第17話 破綻令嬢は骨までカレーに染まる
罪悪感の応酬のすえ、500ポイントをゲット!
とりあえず今日はこれだけあればいいかな。
「何の調味料にしよっかな~!」
ホクホク顔でギルドを後にしようとした私に、ヤッコロがとんでもない紙切れを突きつけてきた。
「メシ子殿! 貴殿が望む『死地』の情報を手に入れたぞ!」
「は?」
「S級討伐依頼『絶対零度の覇者・銀雪竜』! 生還率ほぼゼロ! これぞ破綻道に相応しき修羅の舞台!」
「いや、帰って寝……」
「さあ、参ろう! 破綻の極致へ!」
そして現在。
私はヤッコロに小脇に抱えられ、猛吹雪が吹き荒れる極寒の雪山に放り出されていた。
服装はもちろん、いつもの下着ドレス一丁である。寒いとかいう次元じゃない。細胞が死滅する。いやスキルあるから死にはしないっぽいんだけど。
「てか、ヤッコロは寒くないの?」
「何を言っている。冷気耐性100%の指輪をつけてるに決まってるだろ」
「決まってないよ?! 私の分は?!」
「破綻道にそのようなものは不要だ」
「解釈が暴走している!」
私が悲鳴を上げると同時に、ヤッコロが叫んだ。
「出たぞメシ子殿! あれが銀雪竜だ!」
ヤッコロが剣を抜いて叫ぶ。
吹雪の向こうから、見上げるほど巨大な、美しい銀色の鱗を持つ竜が姿を現した。
神々しさすら感じるその竜は、下着姿でガタガタ震える私を見下ろし、大きく息を吸い込んだ。
『グルルルルォォォォォォッ!!』
——ズドォォォォォン!!!
銀雪竜の口から、触れるものすべてを瞬時に氷のオブジェに変える「絶対零度のブレス」が放たれた。
避ける間もなく、極寒の光線が私の体を直撃する。
「メ、メシ子殿ォォォォォッ!!!」
ヤッコロの悲痛な絶叫が雪山にこだました。
視界が真っ白に染まり、私の体は完全に氷柱の中に閉じ込められた。
その瞬間。
──バッシャァァアァァァン!
氷柱は粉々に砕け散った。
『害意ダメージ(氷結)を無効化しました』
『対価として500ポイントを取得しました』
「……えっ?」
ヤッコロが、私を見て言葉を失っている。
「どした?」
「メシ子殿の、身体が!」
「ん……え、透けてる?!」
なんと、私の肉が氷のように「透明」になり、骨だけになっていた。
シルクのキャミソールとドロワーズを着た『白骨死体』が立っている状態。
「というかメシ子殿! そんな姿で、生きているのか?!」
「あー、生きてる生きてる。声出るし動けるわ。ただ肉が透けただけ」
「ただ肉が透けただけ?! あの攻撃で?! どういう原理だ?!」
ヤッコロが頭を抱えてパニックになっている。
でも言葉通りだからね。透けてるだけで肉はここにある。肉だけ透明人間。
それより、だ。
「……これってもしかして」
砕け散った氷柱は、純白で、フワフワに削られた細かい氷の山になっていた。
要するに、かき氷だ。
空腹の限界を迎えていた私の脳は、ひとつの結論を出した。
「……これは、『氷の白米』ッ!」
「何を言っているんだ?!」
私はさっきゲットした500ポイントをハタゾンに突っ込んだ。
召喚したのは、赤い缶に入った『業務用カレー粉(数十種類のスパイス配合)』。
私は透けた手で缶のフタを開け、目の前の白米(かき氷)に、黄色い粉をドバドバと豪快に振りかけた。
「寒いときはこれですわ」
かき氷って見た目ほぼ白米だし、カレー粉かけたら実質『カレーライス』じゃん。
「いただきます」
ふところからスプーンを取り出し、ふわふわのカレーライス(氷)をがつがつと貪り食った。
「すごい! 冷たさが辛さを麻痺させ、スパイスの風味が絶妙に引き立っている……気がする。糖質も脂質もゼロだし、これが新時代のダイエット冷やしカレーですわね」
「今の状況わかってるのか?!」
あ、なんかとんでもなくでかいドラゴンがいるんだった。
でも私、攻撃する術ないんすけど。
スプーンで倒せるかな?
『……スンスン。スンスンッ!』
「ん?」
絶対零度のブレスを吐き終え、氷の山でドヤ顔をしていたはずの銀雪竜が、突如として鼻をヒクヒクさせ始めた。
『な、なんなのだ、この芳醇な香りは……!?』
ドラゴンの声が直接脳内に響いてくる。
『我の……我の嗅覚が、その黄色い粉の暴力を望んでおる……ッ!!』
ほう。
さすがドラゴン。
この数十種類のハーブと香辛料が複雑に焙煎された「カレー粉」の鮮烈な香りの『良さ』がわかるっていうのか。
銀雪竜が、ダラダラと大量の涎を垂らしながら、雪原をズリズリと這い寄ってきた。
さっきまでの神々しさは欠片もない。ただのスパイス依存のトカゲである。
「欲しいんか? この卑しんぼめ、欲しいんか??」
「ドラゴンを煽るな?!」
私が骨の手でカレー粉まみれの氷を差し出す。
銀雪竜は狂喜の声を上げた。
『欲しい!! 食いたい!! ……が、我の巨大な牙と口では、その繊細な粉の味を堪能できぬゥゥ!』
ボフゥゥゥンッ!!
突如、雪原がまばゆい光に包まれた。
光が収まると、そこには巨大な竜の姿はなく、代わりに銀色の長髪と白銀の角を持った、やたら顔のいい美女が全裸で四つん這いになっていた。
「粉……! その黄色いスパイスの粉を、我の舌に直接塗ってくれェェェッ!」
わざわざ人間サイズに変身して、私の手から直接カレー氷をペロペロと舐め回し始めた。
地獄の絵面。
「んほォォォッ! 複雑な刺激が脳を焼くゥゥ! 冷たい氷がスパイスの熱を中和して、無限に食えるゥゥゥ!」
「わかる? これ発見だよね?」
「わかるわかる! だからもっとくれぇ!」
「ははは、この卑しんぼめ」
骨の女(私)と、全裸の銀髪美女が、雪山で仲良くカレー氷を楽しんでいる。
これ、キャンプ女子会じゃん!
ヤッコロも参加しなよー。
「……破綻道とは、死地とは……一体……」
遠い目をしたヤッコロが、雪だるまになりかけていた。
おい寝るな! 死ぬぞ! 冷気耐性はどうした?!
こうして私は、新たなお供(スパイス依存の元S級ドラゴン)を手に入れたのだった。
***
【今日の破綻飯】
やあみんな! メシ子だよ!
カレーは粉物だよ!
今日のメニューはこれ!
テッテレー!
★No.0017『実質白米の氷カレー』
材料:かき氷、カレー粉
調理時間:3秒
破綻度: ★★✩✩✩(アイデア料理)
白くて盛れば、だいたい白米!
カレー粉をかければ、もうカレー!
味覚が死んでても、香りが全部やってくれるよ!
真似するとたぶん人生が冷えるよ!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「(お気に入り)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




