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無事、料理大会が終了した。
それもウチのオシム料理長の優勝で。
最後のオマケの勝負で、オシム料理長の優勝が霞んでしまったのではないかと心配したのだけれど、ペペの司会術がすごかったので、なんとなく良い感じに収まっているのが不思議。
それに、オマケの勝負に負けたオシム料理長が清々しい表情なので、なんかドロドロしたものが一切無く、綺麗に終了したのだ。
大聖堂前の広場を埋め尽くした群衆は三々五々、街の中へ消えていった。
私も父さんやユーリのところへ戻らなくちゃ。
「ナスカ、戻りましょうか」
「はい。お嬢様」
渋谷のスクランブル交差点のように、広場の中を行き交う人たちは、思わぬ方向に動いているのでぶつからないように広場を抜けるのが大変なのだ。
日本だと暗黙の了解でお互いがぶつからないように譲り合うんだけれど、ここではそうでもない。
既に揉めている人達を遠巻きに、スススっと広場の端へ移動する。
「あんた! やっぱり凄かったね!」
背中に向かって大きな声で話しかけられた。
この声は知っている。
ゆっくり振り向くと、『リスの宿』の料理長が仁王立ちになっていた。
「あんたんところで御馳走になった料理! どれも美味しかったよ。今日のだって本当は味見させてもらいたいくらいさ」
彼女の目は蘭々と輝き、こちらをしっかりと見つめている。
「この大会が次もあるかどうかは知らないよ。だけど、今度また機会があったら、料理の腕を競い合いたいねぇ」
彼女の言葉は乱暴だ。でも、その声音には一定の尊敬の念が込められている。
そして、彼女も尊敬されて良い料理人だ。
「ええ。料理は奥が深いですね。あなたの料理からもたくさん学ばせて頂きました」
こちらの気持ちも、声から伝わればいいのだけれどと思いつつ、口を開いた。
料理長はニヤリと笑い、「そいじゃあ、あたいらは戻るよ。長い間店を空けているからねぇ」と言い、クルっと背を向けた。
「今度は私がそちらのお店に寄らせて頂く番ですね」
料理長の足がピタリと止まった。
上半身だけをこちらへ振り向かせ、じっとこちらを見た。
「ああ、待ってるよ!」
料理長は最後にいたずらっ子のようでもあり、歴戦の戦士のようでもある、何とも言えない表情を浮かべた。
そして、間髪入れずに前を向くと、片手だけを挙げて、手を振り、そのまま去っていった。
「豪快な方でしたね……」
ナスカの感想に、素直に頷いた。
広場を去りながら、ぐるっと見回すと、遠くにペペが見えた。
審査員たちに何か話しかけている。
参加のお礼でも言っているのかもしれない。
その直ぐ近くで、ウチの王都店の料理スタッフがオシム料理長を囲んでいる。
群衆の数もかなり減ってきた。
ああ、大会が終わったんだなぁ……。
ナスカと一緒にフローリストガーデンへ向かう。
歩きながらも考えていたのは、アドリエンヌ様のこと。
優勝はできなかったけれど、オマケの勝負では勝てた。
この成績でアドリエンヌ様に報告に上がることは可能だろうか?
角を曲がると、フローリストガーデンが見えてきた。
門の外にユーリが立っている。
ちょっと早歩きになりながらそちらへ向かうのを、ユーリも気付いたみたい。
走らない。でも、ちょっぴり早歩き。
ユーリも門の前から動かない。
でも、目はしっかりこっちを見ている。
「あなた!」
「おかえり。頑張ったな」
「うん!」
横でナスカが照れたように笑ってる。
私がユーリの前で立ち止まると、ナスカは軽く会釈をして、そのままレストランへ入っていく。
ちゃんとナスカにもお礼を言いたいけど、今はユーリだ。
にっこりと笑ったユーリが、後ろで組んでいた手を前に持ってくると、その掌の上には小さな箱が載せられていた。
ユーリがそのまま蓋を開けると、中には綺麗な花が敷き詰められていた。
プロポーズの時にもらった花を思い出す。
「オレからの盾だ」
「クス」
彼の顔がちょっとだけ照れているようで、思わず笑ってしまった。
居心地悪そうにしているので、時間を空けずに箱を貰う。
「ありがとう」
「うん」
手を繋いでレストランの方へ歩く。
父さんたちが待っているから、早く今日の話をしなくちゃ。
アドリエンヌ様のことは、後で、ユーリに相談してみよう。
レストランのステンドグラスの嵌められたドアを潜って漸く、料理大会が本当に終わったんだなぁという実感がした。




