第32話 破綻令嬢は聖女の推し活にドン引きする
「おいひぃぃぃぃぃぃぃ」
ドレスにへばりついた茶色いホロホロ肉を、ちゅぱちゅぱと舐め回す白女。
何度見ても絵面がキツい。
「せ、聖女様……まさか、光の聖女マリアンヌ様なのか?! なぜこのような森の奥に……」
ヤッコロが驚愕の声を上げる。マリアンヌっていうんだ、このヤバい女。
しかし、彼女はヤッコロの疑問などガン無視で、肉汁まみれの顔を上げて私を見た。
その瞳には、完全なハートマークが浮かんでいる。
「ずっと、ずっとお会いしたかった。私、メリィナ様が王都を追放されたと聞いて、いてもたってもいられなくて追いかけてきたんです」
「えっ」
「メリィナ……?」
「はい! メリィナ=シロノワール=コマンタレブー様です」
ヤッコロが素っ頓狂な声を上げた。
「メシ子殿が、コマンタレブー家のご令嬢なわけがないだろう! あの方はすでに処刑されたと聞いている!」
「殿下の恩情で追放になったのです」
恩情っていうか恐怖だけどね。
「いや、絶対に違う! メリィナ様のお顔は咲き誇る白百合のように美しく、立ち居振る舞いは女神のように気品に満ちていたという……」
え、マジで。私すげぇ。
「だが、メシ子殿は、妙に悟ったような笑みを浮かべながら、その辺の草にマヨネーズをかけて食うのだぞ! 似ても似つかない! まったくの別人だ!」
「なんかディスられてる?」
「う、うう~、私の憧れのメリィナ様がメシ子殿のわけがあってたまるか~!」
「泣くほど?」
ヤッコロは懐から取り出したメリィナ人形を握りしめて号泣しだした。
てかメリィナって悪役令嬢だよね? 憧れるわけなくない?
「処刑も冤罪に決まっている~」
「政治的にかなりやばくないその発言? 一応ヤッコロって王国騎士団の人よね?」
まあ、でも私、悪役令嬢時代の記憶スッとんでるからね。
人違いっちゃあ人違いなんだよね。
「ともかく、人違いですわ」
「ッシャアーーー!」
「ヤッコロ、喜びすぎじゃない?」
けど、聖女は食い下がってきた。
「私が間違えるわけありません。メリィナ様を神と崇め、毎日10回の礼拝を欠かさなかった私が、見間違えるわけがないでしょう!」
「聖女だよね? 本来の神どこ行った?」
「ついでに祈ってました」
「ついで!」
どうなってんだよこの国。大丈夫か。
「もうらちがあきませんわね。真実を教えますわ」
「し、真実……?」
ヤッコロがごくりと唾をのむ。
「転生ですわ」
「転生……?」
「ええ、私の中身は、別世界からやってきた転生体ですの。だから、メリィナという女の記憶はあんまりありませんわ!」
言ってやった。私のマジの真実。これが私の誠実!
けど、ヤッコロはジトッとした目で見てきた。
「いや、この場面で嘘は良くないぞ」
「本当なのに!」
突飛すぎて信じてもらえなかった。
まあ私も未だに信じられないわ。
「転生……!」
けど、マリアンヌはなぜか目を輝かせ、パァァァッと顔を綻ばせた。
「推しが『転生した』というなら、黙って転生後を推す! それが私の『推し活』! どんな姿になっても、メリィナ様(中身)はメリィナ様(中身)です!」
「え、納得した?」
「ということでこの方はメシ子様です。メリィナ様ではありません。メリィナ様は死にました。そして、本当の神になったのです……」
「貴女の中でね? 貴女の中でだけだからね?」
異世界のコンプラ的に危うそうな発言なので念押ししてしまった。
ていうか、マリアンヌって、私がイジメてた「可哀想な聖女」じゃなかったっけ?
「えーと、メリィナって、貴女のこと王宮でイジメてたはずですわよね?」
「イジメだなんて! とんでもない!」
マリアンヌが両手で頬を包み、うっとりとした表情を浮かべた。
「『こんな泥水みたいな紅茶飲めないわ』って私の淹れたお茶を床にぶちまけてくれた時の、あの蔑むような視線! 『あんたみたいな平民上がりが』って罵ってくれた時の、あのゾクゾクするような美声! すべてが私への極上のご褒美でした!」
「ええ……」
私も私だけど、聖女も聖女だった。
「むしろ、もっと私を踏み躙ってほしかったのに、殿下が勝手にしゃしゃり出てきてメリィナ様を追放するから! 私、絶望して王都を飛び出してきたんです!」
聖女、ただのドMの変態じゃねぇか。
(待てよ……)
ということは、聖女は私に好意しかない。つまり、ポイントが稼げない。
つまり、この場での優先度は、聖女よりも……
「おらぁ! 山賊どもぉ!」
「ひ、ひぃぃぃっ!」
山賊たちを見ると、ガチガチと歯の根を鳴らしながら震え上がっていた。
全然切りかかってくる気配がない。
こりゃ発破をかけないと。
「我が名はメシ子……我を倒したものには力をやろう……世界をひっくり返す、圧倒的な力を……」
「メシ子様の見せ場! 投げ銭! 投げ銭!」
けど、山賊たちの反応は思ってたのと真逆だった。
「炎のアフロ魔人に、肉汁塗れのイカレ女!」
「もう嫌だ! 俺たちはただカツアゲしたかっただけなのに!」
「騎士様! 頼む、俺たちを捕まえてくれ! 牢屋に入れてくれぇっ!」
山賊のボスが、ヤッコロの足元にすがりついて号泣し始めた。
「早く! あの女たちから俺たちを引き離してくれぇ!」
「あ、ああ……わかった。自首するなら縄をかけよう……」
ヤッコロが戸惑いながらも、山賊たちを縛り上げていく。
自ら捕まりにいくなんて、感心な山賊もいたものだ。
けどポイントが稼げなくなって悲しい。
「もう用は済みましたわね。ヤッコロ家に帰りますわよ」
「待て、その前に聖女様を王都に送り届けねば」
しかし、聖女は首を横に振った。
「いいえ。王都には戻りません。神(メリィナ様)のあるところこそ私の居場所。ついていきます」
「お待ちください! 聖女様を勝手に連れ出すなど、誘拐として政治問題になります!」
ヤッコロが必死に説得してる。
マリアンヌがため息をつく。
「仕方ありませんね」
そして、懐から四角い道具を取り出した。
指でピピピと操作して、耳に当てる。
「あ、もしもし、大司教~? 今日友達んち泊まってくから~。大丈夫大丈夫、女友達。ていうか騎士。そう、ロシュフォール。しばらくいるかも。お勤め適当にごまかしといて~」
──ピッ
「問題ありません」
「女子高生かよ!」
「大司教様が認めたなら問題ないか」
「いや問題あるでしょ! お勤め適当にごまかすなよ!」
こうして聖女ことマリアンヌがついてくることになった。
***
【今日の破綻ハック】
やあみんな! メシ子だよ!
前世はたぶん大根だよ!
今日のライフハックはこれ!
テッテレー!
★No.032『黒歴史は前世のせい』
材料: 過去を切り捨てるメンタル
効果: その場を乗り切れる
代償: 空気がシケる
破綻度: ★★★☆☆(その場しのぎ)
黒歴史でイジられるの、マジでダルいよね!
そんな時は「あ、それ前世の私のことですね」と言い切ろう!
相手もイジりがいがなくなってトーンダウンするよ!
でも、今度はその言動が黒歴史化するからね! 歴史は繰り返す!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「転生(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




