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背筋を伸ばして人が割れてできた道を行く。
「ナスカ、一緒に来て頂戴!」
「はい、お嬢様」
周りの様子がスローモーションのように見える。なのに、気がつけばもう舞台の前だ。
ペペがニッコリ笑ってこちらを見た。
笑い返す余裕はない。
「こちらの舞台へどうぞ」
拡声器を通して司会者が言う。
ぎゅっと両の拳を握りしめて階段を上ると、複雑な顔をしたオシム料理長がいた。
眉は八の字に寄っているのに、その下の目はランランとしている。
私を引っ張り出したことに申し訳なさを感じつつも、対決はしたいということか?
彼が軽く会釈をしてきたので、私もそれに返す。
今度はペペが軽く顔の前で手を振ってきたので、つい目線はそちらへ行ってしまう。
腹立つことに、ペペはいたずらっ子のような顔だ。
目線が合うと、安心したのか、ペペは再び司会者と話し出す。
司会者が頷いたかと思うと、ペペが拡声器の前に立った。
「この料理大会をご覧の皆さま! この試合は急遽決まりました!」
おいおい、私はまだ勝負をするかどうか聞かれてすらないんですけどぉ?
心の中でどれだけ悪態をついたとしても、これだけの観衆がいるなか、この流れにNOを言う勇気は私には無い……。
「急遽決まった試合なので、司会は私が務めさせていただきます。それではこれから直ぐに勝負を始めて頂きましょう!」
「「「「おおおお!」」」」
お祭り好きの観衆は、余分に一つ勝負が見られると気が逸るみたい……。人の気も知らないで……。
「今回は、お二方ともフローリストガーデン関係者ということで、あそこのホテルでしか扱っていない食材を解禁します!」
ペペがそう宣言すると、観衆は再び大きな歓声を上げた。耳が痛い程の声で、思わず手で耳を押さえてしまった。
スクリーンに大写しにされたのは、ウチの温室で作っているパイナップル。
「ありゃぁ、なんだ?」
「なんかゴツゴツしとるぞ?」
「野菜か?」
群衆も初めて見る人が殆どなので、パイナップルが何なのか興味津々の様子。
それにしてもペペはいつ、ウチの店からパイナップルを取り寄せたのだろう?
この手際の良さの裏には何か隠れてそう。
後できっちり問い詰めよう!
「これはパイナップルというフルーツです。この国ではフローリストガーデンでしか味わうことができません。それを使った料理を90分で作ってもらいます。審査は引き続き、本大会の審査員が行います。パイナップルを使っていればどんな料理でも構いません!」
ペペは司会者よろしく、ちゃんと進行をしている。
パイナップルを使った料理……。
「勝敗を決めるのはたった2つ!」
ペペはそう言うと黙ってしまった。
聴衆は次にペペが何を言うのか、固唾を呑んで待っている。
これはペペんところの司会者が良く使う手だ。
元々の発案者であるペペが同じ手法を使ってもおかしくはない。
散々皆を焦らした挙句、ニヤリと笑ったペペは「時間内に作ること! そして美味しいこと! このたった2つです。パイナップル以外の食材はテントの中のものを自由に使ってください。ただしっ!」
再び会場がシーンとなる。
「ただし、この勝負の勝敗は、今回の料理大会の優勝とは関係ありません。万が一、この勝負でアウレリア嬢が勝ったとしても、大会の優勝者は変わりません」
観衆からは再びザワザワとした喧騒が戻って来ている。
オシム料理長は既に何を作るか考えているのだろう。
周りの動きを全然見ていない。
やる気なのね!
なら、私もちゃんとそれに答えないと……。
「では、よ~い、はじめ!」
ペペの声が響いた。
オシム料理長は走ってテントの方へ。
私も行かないといけないんだけど、何を作るか悩ましい。
普段、店ではジュースにしたり、パフェの中に入れたりしていたパイナップル。
でも、これはオシム料理長も知ってる料理だ。
もしかしたら、彼もパフェみたいなものを作るかもしれない。
できるだけ、彼が思いつかない料理にしたい……。
酢豚?
う~ん……でも、しょう油があるか分からない。
これまでの勝負でも、置いてなかった気がする。
まだウチの調味料工場の商品は高いもんね。
多くの料理人が使ったことがないだろうし……。
こういう大会で置いてないのも無理はない。
なら、やっぱりデザート系?
オーブンはあるみたいだし……。
「お嬢様、テントの方へ行かなくて良いのですか?」
スタートの遅い私を心配して、ナスカが声を掛けてきた。
ナスカはウチのパティシエ!
そうよ。ケーキにすれば、ナスカの力もしっかり借りられる。
しょう油の有無より、ナスカがいることのほうが心強い!
「ナスカ。パイナップルのヨーグルトケーキを作りたいの。土台をお願いしてもいい?」
自分の専門分野の話になり、ナスカの顔がぱぁっと花が咲いたように明るくなった。
「もちろんです!」
「ありがとう! でも、まずはヨーグルトがあるかないかそっちを見てみないとね」
「では、テントへ行きましょう!」
二人してテントに近づくと、中にはオシム料理長と彼のアシスタントが肉のコーナーで物色している。真剣な顔だ。
ウチの店ではパイナップルを肉料理として出したことは無いはず。
なのに自分で肉料理を思いついたとしたら、やっぱりオシム料理長は素晴らしい料理人だと思う。
これは、彼がどんな料理を作るのか、とても楽しみだ。
昨日、あれだけ悔しい思いをしたんだもの。私も全力で戦わせてもらうわ!
いつも拙作をお読み頂き、誠にありがとうございます。
TOブックス さんから出版される、書籍2巻目の予約が8月20日に開始されました。
1巻に続いて、書籍版は、なろう版から “大きく”書き替えています。
・あらすじも、新たに登場するキャラも、料理さえ新しいものが登場!
・今回のメインメニューは意外性たっぷり!
・書き下ろしエピソード収録
今回も、もはやほぼ「新作」と言ってもいいくらいのボリュームアップです!
販売月は11月の予定です。
同月に連載開始予定のコミック1話も収録されております。
もし少しでも「気になる」と思っていただけましたら、
ぜひ購入という形で応援していただけると嬉しいです!
よろしくお願い致します。
引き続き、『小さなコックさんの異世界レシピ ~料理魔法なんてあったんだぁ、と思ったら万能スキルでした~』をよろしくお願いします!




