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大聖堂の影が大きく広場を覆っていてくれる。
キツクなってきた陽射しに直接晒されずに済むのがありがたい。
「お嬢様、そろそろ始まりそうですよ」
昨日に続いて、今日もナスカが一緒に来てくれた。
「誰がどんな料理で優勝するのか、最後まで見てみたいですっ!」
そう言って彼女の方からついてきてくれたのだ。
本当は一人で来るつもりだった。
でも、こうしてナスカが隣に居てくれると、やっぱり安心できる。
今日の私は、完全に観客だ。
昨日までは自分が料理をしていたから、周りを見る余裕なんてほとんどなかった。
だから今日はじっくりと見せてもらおう。
そう思っていたところに、舞台の上に司会者が現れた。今日は男性の司会者だ。
「第一回料理コンテストの決勝戦を開催します!」
広場に集まった大勢の大人も子供も歓声を上げた。
年齢性別に関係なく、皆楽しそうだ。
イベントとして成功しているってことね。
「さて、決勝の試合方法を説明します!」
司会者の声に合わせて、スタッフが参加者たちの所へ近寄った。
その手には筒が握られていて、筒の中から突き出ている棒を参加者に引かせている。
しかし、広場のどこに居てもその様子が分かるように、大型スクリーンがあるので助かる。
「たった今、参加者には籤を引いてもらいました。籤には数字が1から5まで振ってあります」
……数字?
どうして籤が必要だったのだろう? 首を傾げていたら、司会者が説明を続けた。
「参加者には、あちらのテントから好きな食材を5つ選んでもらいます!」
昨日と同じテントだ。
「そして、その5つの食材全てを使って、一品の料理を作ってもらいます!」
なるほど。
「ただしっ!」
司会者が声を張り上げた。
「参加者より一つ大きい数字の籤を引いた者は、その5つの食材の中から1つを取り上げることができます」
え?
「取り上げた食材は自分が使わなくてはいけません!」
なるほど、そういうことか!
「五番を引いた参加者には、番号一番の参加者が取り除く食材を決めてもらいます!」
つまり……相手の困る食材を取り上げるのもありだし、自分が使いやすい食材を選ぶのもありなのね。
こうやって観客として見ている分には楽しいんだけれど、やってる方は大変なんだよねぇ……。
「調味料はあそこの台にあるものを好きなだけ使ってください。調理時間は60分。では、よ~い、はじめ!」
テントに走って行く料理人たち。
同時に調味料の台に走って行くアシスタント。
全部の食材を使わないといけない。
食材を選ぶところから始まって、相手に一つ持っていかれる可能性まで考える。
これは、かなり頭を使いそう。
「本当はこれが欲しい」と見せかけて、相手を誘導する。
そんな駆け引きも必要になっちゃうね。
私なら肉を2種類持って来る。
私が考えるようなことは、決勝戦に残った参加者は全員同じように考えたみたいで、みごとに肉とかメインになる食材を2種類選んでた。
そうなるよね。
片方を持っていかれても、片方が残れば問題ないもんね。
どっちも残っても一緒に使えば良いだけだもの。
でも、『リスの宿』は他の参加者とは違う。選んだ肉は1種類。でも、キノコも選んでいるので、肉を持って行かれても味付けはできる感じだ。
「60分経ちました! しゅーりょう!」
司会者の声が無情に響いた。
「スタッフの皆さん、審査員のところへ料理を運んでください」
料理が次々と運ばれていく。
大型スクリーンに映し出されていく。
まずはルイージさん。
ゆで卵をミンチ肉で包み、油で揚げたスコッチエッグ。
地球では珍しくないメニューだけれど、こっちの世界には無かったと思う。
ルイージさん、どうやって思いついたんだろう?
ウチの料理長はロール白菜。キャベツを取り上げられたらしい。
最初からそれを想定して、代用品まで用意していたんだ。
しかもソースに工夫を凝らしている。
スクリーンで大写しされているのを見る限り、店で出しているソースとは全然違うものだ。
……短時間に考え付くのが凄いと思う。
『リスの宿』は鶏肉の温野菜添え。
肉は無事だったらしい。
温野菜の色鮮やかさが食欲をそそる。
残りの参加者は、スープとステーキだった。
どちらも工夫はされている。
でも、決勝戦ともなると、やっぱりもう少し工夫が欲しいと思ってしまう。
一通り試食した審査員は、司会者のいる舞台へ上がる。
代表としてファルブル侯爵が発表をするようだ。
私は少しだけ身を乗り出した。
「第一回料理コンテスト 優勝者は……」
ファルブル侯爵はもったいを付けて、一度言葉を切った。
「フローリスト・ガーデングループのオシム料理長!」
「「「「わーーーー‼」」」」
観衆は老いも若きも大きな声を上げ、勝者を称えた。
やっぱりあのソースが決め手だったのかな?
「どの料理も美味しかった」
侯爵が続ける。
「最後まで、モンテベルデ伯爵家ルイージ料理長の料理とオシム料理長の料理で、どちらを優勝とするか、審査員の間でも意見が割れていた」
え? 『リスの宿』は? 確かに肉のローストだったので、あまり変わり映えはなかったけれど、温野菜のカットの方法や彩などにもすごく気を使っていたと思うのだけれど……。
「白菜でミンチ肉を巻いて煮るというのは、ロールキャベツと似てはいるが、ソースに工夫を凝らしており、また違った味わいだった。料理そのものも美味しいが、手の込んだソースをあの短時間に用意できたことを評価しての受賞だ!」
大型スクリーンに再びロール白菜が大写しになる。
「「「「おおおお!」」」」
広場中から再び歓声が上がった。
「優勝トロフィーの授与。オシム料理長、前へ」
司会者の声に合わせ、トロフィーを手に持ったドットピース伯爵が前に出ると、料理長も前に出たが、トロフィーを受け取ろうとしない。
……あれ?
そのまま見ていると、オシム料理長は軽くドットピース伯爵へ頭を下げ、そのまま拡声器のある司会者の所へ。
緊張した面持ちのオシム料理長がゴクリと唾をのみ込んだ後、拡声器に向かって口を開いた。
「優勝を与えて下さってありがとうございます」
一瞬言葉に詰まったかのように沈黙になる。
「でも! 昨日の最優秀賞の受賞理由に異議があります!」
「「「「ざわざわ」」」」
広場が一気に騒がしくなる。
……え?
昨日の最優秀賞?
「優勝のトロフィーを貰う前に、昨日の本当の最優秀賞を受けるべきだった料理人と、勝負をさせて下さい!」
オシム料理長の目は真直ぐにこちらを射抜くように向けられていた。




