第18話 破綻令嬢は魔物を風呂で煮込む
「さ、そろそろ帰りますわよ」
「ああ、そうだな」
雪山キャンプ地獄女子会も堪能したしね。
そこで、銀雪竜が悲し気な声を上げる。
「帰ってしまうのか……?」
「ねえヤッコロ、この子連れてっていいかな?」
「S級ドラゴンだぞ?! 捨て犬拾うみたいに言うな!」
「クゥーン」
「お前も犬みたいに鳴くな!」
ヤッコロがドラゴン美女に説教しだす。
「銀雪竜殿も、我々人間種に媚びへつらって! こう、竜種としての尊厳とか誇りとかないのか!」
「いや、冷静に考えるのだ。我の絶対零度のブレスを喰らって無傷とか、完全に上位神クラスである。普通に我が主認定だ」
「なるほどな。じゃあ仕方ないかぁ」
「仕方ないですわね」
──ワッハッハッハッハ!
「ハァ……メシ子殿。従魔にするなら、名前をつけてやらねばならんぞ」
ヤッコロがこめかみを抑えながら言った。
名前かぁ。
せっかくの竜種だし、気合入れて高貴な響きにしてやろう。
「うーん……」
「頼むぞ、主」
「……マヨネゾワール・シャケテーショク……そう、『マヨネゾワール・シャケテーショク』ですわ!」
「おお! 高貴な響きではないか!」
「意味がただの朝食だろうが!」
即座にヤッコロのツッコミが飛んできた。
「えー、じゃあ『スパイス太郎』」
「一応女性だろ! そして急に投げやりになるな!」
「あーもう、わかったよ。じゃあ『ああああ』で」
「竜種の尊厳をなんだと思っている!」
「アアアア……悪くない響きだ! 我が名は今日からアアアアとしよう!」
「受け入れるな!」
そこでヤッコロが顎に手を当てて考える。
「……銀雪竜の『ギン』にメシ子殿の『子』を取って、『ギン子』はどうだ?」
お、ギン子か。覚えやすくていいね。
「決定!」
「主がそれでいいなら、我はギン子だ!」
「えっ、採用されて嬉しい(ポッ)」
こうして、超絶適当な会議の結果、彼女の名前は『ギン子』に決定した。
「よし、じゃあ帰りますわよ。そろそろ寒くて死ぬ」
「待てメシ子殿。いくらなんでも、全裸の女性を連れて王都は歩けんぞ」
確かに。私が下着姿で、お供が全裸。完全に通報されるやつだ。
私はギン子のプロポーションを上から下まで眺める。背も高く、無駄に発育が良い。
「ヤッコロの予備の鎧とか着れませんの?」
「無理だ。ギン子殿は身体が大きいからな」
「なるほどね。じゃあ、キャミソールとドロワーズならある程度ゴムで伸びるから大丈夫ですわね?」
「……え?」
ヤッコロが嫌な予感に顔を引きつらせた。
「ギン子」
「うむ」
「やめろ! 脱がすな! 鎧の留め具を外すなぁッ!!」
「うふふ、すぐに終わりますわ……」
「やめろォォォ! なぜ私の尊厳ばかりが犠牲になるのだァァァ!」
雪山にヤッコロの悲鳴がこだました。
***
公爵邸に帰還。ちなみに雪山降りたらスケルトン状態は治った。あぶねー。
玄関を開けると、お母様がニコニコと出迎えてくれた。
「あらあら、新しいお友達ね! 雪山なんて行って、寒かったでしょう。すぐにお風呂に入って温まりなさいな」
ガチ角下着巨女を連れてきても一切動じないお母様、マジで肝が据わりすぎている。
私たちはありがたく、公爵邸の大浴場(温泉旅館レベルの広さ)へと直行した。
冷え切った体を温めるべく、私はギン子と一緒に湯船へドボンと飛び込んだ。
——ピキッ。
——バキバキバキバキッ!
「……は?」
ギン子が湯船に浸かった瞬間。
広大な大浴場の熱いお湯が、一瞬にしてカチコチの分厚い「氷結スケートリンク」へと変貌した。
「寒っ!? え、何これ!? お湯が全部凍ったんだけど!?」
「ふむ、氷に浸かるというのもなかなかよいものだな」
ギン子が氷の塊の中で涼しい顔をしている。
待って、害意ないからポイントも手に入らないんだけど! 寒い損、略してサムソンじゃん!
ガタガタ震えながら横を見ると、平然と氷風呂に使っているヤッコロがいた。
「おいヤッコロ! お前なんで普通に涼しい顔してんだよ!」
「何度も言わせるな。私は『冷気耐性100%の指輪』をつけている」
「風呂入る時くらい指輪外せよ! マナー違反だろ!」
こいつマジで自分だけ安全圏にいるサイコ騎士じゃん! ノブレス・オブリージュはどこ行ったんだよ!
このままじゃ私が凍死してしまう。
私は震える手で、ハタゾンで『生姜チューブ(大容量)』を召喚した。
「ギン子……口開けて……ッ!」
「アーン」
私はギン子の口内に、生姜チューブの中身を全力でブチューーーッと絞り出した。
強烈なジンゲロール(辛味成分)が、氷の魔物の粘膜にダイレクトアタックする。
「カッ……!? カァァァァァァァッ!!?」
ギン子が目を見開き、全身を真っ赤に染めてバチャアァァァッ!と立ち上がった。
「熱い熱い熱いィィィ!? 体内から得体の知れない熱気が爆発しているゥゥ!?」
ボコボコボコッ!
ギン子の体から発せられる猛烈な熱(スパイスの発汗作用)により、氷結していた大浴場が一瞬で沸騰し、ちょうどいい湯加減の温泉に戻った。
「ふぅ……極楽極楽」
「お母さまの奇病といい、ショウガとはアーティファクト並みの力があるのだな!」
「ショウガのポカポカパワー、マジでパねぇからな」
「あつぅぅぅぅぅ!」
いやあ、すごいねショウガ。さすが万能調味料だね。
「……」
──ザバッ!
「いやただの薬味だよッ??!」
私の大声がお風呂にこだまする。
異世界、マジでわけわかんねー。
***
【今日の破綻ハック】
やあみんな! メシ子だよ!
冬のアイスは溶けにくいよ!
今日のハックはこれ!
テッテレー!
★No.0018『温冷ショウガ浴』
材料:生姜チューブ、水風呂
効果:内側からポカポカする
代償:だいたい風邪を引く
破綻度: ★★★✩✩(発想は間違ってない)
風呂に水入れちゃって終わる日ってあるよね!
そんなときは生姜で体の内側だけ先に煮よう!
それから水風呂に入れば、ばっちり整うよ!
そして風邪も引くよ!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「ととのい(お気に入り)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




