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第41話 破綻令嬢は変身バンク(手動)を駆け抜ける

 北の砦は、絶望の淵にあった。


「押し返せ! 防衛線を抜かれるなッ!」


 泥と煤にまみれたヤッコロが、声を枯らして剣を振るう。

 しかし、渾身の一撃は、巨大な泥のゴーレムが展開する紫色の『対魔法・物理複合障壁』に弾き返され、火花を散らすにとどまった。


「くそっ……! やはり我々の攻撃では、表面を削ることすらできないというのか!」


 砦を守る兵士たちは次々と疲労で倒れ、王都から派遣された数少ない魔法使いの火球も、ゴーレムの障壁の前では文字通り煙に巻かれるだけ。


 無機質な岩と泥の巨兵たちは、一切の感情を持たず、ただただ砦の壁を破壊すべく歩みを進めてくる。


(メシ子殿……どこへ行ってしまったのだ……!)


 ヤッコロは荒い息を吐きながら、数時間前に馬車からゴロゴロと斜面を転がり落ちていった破綻令嬢の姿を思い出した。


 「準備がある」と言って戦線を離脱した彼女だが、一向に現れる気配はない。まさか、あのまま逃げたわけではあるまい。いや、歩くのが面倒になってその辺で寝ている可能性は十分にある。


「グォォォォォ……!」


 ヤッコロの頭上に、ひときわ巨大なゴーレムが巨大な岩の拳を振り上げた。

 回避する体力は、もう残っていない。


(ここまでか……!)


 ヤッコロがギュッと目を閉じた、その瞬間だった。


 ——ズドバァァァァァァァァァンッ!!


 突如として、戦場から少し離れた後方の丘から、天を穿つほどの凄まじい光の奔流が立ち上った。


「な、なんだッ!?」

「天が……空が割れるぞ!?」


 分厚い戦場の暗雲を消し飛ばし、宇宙まで届かんばかりの極太の光柱。


 あまりの圧倒的な光景に、砦の兵士たちも、そして感情を持たないはずの魔王軍のゴーレムたちでさえも、ピタリと動きを止めてその光の柱を見上げた。


「あ、あれは……!」


 ヤッコロが目を見張る。

 光の柱の根元。

 土煙が晴れた丘の上に、一人の人物が立っていた。


「メシ子殿?!」


 メシ子は、左手を高々と天に掲げ、右手にマヨネーズを持っていた。

 そして、マヨネーズの蓋をおもむろに光の奔流で焼き飛ばす。


「ちゅぅぅぅぅぅぅ……」


 5000万ワットの魔法を放ちながら、凄まじい勢いでマヨネーズを喉に流し込んでいる。

 カロリーの暴力と、火力の暴力。

 二つのエネルギーが、今、戦場という舞台で融合した。


 意味は、たぶんない。


「ぷはっ」


 メシ子は空になったマヨネーズの容器をポイッと投げ捨てると、天への照射を止め、悠然とした足取りで、唖然とする魔王軍の前へと歩み出てきた。


「な、なんだあの小娘は……!?」

「あれほどの超絶魔法を無詠唱で放つだと?! あの容器は……エリクサーか?!」

「ま、まさか勇者……ッ!」


 魔王軍の幹部らしき魔族が、戦慄の声を上げている。

 違う、ただのマヨネーズだ。そしてただの追放令嬢だ。


 メシ子はゴーレム兵団を前にして立ち止まる。


「メシ子殿! 今までどこで何を……!」


 ヤッコロの問いには答えず、メシ子はスタイリッシュにつぶやく。


「……ハタゾン」


 メシ子が口の端を上げニヤリと笑った直後。


「ペカーッ!!」

「「「ぎゃああああっ! 目がぁぁぁぁっ!!」」」


 メシ子の両目から、車のハイビームのような強烈な光線が放たれ、最前線にいた魔王軍の視界を完全にホワイトアウトさせた。


「えっ」


 ヤッコロは後方にいたため直視を免れたが、その光の中で、メシ子がとんでもない行動に出ているのを確かに目撃した。


(ガサガサ……ッ!)


 光で敵の目が眩んでいる隙に、メシ子はどこからか大量の『ハタゾン段ボール』とガムテープを取り出し、いそいそと、そして必死な手つきで自分の身体に装着し始めたのだ。


(ま、まさかメシ子殿……ッ!)


 ヤッコロが愕然とする中、数秒の沈黙(とガサガサ音)を経て、目からビームが収まった。


 視力が回復した魔王軍の前に立っていたのは——。


 頭に四角い段ボールを被り、両腕、胴体、両脚のすべてをガムテープで雑に繋ぎ合わせた段ボールで覆った、異形の重装甲歩兵(?)だった。


 胸の部分には、黒いマジックでデカデカと『割れ物注意』と書かれている。


「耐熱・耐水・電磁波反射。あらゆる外部干渉を遮断する絶対隔離装甲……!」


 メシ子が、段ボールの隙間からくぐもった声で叫んだ。


「ハタゾン・メシガ! ここに降臨ッ!」


 戦場に、謎の静寂が降りてきた。


 魔王軍の幹部も、砦の兵士たちも、頭の上にハテナを浮かべてその茶色い四角の塊を見つめている。


 ただひとり、ヤッコロだけが、彼女の意図を理解した。


「……馬車を降りたのはこのためだったのか?!」


 ヤッコロがたまらずツッコミを入れた。


「え、もちろんですわ」

「段ボール工作待ちで死にかけた身にもなってくれッ!」


 ***


 ヤッコロの鋭いツッコミが飛んできたけど、私は段ボールの中でフフンと鼻を鳴らした。

 わかってないなー、ヤッコロは。


 ヒーローの登場にはタメが必要なの! それに、あのマヨネーズ直飲みのおかげで、今の私の体内カロリーは完全に満ち足りている。


「さあ、魔王軍。私が責任をもって破綻に案内してやりますわ」


 私はハタゾン・メシガ(総製作時間:45分)の腕を振り上げ、ゴーレム兵団に向けて堂々と宣戦布告した。


***


【今日の破綻ライフハック】


 やあみんな! メシ子だよ!

 置き配通り越して、置き廃になってるよ!


 今日のライフハックはこれ!


 テッテレー!


★No.0041『段ボール服』

 材料: 段ボール、ガムテープ

 効果:全身を隠せる(布の代用)

 代償:尊厳

 破綻度: ★★☆☆☆(玄関対応としては便利)


 ピンポーン! 宅急便が来たのに服がない!

 そんなときはその辺に転がってる段ボールを着てみて!

 そのまま、ここではないどこかへ運んで行ってもらえるよ!


 それじゃあ、またね!


 「高評価」と「段ボール(お気に入り登録)」よろしく!


 ハタンキュ~(挨拶)

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