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「しゅ~りょ~! どちらの陣営も手を止めてください!」
映像を撮影する機材がオシム料理長とその料理、次いで私の顔を写し、最後に私の料理を大写しにした。
それら全てが広場にある5つの大スクリーンに映し出されている。
いつものことだけど、自分の顔の大写しにはどうしても馴染めない……。
「料理されたお二方、どうぞ司会台までお越しください」
ペペの声が拡声器を通して広場に広がる。
オシム料理長と同じスピードで司会台へ。
先ほど、大写しになったオシム料理長の料理は、肉料理だった。
平皿に盛られたその料理は、大振りに切ってある鶏胸肉がソテーされているものだ。
肉自体に色が付いているのと、表面に白っぽいものがチラホラ見える。
これはきっと、何かの漬け汁に漬け込んだ後、小麦粉をまぶして炒めたんだと思う。
そして、肉の横にはパイナップルや、玉ねぎ、アボカド……それと、あれはパクチーかな?
これらが綺麗な色味を見せ、ソースとして装ってある。
見るからにおいしそう。
私のパイナップルヨーグルトケーキも、ヨーグルトソースの上に、バラの花のように飾られたパイなプルのコンポートが目に入る。
おしゃれなスイーツになったと思う。
「それでは、審査員の皆さまに試食をして頂きましょう。まずは、冷めない内に肉料理であるオシム料理長の皿をサーブしてください」
ペペの指示に従って、大会スタッフがきびきびと動く。
「オシム料理長、この料理は何と言う料理ですか?」
「これは、私のオリジナルで、鶏のソテー パイナップルソースと言います」
「この料理の特徴を教えてください」
一回、ごくりと唾を飲み込んでから話し出したオシム料理長は雄弁だった。
「これは、脂身が少ない鶏の胸肉を使っています。パサパサにならないように、下処理をして、漬け汁へ漬け込みます」
「先程、お酒に浸けていた工程ですね」
「ええ、それと、胡椒などの香辛料を使った漬け汁に漬けることで、冷めても肉を美味しく食べれるようにしています」
「冷めた時の工夫もしているということですね」
「そうです。肉は焼いてから時間が経つと固くなります。でも、このお酒での下処理、油を含む漬け汁に漬けること、そして肉汁や肉の油を逃さないように小麦粉を叩いていること、なにより肉をやわらかくするパイナップルを使うことで、肉をできるだけ柔らかく、時間が経っても美味しく召し上がれるように準備しました。なので、試食は出来上がったばかりの今と、もう少し時間を置いてからの2回でしていただきたいくらいです」
オシム料理長がそういうと、ペペの瞳がキラリンと光った!
「皆さん、お聞きになりましたか? では、審査員の皆さま、最初は半分だけ食べてください。次にケーキを試食していただき、その後、もう一度肉の方を試食してください。それで良いですね? オシム料理長」
大きく頷くオシム料理長。
「ええ、望むところです! それでお願いします」
司会者台の前に設置されている審査員席では、皆がオシム料理長の皿を試食しはじめた。
「うん! これは柔らかい」
「臭みがまったくないですねぇ」
「鶏の胸肉なのにパサパサしていない。これは凄い!」
「パイナップルとはこういう味なのか」
「見栄えも良い……」
「皆さん、今回は対戦相手にも試食して頂きましょう!」
立ったままだけれど、平皿に盛られた鶏のソテーが渡された。
ナイフはなく、フォークだけ付いて来た。
カチャカチャ。
牛肉とは違うから、鶏肉の繊維に添ってフォークを入れると簡単に一口サイズになった。
フォークだけで切れる。
下処理が丁寧に行われているから臭みは無いし、パクチーなどの香り強め香草が使われているから、肉の香りより、ソースの香りの方がまず前面に出てくる。
パクリ。
一口齧ると、複雑な味が広がる。
小麦粉を叩いているので、漬けおきしていた調味料の味もちゃんと残っている。
なにより、5㎜角に切ってあるアボカドやパイナップル、玉ねぎのソースが肉とは別の食感を生み出す。
「アウレリアさん。いかがですか? 対戦相手のお料理は」
ペペがいたずらっ子のような顔で聞いてくる。
口に含んでいたものを全部飲み込む間に、コメントを考えた。
「そうですね……。肉の下処理が良いですね。後、小麦粉をまぶしたことで、ちゃんと漬け汁の味が絡んでいます。付け合わせのパイナップルソースは、元々油が少ない胸肉を、冷めても固まる事のないアボカドの油で奥行を出すなど、創意工夫が素晴らしい料理です」
オシム料理長の頬と耳が朱くなり、目がキラキラと輝き始めた。
ペペが拡声器に向かって話す。
「スゴイですね。アウレリアさんはオシム料理長が何を狙って作った料理なのかをちゃんと理解されているんですね。しかも、勝負が掛かっているのに、相手の料理をちゃんと褒めている度量の大きさ!」
本当はここがもう少しなど、相手の料理の欠点をあげつらう方が良いのかもしれない。
でも、オシム料理長はウチの料理長なのだ。
それに、料理人として嘘は吐きたくない。
「それでは、今度はアウレリアさんの料理の試食をお願いします! 前の料理の味を残さないために、一度お水で口を濯ぎ、今お配りしている牛乳を少量飲んでください」
おおお! ちゃんと考えてるんだね。
大会スタッフが皆に水と牛乳を配った後、少しだけ時間を置いて、ペペがまた拡声器の前で口を開いた。
「それではパイナップルヨーグルトケーキを配ってください」
今度こそ、大会スタッフが審査員とオシム料理長にケーキを配膳した。
思わず知らず掌をギュッと握ってしまっていた。
どんな感想を聞かせてもらえるだろう……?




