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第43話 破綻令嬢はお急ぎ便で世界を凍らせる

「……あれをやれぇぇぇ!」

「しっ、しかし!」

「いいからやれぇぇえ!! どのみちこのままでは全滅だ!」


 魔王軍幹部の悲痛な叫びが戦場に響き渡った。


 魔王軍がなんかの魔法を唱える。すると、さっき私の電磁波を乱反射させたテカテカの金属ゴーレムのコアが、不吉な赤黒い光を放ち始めた。


 ズズズズズ……ッ!


「な、なんだあれは!?」


 ヤッコロが目を見開く。


 金属ゴーレムのコアがまるでブラックホールのように、周囲にある泥ゴーレムの残骸を引き寄せ始めた。


 それだけではない。魔王軍の投石機、散乱する武器、さらには悲鳴を上げる魔王軍の兵士たちまでもが無差別に吸い込まれ、融合していく。


 やがてそこに現れたのは、先ほどまで私がマシュマロ巨大化していたサイズすら見下ろす、天を突くほど超巨大なゴーレムだった。


 無数の腕と顔が不気味に蠢き、全身を理不尽なまでの複合魔法障壁が覆っている。


「はーっはっは! 見よ、これぞ究極! 物理も魔法も通さぬ絶対無敵の魔神よ、あの怪物女を蹂躙——」


 ズドォォォォォォンッ!!


 魔王軍幹部の高笑いは、超巨大ゴーレムが無慈悲に振り下ろした足によって、自軍の陣地ごと踏み潰されて途切れた。


「「「ぎゃああああっ!?」」」


 魔王軍の残党が絶望の悲鳴を上げて逃げ惑う。


 ゴーレムはすでに敵味方の区別など完全に失っていた。そこにあるのはただ、目につくすべての動くものを破壊し尽くす、純粋な厄災。


 ズッ……ズッ……と一歩踏み出すたびに大地が陥没し、その余波だけで砦の分厚い城壁が紙屑のように崩れ去っていく。


「くそっ、このままでは、魔王軍もろとも、この一帯が完全に消滅する……!」


 ヤッコロが顔面を蒼白にして私を見上げた。


「メ、メシ子殿! 頼む、さっきの目からビームでもう一度あいつを薙ぎ払ってくれ!」


 が。


 プスーッ……。


 私は音を立てて、急速に空気が抜ける風船のように縮み始めていた。


「あれっ? メシ子殿!?」

「あー、ダメだこれ。熱線の撃ちすぎでカロリー切れだわ。冷めてきちゃった」


 さっきマヨネーズを直飲みして補給したカロリーも、あの戦略級ビームと巨大化の維持で完全に使い果たしてしまったらしい。


 私は元のサイズ(下着姿)に戻り、ペタンと地面に座り込んだ。


「では5000万ワットだ! ヤツの胸のあたりに放てば……」

「ダメですわ。金属混じってるから跳ね返ってきますわ」


 ヤッコロの顔が絶望に染まる。


「そんな! メシ子殿が戦えぬなら、どうすればいいのだ!? 我々の剣では、あの金属と泥の複合装甲に傷ひとつつけられんぞ!」


 大気を震わせながら迫り来る超巨大暴走ゴーレム。


 そんな中、私は焦らずにフフンと笑った。


「大丈夫ですわヤッコロ。こういう時のために、『狼煙』を上げておきましたから」

「狼煙……? まさか、最初に上空に放っていた光線は……!」

「そう。あれですわ」


 私はビシッと天を指差した。

 そして、空に向かってありったけの声で叫ぶ。


「こいっ! ハタゾォォォォォン!!」


 キィィィィィィンッ!!


 分厚い暗雲を突き抜け、上空から隕石のようなスピードで何かが落下してきた。


「空から何か降ってきたぞ!?」

「な、なんだあの箱は!?」


 ズドォォォォンッ!!


 私の目の前に凄まじい土煙を上げて着陸したのは、見慣れた『ハタゾン』のロゴが入った細長い段ボール箱だった。


 表面には『お急ぎ便』『大雪山より直行』というシールが貼られている。


「メ、メシ子殿、これは一体……」

「開けてみて」


 ヤッコロが恐る恐る段ボールのガムテープを引き剥がす。


 パカッ。


 中から現れたのは、見ているだけで周囲の空気が凍りつくような、透き通った氷の剣だった。ご丁寧に、緩衝材(プチプチ)に包まれている。


「こ、これは……ッ!」

「そう、ギン子ソードですわ。ヤッコロの部屋に飾ってあったのを、配達してもらうように頼んでおいたのですわ」


 ギン子の爪から作られたという、絶対零度の冷凍剣。神話級の武器。


 段ボールには一枚の不在票が入っていた。

 『ご不在につき戦場へ転送しました。メンテ中につき我は行けぬが、これで我慢しろ。 ギン子』


 ギン子ソードの包装を引き剥がし、ヤッコロに渡す。


「さあ、ヤッコロ。あとは任せましたわ。この剣で、あいつをカチコチにしちゃって」

「私が!? いや、私のような一介の騎士が、古竜の魔力が込められた神話級の武具など扱えるわけがないだろう!」


 私は、ヤッコロの目をまっすぐに見つめる。


「ヤッコロ」

「な、なんだ」

「私は見てましたわ。毎日欠かさず、信じられないくらいの鍛錬を積み、その剣筋と鉄腕を磨き上げていく様を」

「……!」

「そして、飽きもせず街に出て、民を助け、悪を善に導く様を」

「メシ子殿……」

「ヤッコロ、貴女こそが、真の騎士。そして、真のノブレスですわッ!」


 ギン子ソードをヤッコロに差し出す。


「さあ、世界を救う、力(オブリージュ)を」


 ヤッコロはグッと目をつむる。


「そうか……あの時も、あの時のことも、全ては、この一振りのための……」


 そして、決意の表情で、私からギン子ソードを受け取る。


 ヤッコロは振り返る。


 迫り来る超巨大ゴーレムの巨体と拳を真っ向から見据え、剣を構えた。


 その瞳には、かつてないほどの騎士としての誇りと覚悟が宿っていた。


「そうだ。私は王国騎士団第三位……!」


 ヤッコロが、腹の底から戦場に響き渡る声で絶叫する。


「ヤツネ・コレット・ロシュフォールだァァァァッ!!」


 裂帛の気合いと共に、神話の氷剣が振り抜かれる


 その瞬間、ヤッコロの剣は光を超えた。


 神速。


 そうとしか表現できなかった。


 一人の騎士が、鍛錬の果てに辿り着く境地。


 剣の神。


 それが宿った、一筋の、閃。


 ——ピキィィィンッ!!


 ヤッコロの放った美しき一閃は、ギン子ソードに込められた絶対零度の魔力を完全に解放した。


 世界から、音が消えた。


 放たれた絶対零度の冷気は、超巨大ゴーレムの巨体を一瞬で氷像に変え……それだけでは留まらなかった。


 冷気の波紋は戦場を駆け抜け、逃げ惑う魔王軍を丸ごと凍りつかせ、さっき私が熱線でガラス化させた大地を今度は一面の永久凍土へと変え、遥か彼方の山脈までを真っ白な氷河に沈めてしまった。


 要するに、大災害である。


 パリンッ。

 凍りついた超巨大ゴーレムが、自らの重量に耐えきれず、粉々に砕け散る。


 ……。

 …………。


 猛吹雪が吹き荒れる中。


 完全に終わった戦場の中央で、ヤッコロは神速の一振りを終えた体勢のまま、呆然と固まっていた。


 私は下着姿のままテクテクと歩み寄り、ヤッコロの肩をポンと叩いた。


 そして、最高の笑顔で親指を立てる。


「ドンマイ」

「ああああああああああァァァァッ!!」


 ヤッコロの悲痛な慟哭が、永久凍土となった大地に虚しく響き渡った。


 ***


【今日の破綻ライフハック】


 やあみんな! メシ子だよ!

 置き配を放置しすぎて置き灰になりがちだよ!


 今日のライフハックはこれ!


 テッテレー!


★No.0043『無限お急ぎ便』

 材料: 通販、忘却、追加料金

 効果:最速で届く(開けるとは言ってない)

 代償:床面積

 破綻度: ★★☆☆☆(便利さは本物)


 生活必需品をお急ぎ便で頼んでも、だいたい開けるのを忘れるよね!

 でも、時間が経ったころに発見して「やった!」ってなるから結果オーライ!

 なお、必要なときにはまた忘れて、次もお急ぎ便を頼むまでがセットだよ!


 それじゃあ、またね!


 「高評価」と「お急ぎ便(お気に入り登録)」よろしく!


 ハタンキュ~(挨拶)

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