58
いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
申し訳ございません。
今回の予約掲載、7:50のつもりが17:50に設定されておりました……。
朝早くからアクセスしてくださった皆様、本当に申し訳ありません。
今後はこのようなことがないよう、予約時間をしっかり確認いたします。
これに懲りず、今後とも拙作をよろしくお願いいたします。
「優勝のトロフィーを貰う前に、昨日の本当の最優秀賞を受けるべきだった料理人と、勝負をさせて下さい!」
そう宣言したオシム料理長。
彼はこれだけ多くの観衆の中から、何故か私を見つけだし、じっと見ている。
「審査員のお一人、王城のモートン料理長におかれては、昨日、チームBに所属していた『ホットドッグ屋』こそが、『フローリストガーデン・グループ』の創始者であり、コース料理の発案者だとお分かりですよね?」
「……」
モートン料理長は無言だ。
「側室様のお輿入れの際、王城のキッチンをお借りして料理したのが彼女です。コース料理の発案者を落とし、その部下である私を、コース料理を良く理解しているからと最優秀にしたのはどうしても納得がいきません」
「賞の授与に関しては、私一人が決めることではない」
モートン料理長が徐にそう口を開いた。
「でも……」
口を開こうとするオシム料理長。
「何が不服なのだ?」
それを押しとどめるように、横からファルブル侯爵が参戦してきた。
「私の受賞理由に、納得がいっていないと申し上げているのです」
「そなたが受賞したのは、チームを纏め上げ、コース料理の流れを管理できていたからだ。その点、チームBは味が単調だった」
「でも、それはっ、チーム戦の話ですよね?」
「……」
侯爵は答えなかった。
「コース料理は彼女の発案です。若い女性だということで、他の料理人から軽く扱われた! それがあの時の勝負の底にありました。しかもっ! 彼女が作った前菜はとても素晴らしい料理でした。肉料理だけでなく、野菜や魚まで使い、料理方法も……」
「待ちたまえ!」
ドットピース伯爵がオシム料理長の話を止めた。
「あなたが言いたいことは分かりました。そして優勝は優勝として、それとは別に彼女と対戦したいということですね?」
オシム料理長は深く頷いた。
「彼女の前菜を食べたでしょう! あれを食べてなお、彼女を最優秀から外す理由を、私は聞きたい!」
ファルブル侯爵とドットピース伯爵、モートン料理長が舞台上で集まって相談しはじめた。
「このままでは優勝が、私の中では優勝ではなくなります!」
舞台の上にサイマル子爵夫人と甘味料理長も上って、話し合いに参加した。
この待つ時間というのは実際の時間より体感時間は長いものだ。
それ程待たされていないのだろうが、ものすごく待たされた気がする。
それに私は今まで、フローリストガーデングループの件では、後ろに控えていることが多かった。
別に隠れていたわけではないけれど、最初は父さんの後ろに、ランビットが入社してからは彼を前面に出していたので、知る人ぞ知るという立ち位置だったのだ。
それが、このオシム料理長の発言で、観客にフローリストガーデンの主だと知られてしまった。
ちょっと居心地が悪い。
それに、私から見ても、昨日と今日のオシム料理長の料理は、優勝者たる料理だと思う。
恐らくだけど……オシム料理長も自分の料理に自信があるからこそ、私と勝負したいと言っているんだと思う。
ナスカが心配そうにこちらを見ている。
先ほどまで群衆の一人であった私の周りには、今は広い空きスペースができ、興味津々の視線がじっとこちらに注がれている。
審査員たちと司会者が話し合っている。
その横でオシム料理長は両腕を組んで、仁王のように立っている。
予感がする……。
今、審査員たちが話し合っているのは、私と勝負させるかどうかではなく、どんな勝負にするかなのではないかと……。
「あっ!」
ナスカが声を上げた。
彼女は舞台の方を見ている。
そちらに目をやると、ペペが舞台に上がってきた。
やっぱりこの大会はペペのところが企画、運営していたのね。
ペペが呼ばれたということは、勝負すると言うこと?
胸のなかに白い煙の渦がいくつもできたように感じる。
私の正体が大勢にバレてしまった不安の渦。
オシム料理長を認め、称賛する喝采の渦。
勝負して勝利したいという料理人としての自負の渦。
そして、ペペがどこまで勝負を面白くできるのかという興味の渦。
それら、複数の渦がまじりあって、なんとも言えない心持ちになる。
司会者が拡声器の前に立った。
「皆様、お待たせしました」
それまで騒然としていた会場が、一瞬でシーンとなった。
「優勝者であるオシム料理長のご意見を鑑み、当料理大会委員会は追加の勝負を行うことにします」
司会者の言葉が終わると同時に、会場に割れんばかりの声が上がった。
「「「「おおおおおーー!」」」」
「但し、この追加の勝負は、オシム料理長の優勝を動かないものとした上で今、ここで行われます!」
え? 私が勝負をするかどうか聞かないで、勝手に決めちゃうの?
それも今勝負って……。
「確かに! 昨日の最優秀賞の候補者として最後までオシム料理長と競っていたのは、ホットドッグ屋として参加していたアウレリア嬢でした。そして彼女がコース料理の発案者であることを知らない審査員が多かったこともその受賞有無の判断になっておりました」
正直、コース料理は私の発案ではない。
前世の記憶を活用したのだ。
私の功績などではない。
「何より、これまでホットドッグ屋が提供してきた料理は常に1位か、2位でした。ですので、大会の結果とは関係なく、オシム料理長個人のご要望に応える形で行います。アウレリア嬢、舞台の方へお越しください!」
モーゼの十戒のように、人波が目の前で真っ二つに分かれた。
嫌でも舞台までの道ができ、逃げることは許されない空気の中、最初の一歩を前に踏み出した。




