第25話 破綻令嬢は没収された特級呪物をワンクリックで再召喚する
このままじゃ王太子に2度目の追放を食らってしまう!
タダ飯のため絶対にそれは避けたい。
「ほら! この謎の肉が詰まった二の腕! 二の腕触っていいから!」
でも、腰を抜かした王太子は、私の二の腕に見向きもしてない。その奥——私の手に握られていた『あるもの』を見て、顔面を痙攣させた。
「あ……アア……ッ!」
王太子の瞳孔がガン開きになる。
あ、これ? 『業務用マヨネーズ(1kg)』見てる?
「そ、その白きドロドロ……あの酸味の効いた匂い……! 処刑台、雑草……! う、頭が……ッ!」
あれ、もしかして、フラッシュバックしてる?
「あ、ああああッ! あの女、あの女が来る……ッ!」
王太子はホラー映画の犠牲者のような顔で虚空を見つめ、カニのように口から泡を吹いてその場に気絶した。
てか元婚約者がちょっと草食ったくらいで、そんなトラウマになる?
肝っ玉の小さい王太子ね! イヤんなっちゃうわ!
「で、殿下が倒れられたぞ! 医療班! 医療班を呼べェェッ!!」
会場がパニックに陥り、王宮の医療班が駆けつけてきた。
医療班のリーダーは、私の手元にあるマヨネーズを見るなり血相を変えた。
「あ、あれは『特級呪物』ッ! 最強最悪の魔女、メリィナ・シロノワール・コマンタレブーが所持していた全てを喰らう邪のポーションだ!」
え、なんか設定が増長してない?
「貴族の皆様、直ちに避難を!」
「ひぃぃぃっ! 特級呪物ぅぅぅ!?」
「逃げろォォォッ!!」
悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げていく貴族たち。
完全防護服を着た医療班が登場。長いトングと何重もの結界魔法を使い、私の手から慎重にマヨネーズを奪い取ると、鉛の箱に封印して厳重に回収していった。
っておい!
「私のマヨネーズ……!」
怒涛の展開に唖然としていたら持っていかれてしまった!
ちくしょう、あれ500ポイントもするのに!
「ガッハッハッハ! なかなか面白い御仁ではないか!」
初老の大柄な男性が、笑いながら歩み寄ってきた。
ヤッコロと話してた騎士団長だ。
「騎士団長様ですわね。メシ子と申しますわ」
立派なカーテシーを決める。
「おお! なんだ、無頼者かとおもったが、礼儀も嗜んでおるのか! ガハハ! ますます気に入った!」
隣にいたヤッコロが満足気にうなずく。
「でしょう? 団長ならきっと気に入ると思いましたよ」
お、ヤッコロ、私のことよく言ってくれてたのか。
──スッ
そのとき、騎士団長がいきなり剣を抜いた。
「騎士団長、何を──ッ!」
騎士団長が私を切り裂く。
──ズッバァァァーーーン!
物理無効の副作用で、ドレスが派手に吹き飛んだ。
「おーっ! 本当に吹き飛んだぞ!」
こいつ、頭おかしいんじゃないか?!
物理無効だからって、いきなり斬りつけるやつがあるか!
しかもポイントついてねぇじゃねえか! なんで害意ねぇんだよ!
「何すんだテメェェ! せめて殺す気で斬れ!」
目からビームで猛抗議。
「団長! 謝って! 謝ってください!」
「がはは! すまんすまん! だが窮屈そうだったからな!」
「あ」
ドレスがはじけ飛んだら、砂時計体型が元に戻ってる。
なんだかお腹が空いてきたぞ。
「ここが我が死地と見つけたり」
懐からマヨネーズを取り出し、飛竜肉にドバドバとかける。
「うひょー! この味この味!」
「がはは! 『特級呪物』がそんなにうまいのか!」
「いや、団長、あれはただの調味料です。せっかくの料理にまたそんなにかけて……」
せっかくの料理?
ヤッコロ、それは違うな。
「ヤッコロ、味覚というのは人それぞれ、千差万別なのですわ。だから食卓にお塩やコショウが用意されている」
「ん、あ、まあそうではあるが……」
「それが私にとってマヨネーズだった。そして、私は破綻舌によって『これはマヨネーズをかけたほうがうまい』というのが直感的にわかるのですわ」
「そ、そうなのか。それは失礼した」
いや無茶苦茶な理論だぞ。納得して謝んなよ。なんだよ破綻舌って。
そこで団長がガハハと豪快に笑う。
「だがまあ、わからんでもないな! 貴族の上品な舌に合わせてるせいか、パンチが足りんわな!」
「ええ! さすが団長様。わかっていらっしゃいますわ」
私はマヨネーズがべっとりと絡んだ飛竜肉を口に運び、ゆっくりと咀嚼しながら偉そうに頷いた。
「この脂たっぷりのお肉を、上品に仕上げているのは素晴らしい技術ですわ。ただ、これじゃダメですわね。噛めば噛むほど臭みが出る、やっすいお肉特有の『アゴが疲れる感じ』が完全に消え去ってしまっていますわ」
「それは良いことなのではないか……?」
ヤッコロが呆れたように言うが、私の舌はそんな上品さを求めていない。
さらにドバドバと追いマヨネーズをしながら熱弁を振るう。
「いいえ。ヤッコロの家のヒゲ料理長なら、『噛み応え』を残したまま、脂の『溶ける感じ』を引き出していたはずですわ」
「……メシ子殿」
ヤッコロが低い声で私の名を呼ぶ。料理長のこと思い出しちゃったかな?
けど、語りモードに入った私は止まらない。
ビシッとフォークを突きつける。
「王宮の筆頭料理人が作ったと聞いて期待してきましたけれど、正直、ヒゲ料理長のほうが数倍うわてって感じですわね。このお肉には、食材に対する敬意が感じられませんわ!」
「メシ子殿、メシ子殿~」
ヤッコロが間延びした声で私を呼ぶ。
「なんですの。珍しく私がまともに食の品評をしているというのに……」
「後ろを見て、後ろ」
「後ろ?」
私が不満げに振り返ると、背後に凄まじい殺気を放つ巨大な影が立っていた。
見上げるほど巨体で、コック帽を被った筋骨隆々の男。手には血まみれの肉切り包丁が握られている。
「……今、なんと抜かした、小娘」
「えーと、ヤッコロ、この方ってもしかして……」
「ああ、宮廷筆頭料理人殿だ」
どうやらこの巨漢コックが、王宮の料理のトップらしい。
饒舌にディスっちゃったよ! もっと早くに止めろよ!
「オレよりアイツのほうが上手だと言ったな?」
ヤッコロが小声で言ってくる。
「メシ子殿、謝るんだ。我が家の料理長と、筆頭料理人殿はライバルで、犬猿の仲。無用なトラブルに巻き込まれるぞ」
「トラブル……?」
トラブルと言ったな。
それはつまり、害意判定によるポイントゲットの予兆!
私は胸を張って筆頭料理人に言い返す。
「あら。事実を申したまでですわ。このマヨネーズなら、同じお肉でもっとソウルフルな料理を作れますわよ」
「ほう。そこまで言うなら、貴様のそのマヨネーズとやらでもっとソウルフルな料理を作ってもらおうじゃないか」
そう言って、筆頭料理人は包丁を私に突きつける。
ふっ。同じお肉でもっとソウルフルな料理と来たか。同じお肉でもっとソウルフルな料理をね……
「えっ、同じお肉でもっとソウルフルな料理を?!」
「今自分で言ったよな?」
「ソウルフルって何……?」
「自分で言ったよな……?」
こうして、筆頭料理人と私の料理対決の火ぶたが落とされた。
***
【今日の破綻飯ハック】
やあみんな! メシ子だよ!
人類の歴史はマヨネーズの歴史って誰かが言ってたよ!
今日は久々の破綻飯だよ!
テッテレー!
★No.025『味覚の完全隠滅(全消しマヨネーズ)』
材料: 値引きシールが貼られた肉、めちゃくちゃ濃いタレ、マヨ
効果: やっすい肉をおいしく食べられる
代償: 胃もたれ、素材への敬意の喪失
破綻度: ★☆☆☆☆(完全有用情報)
スーパーで見つけた「元値が安いうえに半額シールが貼ってある肉」。普通に焼いたら死ぬほど獣臭くて絶望すること、あるよね!
そんな時は、めちゃくちゃ濃いタレで親の仇のように煮込んで、最後にマヨネーズをドバドバかけよう! 臭みもクソもなくなるよ!
でも期限内には食べろよ!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「追いマヨ(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




