第33話 破綻令嬢は聖女を実家に持ち帰る
変な聖女が仲間になった。
みんなで馬車でヤッコロ家に向かう。
「これが、夢にまで見た『チキチキ!メシ子様との聖地巡礼・お泊り馬車ツアー』……!」
「聖女様、ただの馬車移動です」
「ねえ運営さん、会費はどこに支払えばよいのかしら?」
「運営……? 支払いは不要です」
「なんて良心的……! でもそれじゃ推しが生活できないんじゃ……?!」
「資金は潤沢にあるのでご心配は無用です」
なんかヤッコロと押し問答してる。
けど、そんなことより馬車が問題だ。
「相変わらず揺れますわね。いよいよお尻が4つに割れましたわ」
「また冗談を……って増えてる?!」
ミニメシ子がお尻からもぞもぞと這い出してきた。
「ですわー!」
「ですのー!」
「きゃーっ! かわいいーっ!」
褒められちゃった。照れるね。
聖女がミニメシ子を抱える。
「運営さん、このグッズ、いつ発売されたんですか?!」
「グッズではないですが……」
「え? では何なんですか?」
「これはですね…・…えっ、いや、そう言われれば、何なんだこれ……メシ子殿、ミニメシ子殿とは一体なんなのだ……?」
いや、私も知らないよ。
なんか勝手に出たり入ったりするんだよね。
まあ適当に応えておくか。
「それは、世界の歪みが生み出した破綻の苗床……」
「は、破綻の苗床……意外と恐ろしい存在だったのだな……」
「なんだかよくわからないですけど、可愛いからもらっていいですか?」
「ですわー?!」
焦ったミニメシ子が私のお尻の肉に還ってくる。
出たり入ったり忙しいな。
「そんなことより、この揺れなんとかなりませんの?」
「そうは言ってもだな……」
そこで、聖女がガバッと顔を上げた。
「おまかせを! メシ子様のために、私が魔法でなんとかします!」
聖女が両手を組んで祈りを捧げると、馬車の車体がふわりと淡い光に包まれた。
次の瞬間、ガタガタという不快な振動がピタリと止んだ。
「お、快適になりましたわ。感謝ですわ」
「もったいないお言葉です! メシ子様の安眠を守るためなら、命を懸けて浮かせ続けます!」
「馬車のサスペンションごときに命を懸けないでください!」
「ぬおおおお! あと1メートルぅぅぅ!」
「聖女様! 血管! 血管が切れそうです!」
魔法ってそんなバーベルあげみたいなノリなの? この異世界やべぇな。
そのとき、退屈そうに窓の外を眺めていたギン子が答えた。
「ふん。光の小娘風情が。主よ、我もその程度たやすくできるぞ」
「え?」
ヤッコロが嫌な予感に青ざめた瞬間。
ギン子の手から放たれた絶対零度の冷気が、馬車の車輪と、眼下に続く街道を一瞬にしてカチカチの氷に変えた。
「ちょっとギン子、何して——」
「主よ、これなら揺れぬ上に、目的地まで一瞬だ。褒めてよいぞ」
──ズズズ……シャアアアアーーーーーーーーッ!
摩擦係数が完全にゼロになった氷のレールの上を、馬車が猛烈な勢いで滑り始めた。馬が引くスピードなどとうに超えている。完全に氷上のボブスレー状態だ。
「ヒャッハーーー! 前方の馬車を全部ごぼう抜きですわー!」
「メシ子様が楽しんでいる……幸せ……」
「ふっ、さすが我」
「いやあああああああーーーーっ! 怖い怖い怖い怖いーーーっ!」
ヤッコロの悲痛な絶叫と、私の歓声、そして聖女の祈りの声が入り混じる中。
猛スピードの氷結ボブスレー馬車は、ロシュフォール公爵邸の正門へと物理的に突っ込んでいった。
***
「なっ、なんだあの塊は——!?」
正門の警備に当たっていた門番が、猛スピードで迫りくる氷の塊を見て目を剥いた。
止まる気配など一切ない。むしろ加速している。
「開けろォォォ! 私だァァァ!」
「ヤツネお嬢様!?」
「すまん! 説明はあとだーーーー!」
門番が慌てて門扉を開け放つと、氷結ボブスレーは猛烈な冷気を撒き散らしながら屋敷の敷地内へと爆走していく。
「履いている、私は履いているからなーーーッ!」
「この状況で、もっと伝えるべきことあるんじゃない?」
ヤッコロの謎すぎる弁解に、門番はぽかんと口を開けていた。
けど、暴走は唐突に終わりを迎える。
玄関前のアプローチへ差し掛かった瞬間、ロシュフォール邸に張り巡らされた『過剰なまでの耐冷気魔導具』の結界に触れ、ギン子の氷が一瞬にして蒸発したのだ。
「あっ」
摩擦係数ゼロの世界から、急激なアスファルト(石畳)への帰還。
慣性の法則に従い、サスペンションごと吹き飛んだ馬車から、私たちは前方の地面へと勢いよく放り出された。
──ずざざざざざざざッ!
玄関前の石畳を派手に滑り、なんとか停止する。
「……いてて。カロリー消費が激しすぎますわ。もう一歩も動きたくありませんわ……」
「ああッ……!」
私が地面に座り込んでぼやいていると、私のお尻の下から、なぜか歓喜に満ちた声が聞こえてきた。
見下ろすと、私が勢いよく尻餅をついたクッションの正体は、純白のドレスを泥だらけにした光の聖女だった。
「メリィナ様の御尻の重みで……! 全身の血流が、今までにないほど活性化しています……! これが神の尻圧……!」
「どんな尻マッサージだよ」
「ああ、神の心地……はっ……! い、いけません!」
聖女が突然ハッと我に返り、青ざめた。
「推しの許可なく、このような物理的接触を図るなんて、信徒として言語道断……ッ! 不敬の極み! ええいっ!」
「えっ、ちょ——」
ドォォォンッ!
聖女の体から猛烈な光の結界魔法がドーム状に展開され、上に乗っていた私はトランポリンのようにぽーんと空高く弾き飛ばされた。
そしてそのまま、見事な放物線を描いて玄関先の植え込みに頭から突っ込む。
「むぎっ!」
「メシ子様ーっ! 一体だれがこんなことをっ!」
「いや聖女殿だろうが!」
「でも、植え込みに突っ込んでも美しい姿……」
「我のほうが美しいぞ!(ずぼっ)」
「ムグーッ!」
植え込みに頭を突っ込んで足だけバタバタする謎のオブジェが二つ。
それを前に涙を流し祈りを捧げる聖女。
どんな邪教かな?
「あらあら、にぎやかなお帰りね。長旅ご苦労さま、ヤツネ」
お母様は惨状を一瞥すると、一切の動揺を見せずにニコリと微笑んだ。
「は、母上! こちら聖女殿で、さまざまな事情が重なり我が家に……」
「まあ、そうなのね」
「反応薄っ!」
「お世話になります」
「ご丁寧にどうも。お風呂の準備がちょうどできているわよ」
それを聞いて、私は植え込みから頭を引っこ抜く。
「助かりますわお母様! ご飯のまえに、ひとっ風呂も悪くないですわね!」
植え込みに生えてたオオバをもぐもぐしながら親指を立てた。
「え、メシ子様、何を食べてるのですか?! 私も食べます!」
「我も食べるぞ!」
「人んちの観葉植物を勝手に食べるな!」
「でもヤツネ、お庭が『整った』わよ」
「え……本当だ……『調和』した……?」
私たちは泥だらけのまま、ゾロゾロと屋敷の中へとお邪魔することになった。
***
【今日の破綻ライフハック】
やあみんな! メシ子だよ!
アパートって「ばらばらにする」って意味らしいよ!
たしかに私の生活はバラバラに引き裂かれてるよ!
今日のライフハックはこれ!
テッテレー!
★No.033『共用部分をサラダバーにしろ』
材料: 食える草、管理人さんの許可
効果: 帰宅即ベジファースト
代償: 住環境
破綻度: ★★★★☆(共用部の治安が終わる)
管理人さんに許可取って、アパートの共用部分に食える草を植えよう!
部屋に入るまえに即ベジファーストができちゃうよ!
ただし、虫や他の住人との収穫バトルが始まるから覚悟してね! あとミントは絶対植えるなよ!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「ベジファースト(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




