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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第四部「極東戦争編(3)」

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177 「本国への帰国」

 ・竜歴二九〇四年十一月初旬


「じゃあ、陽炎(カゲロウ)(カスミ)またねー。(アカツキ)さんもお元気で」


「またね」


「霞! 他に人がいるのに、またねじゃないでしょ。ご、御前を失礼します、御子様」


「お言葉痛み入ります。それではこれにて御前を失礼致します、三之御子様」


 三之御子が海外組の蛭子に護衛されて竜都に戻り、巨大な竜宮の門の前で別れを告げる。

 三之御子は竜都の中央駅から乗った馬車の中で手を振り、別の馬車で半ば儀式や形式的に護衛していた蛭子の方は3人は馬車から降りている。

 3人とも肌の色が褐色で、アキツ本国の亜人(デミ)ではなかった。しかし全員が亜人で、3人は耳が頭の上になるなどネコ科かイヌ科の特徴があった。

 アキツ本国以外の亜人は半獣が多かった。


 無邪気に手を振る三之御子は、鹿に少しにた特徴的な竜のツノと本来の鬼のツノの二対あり、他も似たり寄ったり。ここに只人(ヒューマン)はいない。

 なにしろ彼らがいるのは、魔物の国とも言われる亜人の国の首都。その中心部だ。


「行っちゃった」


「私ら陛下にだけ仕える蛭子なのに、お城には入れないんだ」


「竜宮の中は許された者しか入れません。蛭子かどうかは関係ありませんよ。さあ、行きましょう」


 陽炎の言葉を暁がやんわりとたしなめ、ゆっくりと歩き始める。

 二人もそれに続く。


「そうですね。紙のお面の人たちも、蛭子じゃないし」


「鞍馬さんも言ってたね。ところで暁さん、僕らはこれから何するんですか?」


「勿論、訓練ですよ。その為に我々はアキツ本国まで戻ったんです。そして春までに甲斐さん達の元に戻ります」


 その言葉に陽炎は全身で嫌そうな表現をし、霞は一瞬ぼーっと考える仕草を見せる。

 だが二人とも「甲斐さん達」の言葉で態度が変わった。


「まっ、しゃーないか」


「そうだね。戻りたいだけだけど」


 そんな二人を暁は「フフッ」と上品なヒゲの奥で微笑した。



「ただいま戻りました、陛下」


 三之御子の眼前には巨大な空間に鎮座する、体長100メートルに達する巨大な竜がいる。

 その瞳は穏やかかつ静謐で、さらには慈愛すら感じさせる。

 その竜の側には、最上質の衣服を身にまとうも紙の面を付けた男性が静かに座る。

 竜はこの国の主権者にして主君である竜皇。男性は竜皇の依代で、主に竜が人と話す際に相手をするが、竜の御子である三之御子と話すのなら依代は必要としない。


 二人を見送った三之御子は、湯浴みをして着替えると竜皇に謁見していた。

 もっとも、三之御子の挨拶のあと、互いに何かを話す事はない。実際は『念話』でやりとりをしているのだが、竜皇が三之御子にだけ絞って『念話』しているので、誰も会話内容を知る事はできない。


 それに竜皇の『念話』は非常に強いので、並の者が聞いても風の轟音のようにしか聞こえなかっただろう。

 それが普通に会話として成立するだけでも、三之御子の力の大きさが窺い知れた。

 そもそも竜皇と御子の会話を聞こうという無粋な者は近臣にはいないし、二人とも必要な話は口を用いて行う。

 だが、三之御子は笑顔で雰囲気も明るいので、明るい会話なのを周囲の者も知る事はできる。


 そして話が終わると三之御子は竜皇の御座所(執務室)から退出する。そしてその後も、御座所か御所を名前の順番通り他にも御子が4人いるので挨拶をして回った。

 血縁ではなく素質を見出されて竜の御子になった者達だが、元来の性格もあって三之御子は他の御子達と出来る限り

親しくしていた。

 特にまだ10歳の彼女より年下の2人とは、かなりの時間を過ごす。

 一方で、二之御子は竜宮にいないとの連絡を受け、会うことはできなかった。


「一人一人別の家って、面倒くさいよね。挨拶一つでもすごく手間だから、一緒に暮らせばいいのに」


 自身の御所に帰り着くと、三之御子はそう愚痴る。ただ、周りの女官達は「そうかも知れませんわね」など当たり障りのない返事しかしない。

 普段なら穏やかながら踏み込んだ言葉を返す女官達だが、普段はいない警護の紙の面をつけたお付きが三之御子の御所の中にまで入っていたからだった。

 もっとも、彼女の周りだけでなく竜宮自体の警備体制が大幅に引き上げられていた。


 その理由は、前線ではあったが三之御子が、タルタリアがガリアかゲルマンから大量購入したと考えられる合成獣(キメラ)の襲撃を受けた為だった。

 今までそのような事が起きた事はなく、国内にも各国の大使館があり武官もいるので過剰反応が起きていた。

 それに開戦前には、アキツに留学中のタルタリア皇女アナスタシアを襲う未遂事件もあった。


 だからこそ、警戒を強めるのは当然という雰囲気がある。

 陽炎たちはぼやいたが、蛭子を常時警護につけるという話も持ち上がっていた。

 もっとも、御子達が離れて暮らすのは、御子の言葉と態度からいつもの事だと知れる。


 そうしてしばらく三之御子が、ほぼ一方的に周りに話しかけていると、部屋の外で警護についている紙の面を付けた武官が来客を告げた。

 竜宮内はもっと早く事前の知らせが届くものだが、ほぼ同時だった。

 しかも来客は周りを気にせず、自然体で入ってくる。


「久しぶり。元気そうだな」


「金剛!」


 言うなり、三之御子は飛ぶように駆けて金剛に飛びつく。

 普通なら後ろに倒れ込むか、そうでなくとも体が大きく揺れるだろうが、金剛は風がそよいだ程度の動きで三之御子を軽く受け止める。

 三之御子の方は、そのまま頭を金剛の胸の辺りに押し付けるようにしがみつく。それに姿勢を合わせ半ば抱えた金剛は、部屋にある椅子に三之御子ごと腰掛けた。

 そしてたっぷり5分ほど金剛の体の温かさと柔らかさを堪能した三之御子が、顔を上げて大きな笑顔を作る。


「ありがとう。ちょっと元気になった。金剛は元気にしてた?」


「私は変わりない。アナもな。ただアナは三之御子様に会いたがっている。時間ができたら一緒に行こう」


「うん! 絶対行く。ていうか、帰ってきたから学園に通うし、会えるよね?」


「どうかな? アナは今は警備の都合もあって、家庭教師に教わっている。私も学園ではなく、アナの屋敷にいる事が多い。だが、会うとなると、どちらかの屋敷より学園が良いだろうな」


「そうだね。ここも護衛、じゃなくて警備の人が増えて窮屈だもん」


「アナの屋敷も周りは警邏が囲んでいた。学園はそうでもないから、会うなら学園が良いだろうな。白峰らに相談しておこう」


「お願いね!」


 「ああ」。返答しつつ金剛は三之御子の頭を優しく撫でる。

 ただ内心では、アナスタシアにすぐに会うのは簡単ではないだろう思っていた。


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