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「いよいよ、明日は決勝戦です! 皆さん、明日、この広場で、王国一の料理人が決まるのです‼ 明日、ここでお会いしましょう‼」
司会者の声は聞こえている。
料理長は舞台から降りて、自分の調理台まで戻ろうとしつつも、周りに揉みくちゃにされている。
ナスカが先導する形で、何とか料理長へ近づく。
「お嬢様……」
料理長が眉を真ん中に寄せて、こちらを直視できないかのように、視線を遊ばせる。
「料理長! おめでとうございます」
「おめでとうございます……」
明るくお祝いを言うと、ナスカが渋々のように追従する。
「いえ、お嬢様っ! コース料理を発案したということで頂く賞であれば、お嬢様こそが相応しい……。今からでも返納してきますっ」
料理長は思い詰めたように両手を握りしめ、折角最優秀賞を貰ったというのに、とてもそういう風には見えない。
「料理長。この賞は、コース料理として味を組み立てたことに対しての賞なので、私が貰うべきものではないですよ」
口では綺麗ごとを言っていても、悔しさとどこか納得のいっていない自分が居る。
でも、ここはやせ我慢だとしても、お祝いを言う場面だ。
「でも……」
「明日、頑張ってくださいね。優勝されることを祈っています」
「あ、ありがとう……ございます……」
料理長自身も最後の侯爵の解説で、色んな疑問が沸いているところだったのだろう。
そこへ、私が顔を出したもんだから、余計に後ろめたい気持ちになったのかもしれない。
でも、そもそもコース料理は私が考え出したものじゃない。
前世で、どこかの国の誰かが考え出したものを、使わせてもらっているだけなのだ。
私だって前世の誰かの知恵を借りている。料理長を責める資格なんて、私にはない。
そこまで考えが及ぶと、今度は自然と応援する笑みが浮かんだ。
少しでも料理長が明日、戦いやすいように。
ユーリや父さんたちのいるフローリスト・ガーデンへ向かうために踵を返すと、「お嬢様……」とナスカがまだ納得がいっていないのだろう。不満気な声が零れている。
「ナスカ」
「はい?」
「私だって悔しいわ。すごく悔しい。でも、それとこれとは別なの。料理長はライバルだった料理人たちをまとめて、一つのコースに仕上げた。それは料理長にしかできなかったことよ」
「それはそうですが……」
ナスカは納得できないように眉を寄せる。
私も分かっている。
今、ナスカに言っている言葉は――半分は自分自身へ向けたものだ。
私は私が負けるなんて思ってもみなかった。
チームが負けても、最優秀賞は貰えるとどこかで思っていた。
料理魔法もあるし、前世の記憶もある。この世界の料理人より、自分が優れているとどこかで思っていた。
アドリエンヌ様とその妹の輿入れの時、王城の調理場で私が料理しているのを王城の料理長は知っているので、それが安心材料の一つだと勝手に思っていた……。
『なんだ? もう担当は決まったんだ。変えないぞ』
『自分が作れる最高の料理を出せばいいんだ。時間がないんだ。みんな調理を始めてくれ』
そう言われて、私は周りを変えることを最初から諦めたけれど、何か他に方法があったのかもしれない……。
負けたことも、そこに要因があるかもしれない。
今の自分では到底思いつかない方法を考えられる頭が欲しい。
この男尊女卑の世界で、自分より年上の男性でも納得させ、協力させることができる力量が欲しい。
欲しいというのは、今はそれだけのものを持っていないってことだ。
それが悔しい!
情けない!
でも、自分の気持ちを宥めるように、今回の料理大会を思い返す。
そうしないと、悔しさに飲み込まれそうだから……。
思いもしなかったライバルができた。
ナスカが自分で考えるという成長を見せた。
ウチの料理長の力も再認識できた。
私もまだまだだってことが分かった。
……うん。
悪いことばかりではなかった!
いよいよ広場を出ようとした時、右の肘をグイっと引かれた。
えっ?
そこには『リスの宿』の料理長が立っていた。
こちらを睨みつけている。
「あたいは納得してないよ!」
「えっ?」
「あんたの前菜は凄かった! あんたの料理を少しだけ試食せてもらった。あんたは負けてない!」
真剣な眼差しが怒っているようにも見えるが、彼女が一番、悔しいと思ってでもいるかのようだ。
「一皿ごとに調理法を変えてきた。あれだけ引き出しを見せられた料理人なんて初めて見た」
「……ありがとう」
「感謝される謂れはないよ! あんたは何で怒らない? 怒るべきなんだよっ。自分の料理に自信があるなら怒らなきゃいけないよ」
彼女の言うことは分かる。
「もちろん、怒ってますよ」
「そうは見えないよ」
「見えなくても怒っています! 何があっても選ばれるくらい圧倒的な料理を作れなかった……自分に怒ってるんです!」
「……そうかい。なら、明日はここへ来なよ!」
実は明日ここへ来ようかどうしようか迷っていたのだ。
自分が参加できない大会を見たいとは思わない。
でも、ウチの料理長が優勝候補で頑張っているのに、応援しないのも変だし、今、頭の中はぐちゃぐちゃだ。
でも、『リスの宿』の料理長にこうまで言われては、来ないわけにはいかない。
「だから見届けな! あたいが優勝して、あんたに勝った料理長にも勝ってみせる!」
「……分かりました。見にきます」
『リスの宿』の料理長は納得した顔をして、踵を返し、広場の人混みの中へ戻っていった。
悔しさは消えない。でも、明日は逃げずに決勝を見届けよう。




