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第22話 破綻令嬢はタダ飯のために頭にパンツを被る

 最高級のタダ飯が食べられる!

 と思ったら、祝宴の主催が、私を追放した王太子であることに気づいてしまった。


 背筋に冷たい汗が伝う。


 この度の宴の主催は王太子。もし会場で顔がバレたら、「なぜ追放した女がここに!」と追い出されるに違いない。


 それはマズい。非常にマズい。飛竜肉のローストが食べられなくなってしまう!


「どうしたメシ子殿? 顔色が悪いぞ?」


 ヤッコロが首を傾げる。


 私は、コルセット締め士ゴンザレス伊東によって極限まで締め上げられた『砂時計体型』の腹を抱えながら、血を吐くような思いで告げた。


「……ヤッコロ。顔を隠す必要がありますわ」

「なぜだ?」

「真の破綻者(はたんもの)は、みだりに俗世に素顔を晒さないもの。インターネット黎明期を生きたものたちが伝えし、大切な教えですわ」

「インター……? よくわからんが、マスクを着用するということか? せっかくのドレスなのに……」


 ブツブツ言っているヤッコロは無視。


 もう顔を隠す手段は決めてるからね。

 部屋の隅のハタゾンのダンボールを手に取る。

 スポッと被る。

 何も見えない。


「メシ子殿、何を……」

「はーっ!」


 私が気合いを入れたその瞬間、両目から眩い閃光が走り、ダンボールに二つの穴が空いた。


「なにーっ?!」

「ハタゾーン・エーックス! ドライバーさん、いつもありがとう!(決めゼリフ)」


 さながら魔法少女のごとくポーズをとる。


「なぜ目からビームが?!」

「ふふふ、光魔法の応用ですわ。こっそり練習していたのですわ」

「他にやることはなかったのか……」

「なかったですわ」

「なかったか……」


 ヤッコロがため息をついてるけど、ヒモ生活にやることなんてあるわけないでしょ。


「ということで、これで行きますわ」

「ダメだ」


 ヤッコロが、私の頭からつま先までをスキャンするみたいに見て断じる。

 うん、まあ、確かに王都の祝宴にふさわしくないと言われたら、否定はできないよね。


「さすがにダンボールはダメ──」

「そんな箱、ドレスの美しいプリンセスラインが崩れるだろう!」

「思ってた理由と違いましたわね」


 まあじゃあへーきへーき。

 骨格砂時計だぜ?

 これ以上何のラインを気にしろというのか。


 けど、ヤッコロの決断は非情だった。


「それで行くというのであれば、私は参加を辞退させてもらう」

「げぇっ! そんなにプリンセスライン大事?!」

「無論だ」


 ヤッコロがいないと、コミュニュケーション業務が全部私に回ってくるじゃん!

 そんな状況でご飯なんて楽しめるか!


「仕方ありませんわね。では、こちらはどうかしら?」


 私は段ボールを脱ぎ捨て、タンスから『純白のドロワーズ(替えの下着)』を取り出すと、それを頭からスッポリと被った。目からビームを出して穴をあける。


「下着ではないか! そんなの許されると思っているのか!」


 え、ダンボールは許されるのに?

 ヤッコロの基準がよくわからないけど、私には明確なロジックがあるのだよ。


「ヤッコロ。騎士が正装の時に被る兜には、己の所属や家紋を示す意匠が施されているでしょう?」

「ん? うむ。だがそれが下着と何の関係が……」

「世間は私のことをどう呼んでいますの?」


 ヤッコロがハッとした顔をする。


「下着の狂鬼(ザ・ドロワーズ)……」


 相変らずヒデェ呼び名。


「そうですわ! つまり、この頭に被った純白のドロワーズこそが、私というS級冒険者を証明する『王冠』であり『兜』! 最上級の敬意を示したフォーマルな装いですわ!」

「な、なるほど……そう言われれば、そうなのか……?」

「納得すんのかよ」


 私の強引すぎるロジックに、ヤッコロは顎に手を当てて真剣な顔になった。


「いや、しかしそれではプリンセスラインが……む、待てよ、なるほどこう、このラインであればドロワーズの白さと美しく調和し……」


 ヤッコロはブツブツと呟きながら、懐からどこかで見たような『小さな人形』を取り出すと、恐るべきスピードで布を巻き付け、高速着せ替えを始めた。


(おい、あれ私じゃねーか。いつの間にあんな人形作ったんだ。怖すぎるんですけど)


 ヤッコロ、もしかして狂気の公爵家令嬢なのでは?

 え、秘密の部屋に『元人間の人形』がズラッと並んでるとかそういう展開来る?

 悪役令嬢モノかと思ったらサスペンスホラーだったの?


 私の心配をよそに、ヤッコロは満面の笑みを浮かべて顔を上げた。


「よし、解決だメシ子殿! ではドレスを変えよう。そのドロワーズに合ったラインの……ん?」


 ヤッコロの言葉がピタリと止まった。

 彼女の視線が、私の頭——顔の横あたりに縫い付けられた、見覚えのある刺繍に釘付けになっている。


「……メシ子殿。貴殿の兜に『ヤツネ』と刺繍されているのだ……?」


「あら、そういえばそうですわね。誰の名前かしら? あ、ヤッコロの別名か」


 ヤッコロの顔が見る見るうちに赤くなっていく。


「私の下着を、被るなァァァァァァァッ!!!」


 ヤッコロの悲鳴が、公爵邸のサロンに虚しく響き渡った。


***


【今日の破綻ライフハック】


 やあみんな! メシ子だよ!

 レギンス一枚履きする勇気はないよ!


 今日のライフハックはこれ!


 テッテレー!


★No.022『カーテンドレス』

 材料: ホームセンターのカーテン、1%のひらめき

 効果: だいたいドレスに見える

 代償: そう思ってるのは自分だけ

 破綻度: ★★★☆☆(言い張る勇気が必要)


 礼服って、必要な日にだけ存在しないよね!

 そんなときはカーテンを巻けば、だいたいドレス!

 でも友達んちの窓とおそろいになって終わるよ!


 それじゃあ、またね!


 「高評価」と「ドレスコード(お気に入り登録)」よろしく!


 ハタンキュ~(挨拶)

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