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第27話 破綻令嬢は特級呪物奪還作戦で引きこもる

 料理対決で宮廷料理人氏のドチャメチャうま料理を堪能した翌日。

 まあそれはどうでもいいんだけど、マジでヤバい問題が発生している。


「私のマヨネーズが……ッ!」


 医療班に『特級呪物』認定されて没収されたマイ・マヨネーズ(業務用1kg)が、王宮地下のガチで厳重な保管庫に封印されちゃったのだ。鉛の箱って、放射性物質かよ。


「諦めろメシ子殿。明日、私が騎士団長殿に掛け合い、正式な返還手続きをとろう」


 ヤッコロが生真面目に胸に手を当てて言うけど、私は全力で首を横に振った。


「お役所仕事など待っていられませんわ! 今夜の『夜食の飛竜肉』にマヨが必須なのです! これは私の命がかかった重大なミッションですわ!」

「夜中にマヨ肉を食うほうが命にかかわると思うが……」

「さあ、保管庫に案内するのですわ!」

「なぜ私が! 犯罪行為に手を貸すわけがないだろう! むしろ止める立場だ!」


 私は深いため息をつく。

 鋭い目でヤッコロを見据える。


「もともとマヨネーズは私のものですわ。権力から不当な扱いを受ける市民を、騎士として守る義務があるのではなくて?」

「た、たしかに、ただの調味料を市民から勝手に奪うというのは……うっ……義務……」

「そもそも、ここに私を連れてきたのはヤッコロですわ? マヨを取り返す責任があるのではなくて?」

「い、いや、メシ子殿が来たいと言ったはずだが……だが、たしかに我が家が後援する形になっている以上、私の責任も……」


 お、揺れてる揺れてる。もう一息。


「義務ですわ……責任ですわ……」

「うう……! 義務……! 責任……!」


《特典『女騎士のジレンマ』を検知しました。ハタゾンポイントを500ポイント付与します》


 おっ、ポイントゲット! 心が痛むなぁ。


 ともあれ、ヤッコロを連れてさっそく行動開始。医療班の詰め所からこっそり『完全防護服』を二着パクってきた。


 魔導具の空調完備で気密性もバツグンの分厚いスーツ。これを着て医療班にコスプレし、保管庫にカチ込んでマヨを奪還する作戦である。


「行きますわよ、ヤッコロ! 息を殺すのですわ!」


 防護服に身を包んだ私たちは、スパイ映画ばりにコソコソと地下保管庫へ潜入。


 薄暗い石造りの通路を抜け、厄介そうな魔法陣をスルーして、ついに最深部の台座に鎮座する『鉛の箱』を発見した。


「ありましたわ! あの箱の中に私のマヨが……ッ!」


 私は箱に向かって駆け寄り——ピタッと足を止めた。


「どうした、罠か!?」


 ヤッコロが剣の柄に手をかけ、鋭く身構える。

 私は、自分の着ている防護服をまじまじと見下ろした。


「……ヤッコロ。この防護服、すごい」

「当たり前だ。これは特級呪物を扱うための最高級品だからな。呪術や瘴気を含め、中と外を断絶するまさに鉄壁の防護服だ。一着で家が建つぞ」

「★★★★☆。外の地下室の寒さも、床の冷たさも全く感じません。しかも、ヘルメットで顔がすっぽり隠れてるから、誰にも私の表情(すっぴん)を見られない。『一生脱がなくていい究極の部屋着』です。」

「潜入ミッション中に服の着心地をレビューしだすな! 国家の専門装備を『着る毛布』みたいに言うんじゃない!」

「ただ、着るのが大変なので☆マイナス1です」

「☆減らすな! 早くマヨを取るんだ」


 でもさぁ、この極上の快適さを知っちゃった私の体は、もう1ミリも動きたくないわけよ。


「ふう……」


 マヨの入った鉛の箱をガン無視して、私は冷たい石の床にゴロンと仰向けに寝転がった。防護服のおかげでベッドみたいにふかふかだ。最高か?


「おい! 何をくつろいでいるんだ!」

「この部屋とこの防護服……静かだし、気温も完璧。私、ここに住みますわ。もう一生ここから出ません」

「マヨ奪還はどうなった?!」

「次の世代に託しますわ」

「そんな大それたものじゃないだろ……」


 ヤッコロをスルーして、私は懐から『あるもの』を取り出した。

 黒っぽいギトギトした、巨大な謎の塊だ。


「な、なんだ? 本物の『特級呪物』か?!」


 ヤッコロが構える。


「先ほどの料理対決で、筆頭料理人のおじさんが使った鉄板から、こっそりこそぎ落としてきた『焦げた脂と肉汁の残滓』。それを、余った白米に混ぜ込んで握った『サステナブルおにぎり』ですわ!」

「国家の最高機密エリアで食うものじゃないだろ!」


 ヤッコロの悲鳴が地下室に響き渡る。


 私はヘルメットの隙間から器用におにぎりをねじ込んで、むしゃむしゃと頬張る。

 んん〜っ! 飛竜のヤバい脂が白米に染み込んでて、最高のギトりだ!


「ああもう! ほら、ヘルメットの内側が、おにぎりの脂と肉汁の結露でギトギト! 前が見えていないだろうが、メシ子殿!」


 ヤッコロの言う通り、ヘルメットのシールドは脂の湯気で真っ黄色に曇って視界ゼロだった。まあ、どうせ寝転がってるだけだし別にいっか。


 ——カツン、カツン。


 と、その時。通路の奥から足音が聞こえてきた。見回りの警備兵だ。マジかよ。


「誰だ! こんな夜中に保管庫にいるのは!」

「マズい! 見つかったぞメシ子殿! 私が説明するから、大人しくしていてくれ!」


 ヤッコロが焦って前に出ようとするが、私は寝っ転がったまま制する。


「いえ、これは私の戦いですわ」

「め、メシ子殿の戦い?」

「ええ」


 部屋のど真ん中で、私はブツブツと呪文を呟く。


「クゥ……ネル……メシ……」


 そして、手足をデタラメな方向にガクガクと動かしながら、不気味な呻き声を上げる。


 駆けつけてきた警備兵は、床でのたうち回る私を見て息を呑んだ。


「ヒィィィィッ!? と、特級呪物の瘴気で、防護服がバケモノになったァァァッ!!」


 黄色い獣脂でドロドロに濁ったヘルメット。

 クチャクチャの咀嚼音。

 そして「クウネルメシ」の呪詛。


 立派な怪異の完成である。


 警備兵は完全に腰を抜かし、悲鳴を上げて逃げていった。


「ヤッコロ、今ですわ!」

「え? あ、ああ」


 ヤッコロがすかさずマヨネーズを回収し、私をズルズルと引きずって地下保管庫から脱出したのだった。


 ***


 自室に戻るなり、私はソッコーで防護服を脱ぎ捨てた。


「ああーっ、流石にキツいですわね」


 顔をしかめる私を見て、ヤッコロがため息をつく。


「あれだけ『一生出ない』とか『終の棲家』とか言っていたのに……」

「いえ。ヘルメットの中で脂ギトギトのおにぎりを食べたせいで、防護服の中に古くなった獣脂の匂いが充満して……ベタベタして気持ち悪いですの。洗うのも面倒ですし、もう捨てますわ」


 ヤッコロが頭を抱えて叫んだ。


「国家最高級の防具を使い捨てにするな!」


 このあとちゃんと洗って返した。


***


【今日の破綻飯】


 やあみんな! メシ子だよ!

 洗い物は最後まで見なかったことにしたいよね!


 今日の破綻飯はこれ!


 テッテレー!


★No.027『洗浄一体型・サステナブルおにぎり』

 材料:肉を焼いたあとのギトギトのフライパン、白米、エコな気持ち

 効果:洗い物がちょっと減る

 代償:見た目と気持ちがかなり終わる

 破綻度: ★★☆☆☆(言い方だけ意識高い)


 肉を焼いたあとのフライパンって、油ギトギトで洗うのだるいよね!

 そんなときは白米をイン! 肉汁も焦げもぜんぶ吸わせよう!

 洗い物も減るし、エネルギーも回収できて地球にもやさしいよ!

 ただしお腹と健康は破壊するよ!


 それじゃあ、またね!


 「高評価」と「地球への愛(お気に入り登録)」よろしく!


 ハタンキュ~(挨拶)

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