第40話 破綻令嬢は500ワットで戦場に立つ
――ボッッフゥゥゥンッ!!
ハタゾン段ボールの中で、くぐもった爆発音が響いた。
私は焦らず騒がず、自分で効果音を口にする。
「……チーン」
パカッ、と段ボールの蓋をオープン。
モワァァァっと、食欲をそそる最高の湯気と、微かな「やらかし」の匂いが立ち上る。
「おー、飛び散ってる飛び散ってる」
生卵をハタゾン段ボールにぶち込んでレンジ魔法をブッ放した結果、案の定大爆発。けど段ボールを改良し、箱がぶっ飛ばないように固定したのだ。
そのおかげで、段ボールの内壁には「いい感じに熱の通った卵の残骸」がびっしりとへばりついている。
それをスプーンでガリガリ削り取って白米に乗せ、マヨネーズをドバッとかければ完成だ。
「名付けて、エクスプロー丼!!」
一気にスプーンでかっこむ!
「ハフッ、モグモグ……うん、ケバブみたいじゃん」
削ぎ落として食べるこのスタイル、完全にケバブのそれだ。見た目は最悪だけど、「爆発」の味がして最高。
私がリビングで優雅に破綻飯をかき込んでいると、バンッ! と激しい音を立てて扉が開いた。
「……メシ子殿!」
そこには、甲冑を泥と煤で汚し、肩で息をするヤッコロが立っていた。
いつもの生真面目な顔が、今日はひどく蒼白で、悲痛な色に染まっている。ただならぬ重い空気。
「あ、ヤッコロ。ちょうどよかった、これ食べる? 爆心地の味がしますけど」
「……頼む」
「えっ?」
ヤッコロは私の差し出した丼を無視すると、その場にガシャンと片膝をつき、深く頭を下げた。拳を震わせ、今にも泣き出しそうな声で。
「どうか、貴殿の力を貸してほしい。魔王軍の進軍が止められないのだ……! このままでは北の防衛線が突破され、この領地に住む数万の民が蹂躙されるッ!」
「えっ、重い重い。急に話のスケールが重い」
「恥を忍んで頼んでいる! 今回の相手は魔王軍の『ゴーレム兵団』なのだ! 意思を持たない岩と泥の塊で、恐怖も知らず、我々の剣がまったく通用しない! 頼みの魔法使いも王都の防衛で出払っていて、絶望的に火力が足りないのだ……!」
ヤッコロが血を吐くような声で懇願してくる。
……あー、なるほどね。物理無効の敵だから、私のデンジリョク波でドカンとやってほしいってわけか。
まあ答えは決まってる。
「わかりましたわ。地図をくださる?」
「おお……! 快諾してくれるか! 助かる!」
ヤッコロがすがるような目で顔を上げ、テーブルの上に周辺の地図を広げた。
「敵のゴーレム兵団が押し寄せているのは、ここから北にある『北の砦』だ」
「北の砦ね。あっちのほうですの?」
「ああ、そうだ。距離にしてここから馬車で半日——」
うん、行けそうだな。
ヤッコロが悲痛な顔で説明してる途中で、私はスッと立ち上がった。
そして、北の砦があるという方角の壁に向かって、左手をビシッと突き出し、魔法陣を描く!
「でん・じぃぃぃ——」
「待て待て待てェェェェッ!」
ヤッコロがすさまじい勢いでタックルしてきて、私の左手を無理やり床に押さえつけた。
「何をしている!?」
「え? ここからゴーレムたちをぶっ飛ばそうと思って」
「リビングから!? 横着にもほどがある! 馬車で移動してからでいい!」
ヤッコロが信じられないって顔で私を見てる。
さっきまでの悲壮感が全部吹っ飛んでるじゃないか。おかしいな、超合理的だと思ったんだけど。
「でも、そうやって移動してる間にも魔王軍は刻一刻と民を脅かしてるのですわよ?!」
「えっ、あれ……? なんか私の方が間違ってる感じになってる……?」
ヤッコロが逡巡したあと、叫ぶ。
「いやいやいや! ここから撃ったら、北の砦に着弾するまでに間にある村や山まで全部消し飛ぶぞ!」
「大丈夫、うまくすり抜けさせますわ」
「不安しかない! 頼むから馬車で現地まで付いてきてくれ!」
うーん、まあそりゃそうか。
私たちは急いで馬車に乗って『北の砦』へと向かうことになった。
***
ガタゴト揺れる馬車の中で、ヤッコロが念を押すように言ってきた。
「いいか、メシ子殿。貴殿のその魔法は、あまりにも危険すぎる。戦場に着いても、基本的には出力を絞って使ってくれ」
「出力を絞るって言っても、私、500ワットか5000万ワットしかできませんわよ」
「……それはどのくらいだ?」
「お肉を温めるか山消し飛ばすか」
「極端すぎる!」
ヤッコロが頭を抱えた。
「なぜその中間がないのだ!?」
だって、前世のレンジには500ワットしかなかったんだもん。5000万ワットのほうは、なんか気合い入れたら出ちゃっただけだし。
ヤッコロが深ーいため息をついた。
「……とにかく、5000万ワットは封印だ。ゴーレムを吹き飛ばせても、流れ弾で意図せず味方の砦や後方の街を消滅させかねないからな。500ワットだけにしてくれ」
「えー。500ワットなんて、冷えたご飯をホカホカにするくらいの威力しかありませんわよ? それなら、普通に魔法使いに火球でも撃たせた方がマシなのでは?」
「それが、そうもいかないのだ。敵のゴーレム兵団は特殊障壁を纏っている。並の魔法では突破できない。だが、貴殿の魔法なら障壁をすり抜けて内部に直接作用できるかもしれない」
「なるほど。じゃあ私は、ゴーレムの中の水分を500ワットでチクチク温める係ですのね」
「ああ、そうだ」
あれ? でもそれって最前線に立つってことだよね。
「タコ殴りにされません?」
「メシ子殿の防御魔法なら問題ないだろう。それに、前線で敵を引きつけてもらえるだけでもありがたいのだ」
ああ、マトになっておけばいいってことね。
「……って、おい! 一般市民を囮にすんなよ! ノブレス・オブリージュはどこに行った!」
「いや、戦略級魔法を撃てて、無敵の防御魔法を持ち、神話級の従魔を持つメシ子殿のほうが圧倒的に力がある『ノブレス』だろう」
「それもそっかー」
「ああ、そうだ」
納得ー。私ってすでに世界を滅ぼす力持ってない? ただの追放令嬢なのに?
まあ、ともかく。
「ヤッコロ」
「なんだ」
ヤッコロを見つめ、力強くうなずく。
「まかせて」
「メシ子殿……!」
ヤッコロが涙ぐむ。
いつものヤッコロなら、いくら無敵の力があっても、私を囮扱いなんて絶対しない。それほど戦場は切羽詰まってるってことなんだよね。
それに応えないなんて、居候の名にもとる!
「頼む……!」
「うん、でもちょっと準備あるから一旦帰るね」
「は? え? め、メシ子殿ーーーッ!」
私は馬車を飛び降り、ゴロゴロと斜面を転がっていった。
***
【今日の破綻飯ハック】
やあみんな! メシ子だよ!
年1で卵パック全落しをしちゃうよ!
今日のメニューはこれ!
テッテレー!
★No.0040『エクスプロー丼』
材料: 生卵、白米、マヨネーズ
調理時間:30秒(爆ぜるまで)
破綻度: ★★★☆☆(異世界でしか通用しないので真似しないでね)
卵を割るのも混ぜるのもしんどいときってあるよね!
そんなときはレンジにインして爆発させよう!
割る、混ぜる、焼くが一瞬で終わるから、あとは庫内にへばりついた卵をケバブみたいに削いで白米に乗せるだけ!
殻が気になる? そこは気合でかみ砕け!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「爆発(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




