪霊』に取り憑かれていますね」

「邪霊?」

「はい。後悔や罪悪感が極限に達した者に寄生し、その精神を削り取りながら肥え太る悪霊です」

「えっ、それ、まさか食いつくされたら……」

「……はい」


 セイ子が深刻な顔をする。


「ヤッコロさんの責任感が消滅します!」

「あ、廃人とか死亡とかではないんだ」


 でも、このクソ真面目で、責任感の強さがむしろ弱点になるほどのヤッコロが無責任に……


「怠惰で無責任なヤッコロ……ちょっと、見てみたいかも」


 ホワンホワンホワ~~~ン(想像する音)


(永久凍土の件は、メシ子殿がだいたい悪い)

(復興も食料配給も、全部メシ子殿がやるように)

(私はお布団から出ない)


「……あっ、やっぱりそれは困る!」


 セイ子に泣きつく。


「せ、セイ子、どうやったらその邪霊を祓えるの?!」

「邪霊との戦いは精神面での戦い。祓うためには、本人が心の底から救済されたと感じる『強い精神的カタルシス(奇跡)』が必要です」

「奇跡……!」


 奇跡的な救済シチュエーションといえば、心当たりがある。


「みなさん、これを見てくださいませ!」


 私は、一冊の古びた絵本を取り出した。

 私が目からビームの着想を得た絵本『ヤッちゃんとはくばのゆうしゃさま』だ。


「この中で、主人公のヤッちゃんが悪霊に取りつかれたとき、白馬の勇者様に奇跡のポーションを口移ししてもらって復活するのですわ」


 騎士が疑問を挟む。


「メシ子殿、それはただの童話ではないのですか……?」

「いえ、これこそが奇跡! みなさん見てくださいませ!」


 私が童話を朗読しようとすると……


「ウググッ!」


 バタンバタン!


 ヤッコロが突如苦しみだした。

 顔面がゆでだこのように真っ赤になっている。


「う、ぐっ……」

「ヤッコロ! 苦しんでる!」


 早くこの本の方法を共有して助けてあげないと!


「『ヤッちゃんのはじめてのチュウは、あまいレモンのあじがした』……」

「な、なんですかその恥ずかしい内容は」

「ウグーッ!」

「ヤッコローッ!」


 どうする! どうすればいいんだ!

 

「ん、この姿……」


 そのとき、騎士のひとりが絵本をしげしげと見つめたあと、私の手から奪い取り、熱心に読みふけりだした。


「この髪型、この口調、そしてヤッちゃん……」

「お、おい、まさか」

「ヤツネ団長が描いた本?!」


 は?


「え、マジ?」


 騎士から絵本を奪い返し、よーく読んでみる。


「た、確かに。この三本アホ毛、ヤッコロじゃん!」

「うぐぐぐ……」

「え、ヤッコロ、こんな趣味あったんだ……」

「うぐぅぅぅぅぅ」

「いや、でもまあ、これたぶん10才とかでしょ。可愛いもんじゃん」


 そう言って裏表紙をみると。


『作・絵:ヤツネ・コレット・ロシュフォール(19歳)』


「成人女性の創作絵本だった???!!!」

「ウグーッ!」

「いや、まあでも、趣味に年齢は関係ないからさ、ほら」

「ウ、グ……」


 ヤッコロがぐったりとしてしまった。

 そこでセイ子が深くうなずいた。


「さすがメシ子様」

「何が?」

「この本がヤッコロさんの、ましてや成人後の願望なら、邪霊を打ち払うカタルシスを生み出せるはずです!」


 なるほど、よくわかんないけどそれで治るっていうならそれで行こう!


「あ、あの生真面目な団長にあんな趣味が……」

「『あまいレモンのあじ』……く、くそっ、はくばのゆうしゃさまめーっ!」


 なんか騎士団から謎の熱気が生まれている。

 けどそれどころじゃないからね。

 邪霊は刻一刻とヤッコロの精神を蝕んでいるんだから!


「はいはい! じゃあ材料を探しにいきますわよ!」

「しかし、メシ子殿、材料といっても……」

「このページに詳しく書いてありますわ。えーと、材料は、水500ミリリットル、砂糖大さじ1、塩小さじ1……」

「レシピ本?! というか奇跡のポーション、存外普通の材料使ってる!」

「巨岩獣の大牙、神々の逆鱗、不気味な結晶……」

「突然難易度があがった?! そんなものどこにあるのですか?!

「それを探すのが貴方たちの仕事ですわ。団長が無責任になってもよいのかしら?!」


 それを聞いて、騎士たちが奮起した。


「いや、生真面目ではない団長なんて、団長じゃない!」

「厳しく優しい団長を、俺たちが取り戻すんだ!」

「そして俺がはくばのゆうしゃさまになるんだ!」

「いや、俺だ!」

「俺だって!」


 なんか目的が変わってる気がするけど、結果が一緒ならまあいいよね。

 こうして騎士たちは材料を探しに行った。


 そして私にだって、やることがある。


「ヤッコロ……」

「う、ぐ……」

「レモンは、酸っぱいんだよ……」

「ウグーッ!」


 間違った知識は訂正しておかないとね。


***


【今日の破綻飯】


 やあみんな! メシ子だよ!

 弱ったときって、とりあえず甘くてしょっぱいものを飲みたくなるよね!


 今日のメニューはこれ!


 テッテレー!


★No.0044『奇跡のポーション』

 材料: 水、砂糖、塩、巨岩獣の大牙、神々の逆鱗、不気味な結晶

 調理時間:3分(後半が重い)

 破綻度: ★★★★☆(途中までは家にある)


 弱ったときは、水と砂糖と塩でだいたいなんとかしたくなるよね!

 でも奇跡を起こしたいなら、そこに巨岩獣の大牙とか神々の逆鱗を足して、急に入手難易度を終わらせよう!

 前半だけ見ると台所で作れそうなのに、後半で神話になるのが創作レシピの奥深さ!

 奇跡なめんなっていう作者からのメッセージだね!


 それじゃあ、またね!


 「高評価」と「奇跡(お気に入り登録)」よろしく!


 ハタンキュ~(挨拶)

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