第28話 破綻令嬢は天蓋付きベッドをケバブ屋台にする
特級呪物の奪還っていう世紀の大ミッションを終え、私とヤッコロは割り当てられた王宮のゲストルームへと帰還した。
ふう、長かった。ついに、待ちに待った夜食タイムの始まりだ。
テーブルの上には、さっきの祝宴の厨房からちゃっかりくすねてきた『飛竜肉の極厚ロースト』の巨大なブロックがドーンと鎮座している。そして私の右手には、愛しの業務用マヨネーズ(1kg)。
「うっふっふ、夜食夜食~」
ヤッコロが腕を組み、呆れた顔をしている。
「よく太らないものだ……」
たしかに。さすが異世界。公爵令嬢補正でもついてるのか。
そういうヤッコロも剣ぶんまわしてるわりにムキムキじゃないよね。
「そういうヤッコロだってスタイルいいじゃーん! 二の腕なんてスッキリ……ッ?!」
ヤッコロの二の腕をプニプニしようとした私に衝撃が走る
「どうした」
「なんという密度……なんという質量……これが、鋼鉄の上腕か!」
「何を言っている」
異世界人、地球の常識が通用しないね。
「私は寝る支度をする。あまり夜更かしするんじゃないぞ」
「はーいママ」
「ママではないが」
「じゃあパパ」
「もっと違う!」
私は椅子を見つめ、そして、部屋の奥にある超高級な『天蓋付きベッド』を見つめた。
王族や国賓が使うような、柱があって上にヒラヒラの布(天蓋)がついてる、あのお姫様ベッドである。
「ヤッコロ……私、もう限界ですわ」
「なんだ、眠くなったのか?」
「いえ、椅子に座ってフォークとナイフを使って食べるのが、だるいですの」
「限界のベクトルが底辺すぎる」
奪還ミッションで体力も気力もゼロになった私の体は、「座る」なんていう高度な姿勢制御を完全に拒絶していた。
食べたい。でも動きたくない。寝転がったまま、肉のほうから勝手に口に入ってきてほしい。
そんなワガママすぎる欲求を満たすべく、私は気合で立ち上がり、飛竜肉のブロックにタコ糸をぐるぐると巻きつけた。
「おい、何をしているのだメシ子殿。まさかそれも……料理か?」
「料理であり、ライフハックなのですわ」
私は肉をぶら下げたまま天蓋付きベッドによじ登り、ベッドの頑丈な柱と天蓋の骨組みを使って、飛竜肉のブロックをちょうど自分の顔の真上に吊るしてみた。隣にはマヨネーズも吊るす。
「よし、完璧」
「なぜわざわざ肉とマヨを高所に吊るすような真似を……座るのもだるいのではなかったのか」
「よりよい生活のための『改善』ですわ! 明日の怠惰のために今日の手間を惜しまない……なんて丁寧な暮らしぶり! 丁寧~」
「それを『丁寧な暮らし』とは言わないと思うが」
ヤッコロの呆れ顔を華麗にスルーして、私はベッドに仰向けでゴロン。
目を開ければ、そこには宙に浮く巨大な飛竜肉。
私は口を大きく開けて、ぶら下がった肉の端っこに直接かぶりつく。モグモグ。さらに、隣のマヨネーズに吸いつき、ちゅうちゅう吸う。
咀嚼。からの、嚥下。
うん、最高かよ。重力に従って肉汁とマヨがダイレクトに喉の奥に落ちてくる。
「名付けて、『全自動・天蓋付きケバブシステム』ですわ!」
「ケバブに謝ってくれ」
マジでごめん。
「というか、シーツに肉汁とマヨネーズが垂れるではないか! 最高級のベッドだぞ!」
「大丈夫ですわ、落ちてくる肉汁は私の顔面で受け止めてますから。むしろ極上の美容液ですの」
「顔がテカテカのギトギトだろうが! それに気道が詰まるぞ!」
「良い子は真似しないでね」
「言われなくてもしない!」
ヤッコロがシャキンッと剣を抜き放ち、ベッドの柱に吊るされたタコ糸を断ち切ろうとする。
「待ちなさいヤッコロ!」
私は肉をかじったまま、口の端からマヨを垂らして叫んだ。
「今その糸を切ったら、この重たい飛竜肉のブロックが私の顔面に直撃して窒息死しますわよ!」
「えっ?! い、いや、普通に避ければいいのでは?」
「今の私に避ける意思があると思いまして?」
「逆になんでないんだ!」
「もしタコ糸を落として私が死んだら、ヤッコロの責任。無力な市民を手にかけたことになりますわよ?」
「くっ……無茶苦茶だ……」
といいつつ剣を収めるヤッコロ。ちょろすぎる。
けど、ここからが本番だ。
「この窮地を救えるのも、またヤッコロなのですわ。その卓越した剣技で、この飛竜肉を私が一口で食べられるサイズに薄く切り落として、私の口に正確にダイブさせるのですわ!」
「な……ぜ、私が、王国騎士の誇りであるこの剣で、そのような真似を……!」
「え、できませんの?」
私の問いかけに、ヤッコロの顔色が変わる。
あ、これ『マジ』のオーラだ。
「……なめるなよ。私は王国騎士団の第三席、ヤツネ・コレット・ロシュフォールだッ!」
──シュパパパパパパパパッ!
目にもとまらぬ速さでヤッコロが飛竜肉を細切れにしていく。
すげー。神速じゃん。ポンコツ女騎士だと思ってたのに。
「もぐもぐもぐ」
「どうだ! 完璧なサイズだろう!」
「もうちょっとゆっくり」
「お安い御用だ!」
私はベッドで仰向けになったまま口をあんぐり開け、神速の剣技(シュパパパッ!)によって次々と口内にドロップされる極上のお肉にマヨを絡ませつつ、腹の底まで夜食を堪能しまくったのだった。
天蓋付きベッドって、ホント最高に快適だなぁ。
***
【今日の破綻ハック】
やあみんな! メシ子だよ!
改善提案だけは前向きだよ!
今日のハックはこれ!
テッテレー!
★No.028『改善の方向だけは前向き』
材料:向上心
効果:生活が前に進む
代償:間違った方向に進む
破綻度: ★★★★☆(終着にまた一歩近づく)
生活をよくしたい気持ちは本物なのに、向かう先が寝ながら肉を食う仕組みなことってあるよね!
いったん深呼吸して落ち着いて!
肉のまえに水! ベッド脇にクソでかペットボトルとチューブを用意しようね!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「改善提案(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




