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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第四部「極東戦争編(3)」

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184 「偵察任務に向けて」

 ・竜歴二九〇四年十一月中旬


 11月中旬に入ったばかりの頃、甲斐が率いる特務旅団第一大隊は休暇を終えて国境を越えたダウリヤにまで戻っていた。

 彼らの装備は『浮舟』も含めて山岳要塞から移動していたが、魔動甲冑の黒母衣と搭載する『浮舟』は任務に不要と言うことで要塞で保管されている。

 逆に任務の為に、『浮舟』は冬季装備の輸送任務用に2台、寒さに備えた有蓋型が1台追加されている。

 

「今回の任務は、単に長距離偵察というだけでなく、隠密行が求められる。このため、騎兵ではなく我々特務が任務に抜擢された。また偵察対象となる地域の多くが山岳地帯のため、騎兵では任務に不向きと判断されたという理由もある」


 整列した大隊全員を前にして、甲斐が大隊長として訓示する。隣には大隊副長の鞍馬が立つが、他の大隊本部要員は他と同じように甲斐の説明を聞いていた。


「ただし、途中までは騎兵の支援を受ける。加えて、進出拠点が西のキタイになるので、支援を受ける手筈になっている


 そこで挙手。不知火が糸目を少しだけ開いて、胡散臭げに甲斐を見てくる。


「キタイの半獣(セリアン)ですよね。信頼度は?」


 不確実な相手に命の一端を預けたくないと顔に出ていたのもあり、甲斐は鞍馬に視線を向ける。


「キタイ政府とアキツ政府との話は既についています。さらに資金と武器の援助も行い、前払いに当たる分が既に渡されつつあります。また、アキツの二度にわたる勝利で、キタイは旗色を明らかにすると決めたようです」


「勝ち馬に乗るというわけですね。それに、賄賂も後払いアリなのは良いですね」


「露骨に言い過ぎだ、不知火」


 思わず甲斐が苦笑し、他の幹部たちも似たような反応を示した。


「それにな不知火、詳細な地図もない場所の案内をしてくれるし、新鮮な食料も供給してくれる。交渉に当たった外務官は、馬乳酒を飲んで約束を交わしたそうだぞ」


「任務中に飲酒して良いので?」


「あれはお酒かなあ。僕は羊の肉だけでいいよ。でも、馬はお酒だけじゃないでしょ。血を抜いて飲んだりするし、食べる事もあるよ」


 大きめの笑みと共に磐城が聞いてきたが、甲斐が笑ってしまったのでその間に朧が気軽に言葉を並べていく。

 ほぼ地元なので、なかなかに詳しい。


「僕も飲んだことあるが、ほぼ主食にしているくらいで酒精は殆どない。酒というより、乳酸飲料だな。学者いわく、健康に良いそうだぞ」


「ハッハッハッ。そりゃあ、毎日でも飲みたいですな」


「酒はともかく、肉は羊ですか? 馬は遠慮したいのですが」


 少し神妙なのは嵐。軍隊において馬は戦友であり家族や友人ですらあるが、飢えた時の非常食ともされる。

 そうした経験があるのかと甲斐は思うも、表情には出さずに首を横にふる。


「提供されるのは羊だと聞いている。だが不満だからと、自分達で狩りをしないように。代金を添えて願えば、狩ってもくれるだろう」


「了解です。狩りの禁止は少し残念ですがね」


 狩りをする気もないのに、小さい笑みを嵐は返す。

 そして甲斐の方は、もうついでなので他に何か聞きたい事はないかと幹部達を見る。

 小さく挙手があったのは天草。


「第4中隊が、支援するキタイの方のお相手をするのでしょうか?」


「そうだ。だが、前進した先の拠点には、予備を兼ねて護衛に1個中隊も残す」


「護衛は支援する騎兵ではないのですね」


「騎兵と我々では行軍速度から違うから、相互支援という形になる。騎兵は、拠点を含めてキタイでの地理調査を主に行い、ついでにキタイでの敵の動きを調査する」


 「了解いたしました」という天草の返答を待ち、磐城が「それで配置は?」と問いかける。

 それに甲斐は頷き、一度大隊全員を見渡すして鞍馬に視線を向ける。


「大隊副長。概要の説明を」


「はい。詳細な地理、地形については後ほど地図にて説明しますが、ここダウリヤより西に約300キロメートル移動し、そこに拠点を設定。第1中隊を護衛兼予備として、第4中隊と共に展開。吉野特務少佐も、全般通信のため同様に拠点に配置。第2中隊は、チハから三日月湖までの路線を担当。第3中隊はチハのタルタリア軍を担当。吉野特務少佐を除く大隊本部小隊は、三日月湖の西側、特に軍事都市となっていると考えられるイルクを担当します」


 そこまで言った時点で磐城が挙手。

 それを甲斐は視線だけで促す。


「大隊本部こそ拠点で全般指揮に当たり、第1中隊がどこかの偵察に当たるべきでは?」


「最初は僕も大隊副長も順当にそう考えたが、ムラサメさんからダメ出しを食らった。精鋭度合い、向き不向きが重要で隠密の偵察に数は必要ない、とな」


「そうでしたか」


「うん。それに今回は互いの距離が広がり過ぎているから、司令部を開いたところで合流した時しか詳細な指揮は無理だ」


「確かにそうですな。下らぬ進言をしました」


「いや、村雨さんの方が、僕らをこき使いすぎるだけだ」


「ハハハッ、確かにあの方らしいですな」


「まあそういうことだ。だが磐城にはもう一つ仕事を追加だ。拠点の指揮を委ねる。各中隊もそれぞれ現地では独自の判断で行動し、結果を出すように」

 

 甲斐の言葉は実質的な締めになり、全員が一斉に敬礼をした。



「予定では『浮舟』は騎兵の倍の行軍速度で進むので、拠点まで2日半。2日目の朝に第3中隊が出発し、チハの最短路を進みます。その後、3日中に拠点を設営。本部と第2中隊が出発。第1、第4中隊は拠点の設営を進め、騎兵が合流してくるのを待ちます」


「僕らの支援は3人でいいか?」


「はい。行きの途中まで食料や天幕などを運搬してもらうので、磐城特務中佐に第1中隊から選抜してもらいます。支援はそこで引き返させ、我々だけで偵察を実施予定です」


「とはいえ、そこからは行き当たりばったりだな」


「そういう言い方は軍務らしくはありません。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応する、などと表現するべきでは?」


「いや、それ、行き当たりばったりとどう違うんですか?」


「それでは、その言葉を報告書に書きますか、大隊長」


 甲斐の思わず素に戻った突っ込みに、鞍馬はイタズラっぽく首を傾ける。


「高度の柔軟性とかでも書けないだろ」


「そうですね。ですが、鉄道がどこを走ったとか、どこに何があるのか、追加で作るならどのあたりが良いかとか、1年前に調べてあるので目星は付いています」


「まあ、そうだな。だがあれから1年か。もっと前に思えるな」


「はい、本当に」


 甲斐に続いた鞍馬は、甲斐が見ているのと同じ景色へと視線を向ける。

 二人が見る先には、広大な平原が広がり、ずっと先にぼんやりと山々が連なっていた。


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