↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

590/603

55

「それでは結果発表です。まず勝者グループの発表からっ!」

 司会者が場を盛り上げようとしてだろう、いつもよりも声を張り上げている。

 その声が耳障りに思えるのは、私に余裕がないから?

 それにしても、ここに居る皆はもう結果は予想付いているはず。

 だって、審査員たちの試食のコメントは、はっきりとどちらのチームが優れているか遠慮会釈無く伝えていたもの……。


「審査員の皆さま、勝者と思われるチームの名前が書かれたボードを掲げてください~」


 しかめっ面のファルブル侯爵が徐にボードを持ち上げた。   Aチーム

 サイマル子爵夫人はボードをテーブルの上に載せた。     Aチーム

 ドットピース伯爵はふくよかな顔に満面の笑みを浮かべた。  Aチーム

 顎鬚を蓄えて居る、王城の料理長が迷った末に挙げたボードは、Bチーム

 同じく王城で甘味だけを作っている甘味料理長は無表情のまま、Aチーム


 やっぱり負けた。

 ……悔しい。

 あんなに頑張ったのに。

 でも、審査員の言うことも分かる。

 私たちは一皿一皿を競ってしまった。

 コース料理として勝とうとはしていなかった。

 味の構成が単調だったし、食べる人たちのことを考えていなかったと思う。


「お嬢様……」

 ナスカが心配そうに顔を覗いてくる。

「まだ、可能性があるから……」

 最後まで言わなくてもナスカには分かったようだ。


 私の本当の勝負は、次だ!

 そう、最優秀賞が欲しいのだ。

 チームが負けてしまったので、最優秀賞が取れないと、ここで終了になってしまう。

 あれさえ取れれば、まだ道は開ける!

 最優秀賞だけは。

 お願い。

 あれがなければ終わってしまう。

 お子様が生まれる前に、アドリエンヌ様に会いたいという目標が達成できなくなる。胸が苦しい。

 手のひらが汗でじっとりと濡れている。

 お願いだから、早く――。早く、最優秀賞を発表して欲しいのに、司会者は審査員たちにチームAの勝因や、ウチのチームの敗因について深掘りしている。


 審査員と司会者のやり取りが耳に入ってくるのに、意味をなした言葉として聞こえない。

 下手をすると、自分の鼓動の音の方が強く聞こえる……。


「前菜が飛び切り美味しくて、あの短時間で様々な調理法を駆使されていたのは、同じ料理人として脅威に思うくらい凄かったんですよ!」

 王城の料理長の感想がふと耳に入ってきた。

 え? 私の料理でウチのチームを選んでくれたの?

 本当に?

「冷蔵箱も無いのに、パテが新鮮で美味しかったんですよ。これはこんな天気の良い日に、野外で調理したことを考えると、本当に凄い事なんですよ! 生臭くなかった。いや、それどころか、味に深みがあったんですよ」

 何か、嬉しい!

 私が気を配って調理したところを、的確に拾ってくれてる感じだ。

 ここまで褒めてくれるということは、最優秀賞、望みある?


「それではいよいよ最優秀賞の発表に移ります。審査員5名で話し合って、既に優秀者を選んでいただいております。審査員を代表してファルブル侯爵より発表をお願いいたします」

 徐に席を立ったファルブル侯爵は、しかめっ面のまま、司会者の舞台へ向かっている。

 白い封筒がその手に握られていて、目はその封筒に釘付けになってしまうのはしょうがないと思う。


「ファルブル侯爵である! 最優秀賞の発表を行う!」

「栄えある最優秀賞は?」

 司会者が合いの手を入れる。


 あんなしかめっ面なのに、芝居気があるのか、ファルブル侯爵はなかなか発表しない。

 ドラムロールを担当している奏者が、途中、何度かリズムを崩しながらも、「まだ? まだ?」と言った具合に、何とか続けてドラムを叩いている。

 ニヤリと一回笑ったファルブル侯爵が封筒の中を見た。

「最優秀賞は。フローリストガーデン・グループ料理長 オシム氏!」

 えっ⁉

 ……。

 負けた?

 もう、決勝には出られない……の?

 本当に?

 ユーリや、母さんたち、私を応援してくれていた人達の顔が浮かぶ。

 皆に何て言おう……。

 

「では、最優秀賞のオシムさん。こちらへどうぞ!」

 料理長は右手と右足を同時に出して、カチコチになって舞台まで上がった。

「おめでとうございます!」

「あ、ありがとうございます」

 思わず拍手していた。

 ……嬉しい。

 本当に嬉しい。

 フローリスト・ガーデンのホテルチェーンを立ち上げる時から一緒に頑張った人だ。

 それも、今回、あ(・)の(・)『リスの宿』を制しての受賞だ。勿論、嬉しい。

 なのに胸の奥は、ずっと痛い。

「それでは、最優秀賞の盾をドットピース伯爵から手渡して頂いて、最後にファルブル侯爵に評価をお願いしましょう!」


 ドットピース伯爵は笑いジワの浮いた顔を更に崩して、小さな木製の盾をオシム料理長へ手渡した。

 ファルブル侯爵は料理長ではなく、観衆の方に向かって話し始めた。


「今回のコース料理。素晴らしい料理がたくさんありました。審査員の中でも最優秀賞については意見が大きく割れましたが、最終的にコース料理を考え出したフローリスト・ガーデンの料理長でもあり、チームの味をちゃんとまとめたオシム料理長に決定しました!」

「えっ?」

 オシム料理長の口から驚いたような声が零れた。


「お嬢様!」

 ナスカはコース料理をこの世に出したのが私だと知っているので、納得がいかないようだ。

 盛大に眉を寄せて、身を乗り出している。

「でも、審査員は、コース料理を考え出したことだけでなく、チームの味をちゃんとまとめたところを評価しているのだから……」

「そんなの変です! お嬢様が貰うべきですっ!」

 でも、舞台袖でそんな事を言っても、結果は変わらない……。

 決勝に出られない。

 その現実を受け入れた瞬間、胸に浮かんだのはアドリエンヌ様の笑顔だった。

 ああ……もう、お会いできないかも……。

 優勝して、堂々と胸を張ってお会いしたかった。

 飲み込めない塊が喉の奥につかえたまま、私は舞台を見つめ続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
主人公は恥ずかしい敗北の仕方でしたね。 肩書きで軍配が上がるのは、味だけの勝負というわけでもないし、 ましてやチームの味をまとめたってのも、個人戦だと無関係な気が しますが、それだけ主人公とオシム料理…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。