第20話 破綻令嬢は人情人情(おせっかい)でS級に昇格する
——さて、前回のあらすじである。
燃料切れにより、私とヤッコロとギン子は、公爵邸の大浴場ごと巨大な氷に閉じ込められた。
「……で、どうやって抜け出したんだっけ」
翌朝。公爵邸のフカフカのソファでくつろぎながら、私はふと思い返した。
「メシ子殿が『フンッ』と気合を入れたら氷が粉々に砕け散ったのだ。破綻道恐るべし……」
「ああ、そうでしたわ。ついでに作ったカレー氷もおいしかったですわね」
「スパイス、スパイスゥゥゥゥ!」
「鳴き声みたいになってますわよ」
ギン子がガンギマリの顔で騒いでいる。
ちなみに、ギン子はヤッコロが用意した服を着ている。これで公爵邸の下着女増殖問題は解決した。
それにしても、竜種の絶対零度が爆発したのに、屋敷の被害が風呂場だけで済んだのが不思議だ。
「そういえば、他のお部屋は凍らなかったんですのね?」
「当然だ。この公爵邸には『冷気耐性100%』の結界魔導具が至る所に設置されているからな。私の指輪と同じだ」
「何その徹底的な冷気対策。冷気に先祖を焼かれたんか」
どんなトラウマがあったらそんなに冷気をメタるんだよ。
とはいえ、外に出たら冷気漏れは結構深刻な問題だ。
「でも、このままだとギン子の日常生活に支障が出ますわね」
「うむ。そう思ってこれを用意した。我が一族の家宝『陽だまりの腕輪』だ」
ヤッコロが恭しく、熱を帯びた腕輪をギン子に差し出した。
「冷気抑制効果がある。これを装着すれば、ギン子殿の冷気も少しは抑えられるだろう」
「家宝まで冷気対策かよ」
「体の冷えにもいいのだ。お祖父様が冬によく付けていたぞ」
「家宝を湯たんぽ扱いかよ」
とはいえ、これでうっかり町を凍らせる心配はなくなった。もちろん、竜種の冷気を完全に抑え込む力はないそうなので、気を抜くと凍っちゃうけどね。
「そういえば、ギルドに討伐依頼の報告に行かねばな」
「あ、そうなんですわね。この場合……失敗?」
「竜種を従えるなど前代未聞だからな……信じてもらえるかどうか……」
そこでギン子が、ちょいちょいと私をつつく。
「我が主たるメシ子に、これを渡しておこう」
ギン子が胸元から、冷たい光を放つ美しい宝石のような牙を取り出した。
ヤッコロが大袈裟に驚く。
「なっ……!? そ、それは『銀雪竜の神牙』!?」
「何ですのそれ?」
「竜種が真の主と認めた者にしか与えない、超国宝級の伝説のアイテムだ!」
「お! これがあればギルドも認めてくれるね。金貨ゲッツだぜ!」
「ああ。だが、その牙は絶対零度の呪いを帯びており、持つ者の骨の髄まで凍らせるという」
「え」
ピキ、ピキピキッ……!
私が牙を受け取った瞬間。
『凍結ダメージを無効化しました』
副作用が発動。
私の肉体が透過して「下着姿のスケルトン(白骨)」になった。
「「…………」」
「ねえヤッコロ、冷気耐性の指輪、私にもくださらない?」
「……すぐ用意しよう」
骨の姿のまま、仕方なく私たちは王都のギルドへ向かった。
***
「邪魔するぜぃ」
いつものようにギルドの扉を蹴り開ける。
その瞬間、酒場で飲んでいた荒くれ者たちの動きがピタリと止まった。
「ヒッ……! す、スケルトン!? なんで真昼間にアンデッドが……!」
「待て……! あの下着、あのふてぶてしい歩き方……間違いない、あれは『下着の狂鬼』だッ!」
「狂鬼のヤツ、ついに肉体すら捨てて骨になりやがった! 関わるな、目を合わせたら狂気が伝染るぞ!」
さすがギルドの荒くれ者、私の言動とファッション(下着)で一発で身元を見抜いたな。
「ガオーッ! 食っちまうぞー!」
「ヒーッ!」
「オバチャーン!」
荒くれものどもが例の恰幅のいいオバチャン職員さんのもとへ駆けていく。ここは幼稚園かよ。
「あんた、またみんなを怖がらせるんじゃないよ! ……って、あんたなんて姿に! ちゃんとご飯食べてないから、そんなガリガリに骨ばって……!」
オバチャン、私のスケルトン姿を見ても一切ビビらず「痩せすぎの子供」扱いしてきた。認知が強すぎる。
「この身体は別件ですわ。今日は、討伐依頼の報告ですの。雪山のS級竜種『銀雪竜』、討伐(?)ですわよ」
私は『銀雪竜の神牙』をカウンターにポンと置いた。
だが、おばちゃんはジッとその牙を見つめた後、悲しそうに目を伏せた。
「……あんた、これ、どこで拾ったんだい? それとも、誰かから盗んだのかい?」
「え? いや、実はこの後ろの人が……」
「ダメじゃないか!!」
おばちゃんの怒声が響いた。
「見栄を張りたい気持ちはわかるよ! でもね、盗みや嘘は絶対にいけない! そんなガラスのおもちゃを使ってまで、自分を大きく見せようとするなんて……おばちゃん、悲しいよ!」
「いや、おもちゃじゃなくてマジの……」
「ガァァァァァァッ!!」
私が弁明するより早く、後ろにいたギン子が咆哮した。
愛する主を嘘つき呼ばわりされた挙句、自分の神牙を「おもちゃ」と言われたのだもんね。無理もない。
「我が主を愚弄するか人間! その目玉、しかと見開いて真実を知るがいい!」
ボフゥゥゥンッ!!
ギン子が服を弾き飛ばし、元の巨大な銀雪竜の姿へと一瞬で変身した。
メキメキメキッ! ドゴォォォォン!!
「あ」
巨大すぎる竜の体躯が、ギルドの屋根を派手にぶち破った。
瓦礫が降り注ぎ、荒くれ者たちが「ギャアァァァ!」「狂鬼がドラゴン連れて街を滅ぼそうとォォ!」「勇者様ーっ!」と逃げ惑う。
圧倒的な竜種のプレッシャー。誰がどう見ても、本物の「銀雪竜」である。
これでさすがのオバチャンも信じるだろう。
そう思って振り返ると——オバチャンは、さらに悲痛な顔をしてワナワナと震えていた。
「あんたって子は!!」
「え、この反応、まさか……」
「こんな手の込んだ幻影魔法の仕込みまでして! 悪知恵だけは働くんだから!」
「やっぱりねー!」
オバチャンの認知の歪みすごすぎ。
こんな幻影起こせるなら、イリュージョニストとして生きてくって。
「こっちにおいで!」
おばちゃんはカウンターを飛び越え、巨大な竜種(ギン子)をガン無視して私に詰め寄ると、私を膝の上にうつ伏せに抱え込んだ。
「悪いことは悪いって教えないとね! それが大人の役目さ!」
——パァン! パァン! パァン!
「ちょっ、おばちゃん! ケツ! ケツペンペンやめて!」
オバチャンの手はしっかりと透明な私のお尻の肉を捉え、ギルド内に乾いた破裂音が響き渡る。
S級冒険者(仮)にして竜種の主である私が、ギルドのど真ん中で受付のおばちゃんにお尻をペンペンされるという地獄の公開処刑。
もちろん愛情からの叱責なので、ポイントは一切入らない。ただただ尊厳が失われていく。
「お、おい……さすがに狂鬼の姉ちゃんが可哀想だろ……」
「ああ……いくらヤバいヤツでも、あのオバチャンの『おせっかい』に巻き込まれるのは不憫すぎる……」
見かねた荒くれ者たちが、私への同情から立ち上がった。
「オバチャン! あっちで孤児が泣いてたぜ!」
「なんだって!? すぐ行くよ!! メシ子、ここで反省してな!」
荒くれ者たちの機転により、おばちゃんはギルドの奥へと連れ去られていった。
助かった。
でも、私、荒くれ者たちにあんなことしてしまってたのに……
恐る恐る、荒くれ者たちに問いかける。
「あ、あなたたち……私が怖いのではなくて?」
荒くれ者は、フッと笑った後、胸をドン!と頼もしく叩いた。
「何言ってんだ。同じ街の冒険者同士じゃねぇか! それに竜種を従えるなんて、伝説級の偉業だ。むしろ尊敬するぜ!」
「う、うう……今まで、ごめんなさい……」
なんたる豪気! これぞ冒険者!
私は頭を下げて、今までの非礼を謝罪した。
「これからは、仲間としてよろしくですわ!」
そんで、ここは熱い握手で締めだ!
手を差し出して一歩踏み出す。
──スッ
「ん?」
荒くれ者が一歩下がった気がする。
「よろしくですわ!」
もう一度、一歩踏み出す。
スッ。
荒くれ者が一歩下がった。
「……おい」
「ヒッ、い、いや、これは、その」
私の言葉に、荒くれ者の顔が恐怖に歪む。
「……おめぇ、結局ビビってんじゃねぇか! 同じ街の冒険者同士じゃなかったのかぁーッ?!」
「ヒィッ、勘弁してくれーッ!」
ワッと蜘蛛の子を散らすように荒くれ者たちが逃げて行った。
荒くれ者たちの裏切りに立ち尽くしていると、肩をポン、と叩かれる。ヤッコロだ。
「気を落とすな。下着アンデッド姿のドラゴン連れたチンピラ令嬢でも、理解してくれるものはいる」
「ヤッコロ家の異常さを改めて自覚しましたわ」
そこで、震える声が。
「あ、あの……メシ子、様……」
ギルドの受付嬢だ。
「あら、何かしら? あなたも私のお尻ペンペンします?」
「ひぃぃっ! し、しません! これ……!」
受付嬢が、震える両手で一枚の黒いカードを差し出してきた。
「S級冒険者、昇格証、です……! き、金貨は後ほど準備いたしますので……!」
お、こんな状況でも仕事する受付嬢、さすがだね。
「こいつは迷惑料だ」
建屋破壊というマジもんの迷惑行為の弁償代を置く。
こうして私は、ギルドの屋根と自分のお尻の尊厳、冒険者たちとの絆を引き換えに、栄えある『S級冒険者』の称号を手に入れたのだった。
***
【今日の破綻ハック】
やあみんな! メシ子だよ!
セルフレジ派だよ!
今日のハックはこれ!
テッテレー!
★No.0020『迷惑料で社会性を買う』
材料:やらかし、迷惑料
効果:社会との繋がり
代償:財布と尊厳がちょっと死ぬ
破綻度: ★☆☆☆☆(最後の理性)
生活が終わってると、たまにデカめの迷惑をかけちゃう日ってあるよね!
そういうときは言い訳せず、迷惑料だけ置いて帰ろう!
破綻した日常でも、ギリギリの社会性だけは残せるよ!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「おせっかい(お気に入り)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




