第23話 破綻令嬢はタダ飯のために目からビームを撃つ
王宮の祝宴会場。
きらびやかなシャンデリアが天井で輝き、集まった貴族たちが優雅にグラスを傾けている。
そんな華やかな場に、私たちS級冒険者パーティが足を踏み入れた瞬間、会場の空気がピーンと張り詰めた。
先頭を歩くのはヤッコロだ。
公爵令嬢である彼女は、凛とした顔立ちに完璧なAラインのドレスを纏い、隙のない優雅な歩みを進めている。さすがは本物の令嬢だ。
「おお……見ろ、あの気高く美しい令嬢を」
「なんと完璧なAラインのドレスだ。公爵家のヤツネ嬢だな」
周囲の貴族たちが、感嘆の声を漏らす。
次に続くのはギン子。
長身のモデル体型を活かしたタイトなマーメイドドレスを完璧に着こなしている。頭の氷の角も、前衛的なティアラのようだ。
「あちらの銀髪の美女は誰だ?」
「あのマーメイドドレスの着こなし……異国の王族か? 美しすぎる……!」
男たちが釘付けになり、ざわめきが広がる。
そしてトリは私。元公爵令嬢であり王太子の婚約者、メシ子である。
極限まで締め上げられた異形の砂時計体型に、ボリューミーなプリンセスドレス。
そして頭には、両目の部分だけ穴を開けた『メシ子のネーム入り純白ドロワーズ』(ヤッコロの下着は取り上げられた)をスッポリと被っている。
「な、なんだあいつは……!?」
「砂時計みたいな異形で……あ、頭に下着を被っているぞ……!」
(やっぱりこの格好、ダメじゃん?)
なんかヤッコロに「美しい! 最高の曲線美だ!」って絶賛されていい気になってたけど、普通にありえないでしょ私の恰好。
絶対につまみ出される。
私の飛竜肉のローストが!
私が冷や汗を流した、その時。
「な……なんという完璧なドレスラインだ……!」
「えっ?」
「極限まで絞られたウエストから広がる優美なドレス。そして、頭部から生える二つの線……! 計算し尽くされた美の調和……素晴らしい!」
初老の高位貴族の絶賛に、周囲の貴族たちも「これが最先端のトレンドか」と次々に頷き始めた。
(正気かこの国)
まあ、つまみ出されないなら好都合だ。
私は貴族たちの社交など完全に無視し、一直線にビュッフェコーナーへと向かった。
そこには、A5ランク飛竜肉の極厚ローストの山がそびえ立っていた。
「素晴らしいですわ!」
私は皿に肉を山盛りにし、一心不乱に食らいつき始めた。
砂時計体型に締め付けられているのに、なぜか普通に食べられる。
よく見ると、お腹以外の別の部分(主に二の腕)がリアルタイムで膨らんでいってる。無茶苦茶マッチョみたいになってきた。
(どういう原理だ)
すげーなコルセット締め士のゴンザレス伊東。
私が異形化しながらタダ飯を堪能していると、会場の男たちが、謎の美女三人組(うち一人は頭パンツ)を口説こうと様子をうかがい始めた。
一人の若い貴族がヤッコロに近づこうとする。
だが、ヤッコロは会場の隅にいた初老の騎士団長を見つけるなり、目を輝かせて駆け寄ってしまった。
「団長殿! 先日の『第六十二回・王都騎士道選手権』の決勝戦についてですが……!」
「おおヤツネ! あの『捨て猫が剣で雨宿りしだしたので突きの構えのまま6時間経過』のエピソード、まさか1番手優勝とはな!」
「ええ! そのあと熱で寝込みながら『ノブレス・オブリージュ……』と三日三晩うなされたというオチのキレは最高でした!」
謎の騎士道精神を語り合う変な選手権の感想戦が始まり、ナンパ男が入り込む隙は1ミリもなかった。
一方、別のキザな男が、マーメイドドレス姿で上品に料理を味わっているギン子に近づいた。
「麗しきレディ、私と一杯——」
「ん?」
ギン子が振り返る。
キザな男はギン子の美貌に当てられたように、恭しく手を取り、ひざまずいて手の甲に口付けをしようとした。
——ピキィィィッ!!
キザな男が、ひざまずいた姿勢のままカチコチの氷像と化した。
「あれ? ギン子、冷気を抑える『陽だまりの腕輪』はどうしましたの?」
「ドレスのシルエットに合わぬからと、ヤッコロに外されたのである。代わりに『陽だまりの腹巻・極薄』をしているのだが……薄すぎて効果は落ちるようだな」
「腹巻って。いよいよお爺ちゃんじゃありませんこと?」
ヤッコロのドレスラインへの執着、もはや病気である。
私は肉を咀嚼しながら、ため息をついた。
「仕方ありませんわね」
私は頭に被ったドロワーズの穴から『光魔法のビーム』を放った。
——ペカーッ!!
まばゆい熱線のレーザーが、氷像となった男を包み込む。
男の氷はみるみるうちに溶けていく。
溶けた氷で濡れないよう、床も乾かしておかないと。
「はっ!? 私はいったい……ヒィッ!?」
解凍されて目を覚ましたキザな男が、私とギン子を見て悲鳴を上げる。
「ば、化け物ォォォッ!!」
男は悲鳴を上げて逃げ出していった。
助けてやったのに、失礼なやつ!
そう思っていると、一連の流れを見ていた参加者たちがざわつき出した。
小さい悲鳴を上げて逃げてく貴族もいる。
『周囲からの「多大なる恐れ」を検知。ハタゾンポイントを50ポイント獲得しました』
おっ!? マジ!?
今ならダメージを受けなくても「恐れ」の判定でポイントが稼げるじゃん!!
完全に味をしめた。
タダ飯を一旦置き、私はドレス姿のまま床に四つん這いになった。
「ふひひひひひひ……」
不気味な笑い声を漏らしながら、四つん這いでカサカサと這い回り、ドロワーズの穴から「ペカーッ! ペカーッ!」とビームを放ちながら会場を練り歩く。
「ヒィィィッ!!」
「な、なんだあの光る頭パンツの異形はァァァッ!!」
『ハタゾンポイントを50P獲得しました』
『ハタゾンポイントを50P獲得しました』
ウハウハじゃん!
社会的な尊厳はガンガン下がっている気はするけど、背に腹は代えられない。
だが、私が四つん這いでビームを撒き散らしながら貴族たちを恐怖のどん底に陥れている、その地獄絵図のド真ん中に、聞き覚えのある声が響いた。
「騒がしいな。何事だ?」
床に這いつくばったまま見上げると。
そこには、見事な金髪と豪奢な礼服に身を包んだ男が立っていた。
「お、王太子殿下……」
それは、私を王都から追放した、王太子その人だった。
まさかの、四つん這いで目からビームを出した状態で再会。
一体、どうなっちゃうのー?!
***
【今日の破綻ライフハック】
やあみんな! メシ子だよ!
スマホのバッテリーが半日もたないよ!
今日のライフハックはこれ!
テッテレー!
★No.023『闇夜のコンタクト捜索隊』
材料: 散らかったゴミの山、落としたコンタクト、スマホのライト
効果: 運が良ければ見つかる
代償: 膝の黒ずみ、虚しさ
破綻度: ★★★☆☆(結局見つからない)
足の踏み場もない汚部屋でコンタクトを落としたら、四つん這いで探すしかないよね!
電気をつければいいのに、スイッチまで行くのが面倒でスマホのライトだけで照らす姿は、まさに闇夜の怪物!
途中で電池が切れて終わるまでがセットだよ!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「ホコリまみれの指先(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




