第21話 破綻令嬢はタダ飯のために手のひらを返す
S級冒険者に昇格してから数日後。
ここは公爵邸のサロン。
ふかふかのソファで寝転んでいると、一通の仰々しい封筒が届いた。
「メシ子殿! 王宮からの使者が、貴殿宛に手紙を持ってきたぞ!」
ヤッコロが、金箔押しの豪華な封筒を震える手で掲げている。
「王宮からの使者は全て詐欺ですわ」
「なんでだ?! 詐欺ではない! 王宮からの『祝宴』の招待状だ」
「『祝宴』? 誕生日にはまだ早いですわよ」
「そうではない。『新たなるS級冒険者にして、竜種を従えし英雄を讃えるための宴を催す』とある」
「行きませんわ」
「なぜだ!?」
私はあくびをしながら寝返りを打つ。
「王宮には破綻がない。破綻なきところに我なし……」
要するに、安全なパーティーに出てもポイントが貯まらないし、面倒だから行きたくないってこと。
ヤッコロは、驚きつつも納得してくれた。
「そ、そうか……。流石は求道者、安易な栄誉には靡かないというわけか」
「そうそう、そんな感じですわ」
ヤッコロは王宮からの招待状をしげしげと眺めだした。
「だが残念だな。この祝宴では、王宮の料理長が腕を振るった『A5ランク飛竜肉の極厚ロースト』や『キャビアとフォアグラのタワー』などが出るということだったのだが……」
——ガバッ!!
「行きますわ」
「は?!」
「極上の飛竜肉……いえ、その致死量のコレステロールと痛風の危機こそが、今の私に必要な死地。逃げるわけにはいきませんわ」
タダでうまい飯が食える。こんなに幸せなことが他にあるだろうか。
ただし、貴族たちへの愛想笑いはタダじゃないのを忘れてはならない。
今回は、場慣れしてるヤッコロに貴族どもの対応を全振りする作戦でいこう。
「そうかそうか。では、早速ドレスを吟味しよう。実は、メシ子殿用に100着ほど準備してあるのだ」
「すごいお金持ち」
ヤッコロが満面の笑みで手をパンパンと叩く。
なんか一瞬で100着のドレスと、いろんなスタジオセットが部屋に用意されたんだけど。
「メシ子殿は立っているだけでいいぞ。私が全部着せ替えるからな」
「リアルお人形遊びじゃん。暇を持て余した貴族令嬢の遊びすぎる」
けど、重要なことを忘れてる。
「せっかくですけれど、私ウェスト破裂させてしまいますわ」
そう、分裂メシ子のせいで私の腹囲は可変式なのだ。好きで下着でいるわけじゃないんだからね!
「お困りのようね」
そこで、お母様がニコニコと微笑みながらサロンに入ってきた。
「そう思って、今日は、王都から職人を呼んでおいたの」
「すごい行動力」
お母様がパチンと指を鳴らすと、めちゃくちゃデカい人が部屋に入ってきた。
「スモウレスラー?!」
マワシにチョンマゲ。脂肪の下に蓄えられているだろう圧倒的筋肉。
めちゃくちゃデカい人は、どこからどう見てもスモウレスラーだった。
てか、上裸なのによく公爵家に入ってこられたな。
「でもお母さま、なぜスモウレスラーを?」
「スモウ……? 違うわよ」
「え、では彼は……」
「『コルセット締め士』よ」
「コルセット締め士」
「ええ、『コルセット締め士』のゴンザレス伊東さんよ」
「コルセット締め士のゴンザレス伊東」
もう二度と口にしない文字列だ。
ゴンザレス伊東は、自分に視線が集まっていることに気づくと、両手でサムズアップをしてニカッと笑った。
「締めちゃうよ~?」
「あ、やっぱりスモウレスラーじゃないかも」
まあそんなことはどうでもいい。
私の腹囲は、締めるとか締めないとかではないのだ。
「お母さま、いくら締めても、破裂するものは破裂するのですわ」
「あら、コルセット締め士のスキル『聖域』なら、締めたコルセットは絶対に破裂しないのよ」
「効果のわりに名前がかっこよすぎる」
てかピンポイントすぎるでしょそのスキル。
「じゃあ、始めるわね」
「あ、ちょま」
有無を言わさず私に極厚のコルセットが巻き付けられる。
ゴンザレスが、しゃがんで揉み手をしたあとにパン!と手を打って広げた。
「塵手水じゃん! やっぱりスモウレスラーじゃん!」
「では、合図するわね」
お母さまを見ると、いつの間にかスターターピストルを持って、手を天に向けていた。
「オン・ユア・マークス、セット!」
「陸上だった!」
「のこった!」
「やっぱりスモウレスラーじゃん!」
発砲音とともにゴンザレスが一気にコルセットを締め上げる。
──ギギギギギギッ!
「ぐえーっ!? ちょっと、苦しっ、内臓が、上にッ!」
「いやあ、いつ見てもゴンザレス伊東氏の『締め』はすばらしいな」
「ええ。彼の『締め』には、魂を感じるわ」
「談笑してる場合じゃないって! ちぎれる! ちぎれちゃう!」
『締め』は数分続いた。
ゴンザレス伊東が汗をぬぐい、手刀をし終えて満足げに帰っていく。
私は鏡を見て戦慄する。
ウエストは異常なまでにくびれていた。
その姿は、完全に砂時計だった。
「……どういう原理ですの? 人体の構造無視してませんこと?」
内臓どこ行ったのこれ。
というか、見た目も異常でしょ。
だが、お母様は両手を合わせてうっとりとしている。
「これなら、主催の王太子様もきっと釘付けよ」
「そりゃそうですわ。こんな異形が歩いてたら誰だって……って、王太子?」
私はピタッと動きを止めた。
王太子が、主催?
(あーっ!)
そういやそうだ。
私って、王太子殿下に王都追放喰らってるんだった。
背筋に冷たい汗が伝う。
この度の宴の主催は王太子。もし会場で顔がバレたら、「なぜ追放した女がここに!」と追い出されるに違いない。
それはマズい。非常にマズい。飛竜肉のローストが食べられなくなってしまう!
「どうしたメシ子殿? 顔色が悪いぞ?」
ヤッコロが首を傾げる。
私は砂時計のようにくびれた腹を抱えながら、この絶体絶命の危機——『いかにしてタダ飯を死守するか』——に脳をフル回転させ始めたのだった。
***
【今日の破綻ライフハック】
やあみんな! メシ子だよ!
ピザのチラシ以外は全部詐欺って教わったよ!
今日のライフハックはこれ!
テッテレー!
★No.021『開けなければ中を見なくていい』
材料: 「重要」と書かれた封筒、現実から目を背ける心
効果: 開封するまで保たれる精神の平穏
代償: 延滞金、各種インフラの停止
破綻度: ★★★★☆(生活インフラの崩壊)
ポストに入ってる仰々しい封筒って、「どうせ税金の請求か面倒な手続きでしょ……」って、中身を見ずに机の端に積んじゃうよね!
「開けなければ中身はわからない」って現実逃避するのは、破綻生活の基本スキル!
でも、普通にあとで後悔するから気をつけてね!
それじゃあ、またね!
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ハタンキュ~(挨拶)




