第15話 破綻令嬢は下着に回帰する
公爵邸でのヒモ生活。毎日ドチャメチャ美味い飯食ってゴロゴロするだけ。
控えめに言って天国。前世の限界社畜だった私が見たら泣いて羨ましがるレベルのユートピアである。
……なんだけど。
「メシ子殿。そろそろその下着姿、どうにかならないか……?」
ヤッコロのガチめのトーンで、私の優雅なティータイムはぶち壊された。
「え……でもシュミーズとドロワーズですわよ?」
「逆に、なぜそれが『有り』判定なのだ」
前世基準だとこれ『部屋着』レベルだからなぁ。
『部屋着』ということはすなわち『外着』でもあるんだよな。
「わたくしも、恩人であるメシ子さんにいつまでも下着で過ごさせるわけにはいかないと思っていたのよ」
お母様(神)がパンッと手を叩いた。
「ですから今日は、王都から一番の仕立屋を呼んでおいたの」
「すごい行動力」
「お金は私が支払ったぞ」
「すごいお金持ち」
ガチャッ。タイミングよく食堂の扉が開き、メジャーを首にかけた細身のイケオジ職人が現れた。
「お初にお目にかかります。本日はヤツネ様からのご依頼で、恩人様に相応しき、至高のドレスをお仕立てに参上いたしました」
言われるがままに採寸とフィッティング(とついでにヘアアレンジとお化粧)を済ませる。数十分後。
更衣室から出た瞬間、大食堂が水を打ったように静まり返った。
「おお……! なんという美しさだ……!」
「ええ、本当に綺麗……。まるで本物の王女様のようだわ」
ヤッコロとお母様がガチで感動している。
「まーたお世辞言っちゃって……って、え……?」
鏡を見ると、最高級シルクにコルセットでバチバチに盛られた「完璧な貴族令嬢」がいた。
「これが……私……?」
すごい変貌。ショート動画の変身モノだったらバズってるレベル。
服の力ってすげえ。
「おほほほ、服が良いと中身まで気高く見えますわね」
キメ顔で扇子で口元を隠し、優雅なお嬢様ムーブをかます。
「ですわー!」「ですわねー!」
ん?
足元を見ると、大食堂の扉の隙間から何かがワラワラと湧いてきた。
「あっ、お前らどこ行って……ちょっ!?」
昨日のマヨ飯食いすぎてパンパンに太った「ミニメシ子(私の分裂体)」たちじゃん!
待って、イヤな予感しかしない。
こっち来るな。
ボフッ! ボフボフッ!
一斉に足元に飛びついてきたかと思うと、次々と私の本体に吸収(合体)されていく。
「……んぐっ!?」
いや無理無理無理!!
昨日からのマヨネーズと白米の莫大なカロリー(質量)が一気に本体に還元されてきた!
——ギシィッ! ミチミチミチッ!
極限まで締め上げたコルセットが内側からの圧力で悲鳴を上げてる。限界突破。死ぬ。
——パーーーーーンッ!!
「きゃあああっ!?」
「な、なんだ爆発したぞ!?」
腹のボタンと留め具が弾け飛んだ。物理的に。
美しいドレスの腹部、完全崩壊。うわ、これ弁償とか言われたらどうしよう。
「……なるほど。そういうことでございますか」
恐る恐る仕立屋アルマンを見ると、なぜか目を輝かせている。え、怒らないの?
「貴族の晩餐とは、常にカロリーとの優雅なる闘い。急激な質量の増加に耐え得ぬコルセットなど、美を損なう枷に過ぎません。至急、究極のゆとりを持たせたシルエット(Aライン)へと仕立て直させていただきます」
ジョキジョキ! ダダダダダッ!
アルマンの神業でウエスト部分が完全消滅。上から下までストンと落ちる「マタニティかな?」ってレベルのゆったり形状になった。神かよ。一生ついていくわ。
「おお、胃袋の圧迫感が消えて動きやすくなりましたわ!」
ウエストフリー最高。テンション上がった私は、厨房でくすねてきた乾パンと謎の濃厚ダレをテーブルに広げた。
小皿になみなみとタレを注いで、どっぷりディップ。
パクッ。サクサク。
ディップ。パクッ。サクサク。
「んふぅ、美味いですわ」
「メシ子殿、袖ーっ!」
「え?」
ヤッコロの叫び声にハッとして右腕を見る。
うわ。純白のシルクのフリフリが、完全に茶色い雑巾かってくらい厨房の謎タレを限界まで吸い込んで、ダラリと垂れ下がっていた。
「あらやだ、もったいないですわね」
私は迷わず、その茶色いシルクの袖口を直接口にインした。
ちゅうちゅう。ジュルル。
「ああっ! 何をしているのだ! 汚い!!」
「え、新品の布ですわよ? それに家に何もないときは、めんつゆをティッシュで食べていましたから問題ありませんわ。シルクの分、口当たりがマイルドですわね」
ヤッコロはドン引きしてるけど、マジで給料日前のティッシュめんつゆは命を繋ぐからな。シルクは繊維が細かくて最高。
「ティ……? よくわからないけど絶対問題あるやつだろそれ!!」
ヤッコロが頭抱えてる横で、アルマンがまた優雅に微笑んだ。
「お食事の妨げとなる袖など、服飾の敗北でございます。タレを吸って重みを増すのであれば、初めから削ぎ落とすのが真の機能美。腕の可動域を最大限に引き出す、ノースリーブ仕様へと作り変えましょう」
ジョキジョキジョキッ!
両袖、根元からサヨナラ。
「素晴らしいですわアルマン! 腕が回し放題ですわ!」
最強のメシ食い用フォーム完成。テンション爆上がりで大食堂をスキップで練り歩く。
「これならどんな限界メシでも——あっ」
グシャッ。
優雅すぎる長いスカートの裾を、自分で思いっきり踏んづけた。
視界が反転する。顔面から大理石の床にダイブ!
痛っ!
……と思った次の瞬間。
——ドッッッッバァァァァン!!!
スカートが、爆弾でも仕掛けられていたかのように木端微塵に吹き飛んだ。
「何ーッ?!」
「何事なの?!」
(やべ。ダメージ無効化の代償が……!)
一同驚愕。そりゃそうだ。
転んだだけでスカートが弾け飛ぶとか意味わかんなすぎる。
慌ててアルマンさんに謝る。
「あ、アルマンさん、申し訳ありませんわ」
だが、アルマンさんは、一切動揺を見せず、深くうなずいて応えた。
「なんたる危険。足元を覆い隠す長いスカートは、命に関わる欠陥構造でございました。装飾が命を脅かすなど本末転倒。究極の安全性と動きやすさを追求し、二股に分かれたズボン様式へと再構築いたしましょう」
さっと針を持ち、爆発の残骸をかき集めて猛烈な勢いで縫い始めた。
メンタル強すぎん?
クリエイターの鑑かよ。
そして。
「完成いたしました……。カロリーの増減を優雅に包み込む胴回り、汚れを寄せ付けぬ袖なしのフォルム、そして命をお守りする機能的なズボン様式。これぞ機能美の極致……究極のドレスでございます」
アルマン、息切らしながらドヤ顔で一礼。
さっそく着込んでその場でターンを決める。
「最高ですわ! 風通しも抜群、これなら立膝をついてラーメンも食えますわね!」
「あら、なんだか見慣れたシルエットで素敵じゃない」
お母様も絶賛。
だが、ヤッコロだけは死んだ魚の目で私とアルマンを交互に見つめていた。
「……なあ、アルマン。そしてメシ子殿」
「なんですのヤッコロ?」
「いかがなさいましたか、ヤツネ様」
ヤッコロ、こめかみを指で押さえながら言う。
「腹回りがゆったりした袖なしの服と、動きやすいふんわりしたズボン。確かに素晴らしい。だが……」
ヤッコロの魂の叫びが大食堂を震わせた。
「着替える前の下着姿と、一切変わってないだろうがァァァァッ!!!」
「「……あっ」」
私とアルマン、顔を見合わせる。
ホンマや。シルクのキャミソールとドロワーズ。完全に見覚えのある姿。
一周回ってスタート地点に戻ってきた。
「素晴らしい……。つまり、下着こそが服飾の行き着く先、究極の機能美であったというわけですね。私としたことが、真理を見落としておりました……」
アルマン、感涙に咽び泣きながら帰っていった。
また一人、真実にたどり着いてしまったな。
「……このドレスが下着になっても、第二第三のドレスが待ち受けているぞ……」
「ヤッコロが服屋の四天王みたいなこと言ってる」
私は新しい下着(究極のドレス)の着心地を確かめながら、謎タレ乾パンの残りを口に放り込んだ。
***
【今日の破綻ライフハック】
やあみんな! メシ子だよ!
オシャレはガマンっていうけど、ガマンはオシャレじゃないよね!
今日のライフハックはこれ!
テッテレー!
★No.0015『汚れる服は着るべからず』
材料: 装飾のない服
効果: 過ごしやすい
代償: 余白
破綻度: ★★★☆☆(機能だけでは生きられない)
フリフリの服を着てるときに限って、カレーで汚しちゃうよね!
食べにくい、動きにくい、汚れやすい服はだいたい敵だよ!
そういうのを削っていくと、生きやすさだけが残るよ!
でも社会性も削れていくから、ほどほどにね!
それじゃあ、またね!
「高評価」と「機能美(お気に入り登録)」よろしく!
ハタンキュ~(挨拶)




