第24話 破綻令嬢はタダ飯のために二の腕を差し出す
私が四つん這いで目からビームを撒き散らしている、その地獄絵図のド真ん中。
私を冤罪で追放した王太子が立っていた。
王太子は床に這いつくばる私を無言で見下ろし、それから視線を上げてヤッコロとギン子を見た。
「おい! ロシュフォールの女! S級冒険者はどこだ!」
ヤッコロが気まずそうな顔でおずおずと言い出す。
「あ、あの、殿下、目の前の……」
「ああ」
王太子は納得したように頷くと、優雅に食事をしていたギン子へと向き直った。
「この女が従魔の銀雪竜か? ふん、下等な獣かと思ったが、なかなかの美しさだ。聞けば最高位の竜種と言うではないか。さすがの余も見とれたぞ」
ギン子褒められてる。いやぁ、鼻が高いね。
「して、S級冒険者の……メシ子とやらはどこだ。このような従魔の主なのだ。そいつも美麗なのだろう?」
あら、いやだわ。
「殿下、その……」
ヤッコロが否定しようとするが、王太子は構わず続ける。
「此度の功績だ。未だ余に挨拶がない無礼も許そう。場合によっては側室として迎えてやらんでもない」
キャッ、復縁? 心の準備が……
ヤッコロがチラリと私を見る。王太子がその視線を追い、再び床にいる私を侮蔑の表情で見下ろした。
「ところで、この無様な魔獣はなんだ?」
魔獣って言われた。
「S級冒険者の従魔か? この度の功績がなければ、このような汚物、即座につまみだしていたところだぞ!」
おいおい殿下。
いくら四つん這いで頭にパンツを被って目からビームを出しているとはいえ、元婚約者に向かって汚物とはあんまりじゃないか。
「い、いえ、殿下……」
ヤッコロが胃のあたりを強く押さえながら、消え入りそうな声で真実を口にする。
「その、足元にいるのが、S級冒険者のメシ子殿です」
「…………は?」
王太子の時間が止まった。
私はゆっくりと顔を上げ、四つん這いのまま愛想笑いを浮かべた。
「ドーモ、S級冒険者のメシ子ですわ」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
王太子の絶叫が会場に響き渡った。
「これがS級冒険者だと!? 冗談も大概にしろ! 頭に下着を被り、床を這い回る醜悪な魔獣ではないか! こんな正気を疑う汚物が、我が国の最高戦力だと言うのか!」
親の仇のように罵倒してくる。
いくらなんでも言いすぎでしょ。
「なによ! 失礼しちゃうわね!」
——ペカーッ!!
私は抗議の意を込め、目からビームを放つ。対向車のハイビーム並みに眩しいやつを食らえ!
「ま、眩しい! 何をする! 余を誰だと思っている!」
「殿下ですわよね。よーく知ってますわ。ホクロの位置までね!」
——ペカーッ! ペカーッ!!
いや、ほんとはホクロの位置なんて知らんけど、元婚約者ってことでそれっぽいセリフ言ってみた。
「食らえっ! なんか高そうな自転車とすれ違うときに、無駄にピカピカ眩しいライト!」
——ペカペカペカペカペカペカッ!
四つん這いで王太子の足元ににじり寄りながら、下から顔面に向けて執拗にハイビームをパッシングし続けた。
「やめろっ! おい!」
やめるか! てかお前、私を不当裁判で3回も処刑してんだぞ! こんくらいされて当然だわ!
……あれ? でもそのおかげでポイントゲットしたし、むしろありがたかったかも?
「感謝のハイビーム!」
「ぐわーっ!」
王太子は目を両手で抑えてのたうち回りながら叫んだ。
「目がッ! 目がぁぁぁッ! 誰か! 誰かこいつをつまみだせぇぇぇ!」
(げぇっ!? つまみ出される!?)
それはマズい。
まだタッパー(ダンボール製)に飛竜肉のローストを詰めていないのに!
ここで追い出されたら、またヤッコロの丁寧和定食生活になってしまう!
焦った私は、咄嗟に立ち上がる。
ご飯を食べてなぜか異常にバルクアップした自分の『二の腕』を見る。これだ。これしかない!
「ちょ、お待ちになって! ほら! この二の腕! 触っていいですわよ! 特別に触っていいから!」
「ヒィィィィィッ!? 来るなバケモノォォォッ!!」
謎の肉が詰まった異形の二の腕を押し付けられ、王太子はついに腰を抜かして床に尻餅をついた。
タダ飯を死守するための私の捨て身の営業は、どうやら逆効果だったらしい。
***
【今日の破綻ライフハック】
やあみんな! メシ子だよ!
目からビームってなんでこんなに心躍るんだろうね!
今日のライフハックはこれ!
テッテレー!
★No.024『完全オフの時に知り合いに会ったら怪異になりきろう』
材料: 髪ボサボサの寝癖、ヨレヨレの部屋着、捨て去った羞恥心
効果: 「知り合い」という認識を「怪異」へと上書きできる
代償: 都市伝説になってしまう
破綻度: ★★★☆☆(事実を知るのは私だけ)
すっぴん&ボロ着で買い出し中、運悪く知り合いに見つかりそうになったら、瞬時に怪異になりきろう!
手足をデタラメな方向にガクガク動かしながら、「クゥ……ネル……メシ……」と虚空を見つめて呟き続けるんだ!
「知り合いにだらしない姿を見られた」事実は消え、「ヤバいバケモノに遭遇した」という都市伝説だけが残るよ!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「クゥ……ネル……メシ(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




