第19話 破綻令嬢は風呂で自律神経を破壊する
ギン子(全裸の銀髪美女・竜種)の口に直接ショウガチューブを絞り込み、体内から強制発熱させることで大浴場の凍結を防ぐという、命がけの温度調整。
「はー、風呂というものは気持ちいいものだな……どれ、もう少しショウガを吸おうとするか」
「適量ね、適量。沸騰したら困りますもの」
ギン子が時折ショウガをチューチュー吸ってボイラー役を果たしてくれるおかげで、公爵邸の豪華な大浴場は、極上のポカポカ空間を維持していた。
私とヤッコロ、そしてギン子の三人は、肩までお湯に浸かって極楽気分を味わっていた。
「ふぅ……。良い汗をかいたな。入浴時の水分補給は、騎士の健康管理においても重要だ」
ヤッコロがザバッと湯船から上がり、冷蔵庫(※魔道具)を開ける。
中から取り出したのは。
「フルーツ牛乳じゃん!」
「ん? ああ。そうだ。果実とミルクを混合したものだ。私は小さいころからこれが好きでな」
ヤッコロは腰に片手を当て、見事なフォームでフルーツ牛乳を一気飲みした。
「プハーッ!」
「私も! 私も飲みたい!」
冷蔵庫を開ける。そこには。
「コーヒー牛乳じゃん!!」
春はあけぼの。銭湯はコーヒー牛乳。
昔のひとは良いこと言うね。
「おお、メシ子殿はコーヒーミルク派か!」
「意外と王道好きなんだよね~。では……」
「「かんぱーい!」」
グビッ!
「「プハーッ!」」
うますぎる。
ギン子が濡れた髪をかき上げながら、近づいてくる。
「ほう。我も飲むとしよう」
ギン子がフルーツ牛乳の瓶を掴んだ、その瞬間。
——ピキッ。
「あっ」
ギン子の無意識に漏れ出る『絶対零度の冷気』により、瓶の中のフルーツ牛乳が一瞬にしてカチコチに凍りついてしまった。
さすがに直触れはパワーが違うね。
「あーあ、凍っちゃった」
「くっ、人間態では制御が難しい……竜態に戻ってはゴクゴクできぬ……」
「ジレンマですわね」
ギン子が悔しそうだ
でも、カチコチに凍ったフルーツ牛乳の瓶を見て、私の脳に電撃が走った。
「……待って。これ、天才的な発明かもしれませんわ」
「メシ子殿……また何かイヤな予感がするのだが」
私は新たなフルーツ牛乳に隠し持っていたスプーンを突っ込む。
「これ凍らせて」
「おやすいごようだ」
ギン子の冷気でカチコチに凍るフルーツ牛乳。
そのあと、風呂場の温度で周囲だけ溶かす。
スポッと抜き取ると……
「フルーツミルクバーの完成ですわ!」
「なるほど。アイスというわけか!」
「ふっふっふ、お楽しみはこれからですわ。ギン子、アイスの周りを溶けない程度に冷やせる?」
「その程度、造作もない」
私はそのまま湯船に飛び込む!
「ああっ! 何をしているのだ! 湯が汚れる!」
「テッテレー」
お湯のなかからぼこぼこと浮上しながら、フルーツミルクバーを掲げる。
ギン子の魔法で、湯に落ちてもアイスは溶けていない。
「あっ」
「お風呂でアイス。私もこれまで何度か試みた。だけど、お湯の熱気ですぐにドロドロに溶けて湯が汚れる欠点があった。マジべたついて最悪アレやめたほうがいい」
「やる前に気づきそうなものだが……」
私はそこから得意げに、アイスをヤッコロに突きつけた。
「でも、ギン子の魔法があれば、『絶対に溶けないアイス』を『ポカポカの熱いお湯』の中で無限に楽しめる!」
「……!」
「外から熱いお湯で体を温めつつ、中から極寒のアイスで内臓を冷やす。この矛盾こそが、究極の快楽……自律神経をバグらせることで得られる、至高のトランス状態……!」
私はうっとりと目を閉じ、フルーツアイスをシャクッと口にした。
「名付けて……『破綻式・整い』ッ!!」
「どっちだ!」
ヤッコロの叫びが風呂場に響き渡った。
「破綻しているのか、整っているのか、どっちかにしろ! 自律神経を破壊して整うわけがないだろうが!」
「まあまあ、二人も食べてみなよ。飛ぶぞ」
「ほう! 甘くて冷たくて、だが体は熱い! これはすごい、すごいぞ主ぃぃ!」
「うむ、確かにこれは……なかなか……」
全裸の女三人が、風呂場のなかでがりがりとアイスを貪る。
マナーも健康もかなぐり捨てた、圧倒的な背徳感。
これぞまさに破綻道のひとつの到達点……
「最高……汗が止まらないのに歯がガチガチ鳴る……ギン子、もっとお湯の温度を上げるのですわ!」
「うむ! そうするとしよう! 今ショウガチューブを……ん?」
ブシュ、ブスッ、プスー……。
ギン子が手元のチューブを力強く握りしめたが、空気が抜ける音しかしない。
「あ、ショウガが切れた」
「え?」
——ピキキキキキキキキキキキキキキキキキキッ!!!!
熱を発生させる唯一の燃料が尽きた瞬間。
今まで押さえつけていたS級竜種の絶対零度が大爆発し、大浴場のお湯は一瞬にして巨大な氷の塊へと変貌した。
「「「…………」」」
私とヤッコロとギン子は、湯船の形のまま、巨大な氷のオブジェの中に完全に閉じ込められた。
(……おごれるものは、久しからず……)
昔のひとは、良いこと言うね……
***
【今日の破綻飯ハック】
やあみんな! メシ子だよ!
今日はお風呂でできる、禁断のリラックス方法だよ!
★No.019『風呂場でアイス』
材料: 熱いお風呂、棒アイス
効果:ととのう
代償:べたつきと後悔
破綻度: ★★✩✩✩(味は変わらない)
熱いお風呂に浸かりながら、冷た〜いアイスを食べる!
外から温め、中から冷やすという矛盾した行為で、自律神経を強制的にバグらせるライフハックだよ!
普通にベタついて最悪だから気をつけてね!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「ガリガリするアイス(お気に入り)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




