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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第四部「極東戦争編(3)」

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178 「異国の天狗の秘密会談」

 三之御子が帰国する少し前、アキツに留学中のままのタルタリア帝国第三皇女のアナスタシア・ソフィア・アレクセーエヴナ大公女は、太政大輔の石見の紹介で七連月(セプテントリオネス)のメグレズと面会していた。

 扉の側には、金剛が気配を感じさせないほどの自然体で静かに立つ。


 場所はアキツ政府が用意した西方風の大きな旅館。ここは南鳳財閥が経営しているが、適度に政治の中枢部に近いこともあって密会の場として利用される事がある。

 しかも館内は、一般には使用禁止どころか秘密にされている出入り口や通路があり、十分な警備体制も敷かれていた。

 並の料亭などより、よほど防諜体制は整っている。


 ただ、旅館の建築様式や内装が、彼女らの国で好まれるものとは違っていた。

 旅館の内装は西方でも北のアルビオン様式と北方妖精連合様式のもの。彼女らの祖国であるタルタリアで好まれるのは、西方文化の中心とされるガリア様式だった。

 しかしそれを気にする者は、この場にはいなかった。


 当然とばかりに、お茶の様式もアルビオン様式で、琥珀色の液体が白磁の西方風湯呑みに満たされている。

 最近流行の珈琲(カフェ)は、まだ上流のものとは見られていないからだ。

 加えて、3階建ての銀の塔がそそり立ち、各階層には様々な軽食とお菓子が宝石のように鎮座している。

 そして湯呑みにお茶が注がれるのを待ち、相対する二人の天狗の女性の傍に座る平凡な(オーガ)の中年男性が口をひらく。


「本日はよくお越し下さいました。非公式とはなりますが、アキツ政府を代表して御礼申し上げます」


「いいえ、こちらこそ席を用意して頂いた事、感謝致します」


「私どものような素性の者を招いて頂き、深い感謝を申し上げます」


 アキツ風ではなく西方風の紳士服を着た鬼の石見太政大輔に続いてアナスタシアが軽く頭を下げ、メグレズが深めに頭を下げて慇懃に続く。


「いいえ、それではまずは紹介させて頂きたく存じます、大公女殿下」


 続いて石見の言葉。それにアナスタシアが、幼い顔に真剣味と緊張を増して頷く。

 そうするとメグレズが座っていた豪華だが品の良い椅子から立ち上がると、その傍で片膝をついて頭を深く下げる。


「拝謁の栄に浴し歓喜に堪えません。七連月のメグレズとお呼びください。また挨拶が後になったこと、まずは深くお詫び申し上げます。ですが、本当の名を申し上げられない事、ご容赦お願い申し上げます」


 それを「アナスタシアです」とだけ受けるアナスタシアだが、作法通りしばらくそのままを維持する。

 顔を合わせて最初に礼を取らず今なのは、主賓はあくまで石見という体裁だからだ。この部屋も石見が取っており、二人は石見の客人という形になっている。

 ただし二人の表向きの立場はただの客人であり、アナスタシアも私人としてこの場にいる。


「頭をお上げなさい」


 アナスタシアの言葉でメグレズはようやく頭を上げ、アナスタシアが手で促したので再び椅子に腰掛ける。


「私は廃嫡同然の身です。礼を取られる事もありませんのに」


 「いいえ」。アナスタシアの力ない笑みに、メグレズは強く頭を横に振る。


只人(ヒューマン)の皇族、貴族にとってはそうやもしれません。ですが我々にとって、皇女殿下は希望であり象徴ですらあるのです。本来ならご尊顔を拝した時点で礼を尽くすところ、誠に申し訳なく存じます」


 メグレズは大公女ではなく皇女と敢えて言うが、「我々」が誰なのかは伝えない。それをアナスタシアは、相手の見た目通り天狗だから亜人全体かもしれないと考え頷く。

 過去にもこうしたやり取りがあったからだ。

 そしてアナスタシアが頷き返したところで、石見が彼なりに社交的な笑みを浮かべる。


「さて、本日は私どもの主催にて、二人を紹介し合っただけというのが主旨ではございます。あとはお茶と茶菓子を堪能していただければとは思いますが、それでは物足りないでしょう。私どもはこれで席を外しますので、忌憚なくご歓談ください」


「ご配慮、痛み入ります石見様。大剣豪も席を外されるのですか?」


「いいえ。金剛はわたくしの警護で居てくださいます。来客のおりは、決して離れることはありません。ご容赦ください」


 アナスタシアの言葉が、石見の返事よりも早く視線と共にメグレズに届く。反射的に首を少し下げてしまう、言葉と視線だった。


「とんでもありません。むしろ居て頂きたく」


「大剣豪はあくまで個人としておられます。私が下がれば、そこにアキツの意思はありません。それでは私は失礼させて頂きます」


 それに頭を下げるメグレズだった。

 そしてその言葉を最後に石見は部屋を出た。


「それでは、お茶のお話でもしましょうか。それともこの甘いお菓子のお話を?」


 大人ぶったそれでいて少し悪戯心が感じられるアナスタシアの言葉に、メグレズ思わず笑みが溢れる。

 今までとは違い、心からの笑みだった。


「それもよう御座いますが、今日は私と私の属する組織を少しでも信頼いただけるように力を尽くさせて頂ければと存じます」


「信頼ですか。信頼できる方は、一人でも多く得たいと考えています。特にアキツでは、身の回りの世話をしてくれる者たち以外では、あちらにおられる金剛様と他数名の方だけ。それが同郷の方、しかも天狗の方と親交を持ち、信頼を寄せる事が出来るとなれば、これに勝るものはありません」


「お言葉痛み入ります。そのお言葉に応えられるよう、務めさせて頂きたく存じます。ただ、皇女殿下が信頼される方には、御子様のお一人もおられると側聞致しましたが、違われるのでしょうか?」


 メグレズのちょっとした雑談じみた口調の言葉に、アナスタシアは少し寂しげに笑みを返す。


「友人として、あの方に勝るお方はそうはおりません。ですが、それぞれ国を背負う立場です」


「これは失礼致しました」


「いいえ。それより信頼というのなら、もう少し砕けた言葉で話しませんか? 見ての通りの子供ですので、堅苦しい話し方は疲れますの」


「フフフッ。ええ、そう致しましょう」


「はい。では皇女殿下ではなく、アナスタシアとお呼びください。あなたはメグレズ? それとも商人としてのお名前でお呼びすればよろしいですか?」


 「そうですね」。メグレズは少し考えるそぶりを見せる。


「エリザベータは幼名でした。リーザとお呼び頂けると、いえ、呼んでください。このアキツでは、リーザと呼んでくれる者は殆どいないので嬉しいです」


「そうですか。リーザはアキツに滞在してまだ長くはないと聞きますが、もう友人がいるんですね」


「はい。アキツは亜人の国。タルタリアと違い天狗への偏見がないどころか、親しくしてくれます。ただ友人は戦地なので、今、リーザと呼んでくれるのは、アナスタシア様だけです」


「戦地に。では軍人なのですね。そうなると、友人が敵味方に別れて相対しているのでしょう。心中お察しします」


「いえ。タルタリアには友人は殆どおらず、いても天狗なので戦地に行く事はないでしょう。心置きなく、アキツで出来た友人の無事を祈れます。活躍まで祈るわけにはいきませんけどね」


 そう結んで笑うと、アナスタシアも半ば愛想笑いで続いて笑った。

 それで気が緩んだのか、メグレズが視線をアナスタシアから扉の側の金剛へと向ける。


「そういえば、アキツでの友人は大剣豪に似ています。アキツの大天狗(ハイエルフ)は、皆似ているのでしょうか?」


「さ、さあ、どうなのでしょう。偶然なのでは?」


 アナスタシアは少しわざとらしくはぐらかし、離れた場所の金剛は知らないと軽く肩を竦める。

 

「そうですね。外務卿の大仙様は大剣豪とは似ておられませんでした。ただ、私は魔石(ジュエル)の商人でもあるので、魔力豊富な大天狗と一人でも多く知己を得たいと思っているので、そう見えただけかもしれません。失礼しました、大剣豪」


 「構わないよ」と首を軽く振る金剛に頭を下げたメグレズだったが、彼女が話題にした鞍馬と金剛は関係があると推測できた。

 彼女は他人の魔力を見通す事が出来るのだが、二人の魔力が血縁者特有の似た感覚があったからだ。


 その後も何のことはない談笑を小一時間続け、その日はお開きとなった。

 だがアナスタシアと知己を得られた事、それがアキツ政府の手によるものである事、さらにはアナスタシアのそばに大天狗がいた事、全てがメグレズにとっては収穫だった。


(これで『竜政復古』に一歩前進ね。)


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