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「それでは結果発表です。まず勝者グループの発表からっ!」
司会者が場を盛り上げようとしてだろう、いつもよりも声を張り上げている。
その声が耳障りに思えるのは、私に余裕がないから?
それにしても、ここに居る皆はもう結果は予想付いているはず。
だって、審査員たちの試食のコメントは、はっきりとどちらのチームが優れているか遠慮会釈無く伝えていたもの……。
「審査員の皆さま、勝者と思われるチームの名前が書かれたボードを掲げてください~」
しかめっ面のファルブル侯爵が徐にボードを持ち上げた。 Aチーム
サイマル子爵夫人はボードをテーブルの上に載せた。 Aチーム
ドットピース伯爵はふくよかな顔に満面の笑みを浮かべた。 Aチーム
顎鬚を蓄えて居る、王城の料理長が迷った末に挙げたボードは、Bチーム
同じく王城で甘味だけを作っている甘味料理長は無表情のまま、Aチーム
やっぱり負けた。
……悔しい。
あんなに頑張ったのに。
でも、審査員の言うことも分かる。
私たちは一皿一皿を競ってしまった。
コース料理として勝とうとはしていなかった。
味の構成が単調だったし、食べる人たちのことを考えていなかったと思う。
「お嬢様……」
ナスカが心配そうに顔を覗いてくる。
「まだ、可能性があるから……」
最後まで言わなくてもナスカには分かったようだ。
私の本当の勝負は、次だ!
そう、最優秀賞が欲しいのだ。
チームが負けてしまったので、最優秀賞が取れないと、ここで終了になってしまう。
あれさえ取れれば、まだ道は開ける!
最優秀賞だけは。
お願い。
あれがなければ終わってしまう。
お子様が生まれる前に、アドリエンヌ様に会いたいという目標が達成できなくなる。胸が苦しい。
手のひらが汗でじっとりと濡れている。
お願いだから、早く――。早く、最優秀賞を発表して欲しいのに、司会者は審査員たちにチームAの勝因や、ウチのチームの敗因について深掘りしている。
審査員と司会者のやり取りが耳に入ってくるのに、意味をなした言葉として聞こえない。
下手をすると、自分の鼓動の音の方が強く聞こえる……。
「前菜が飛び切り美味しくて、あの短時間で様々な調理法を駆使されていたのは、同じ料理人として脅威に思うくらい凄かったんですよ!」
王城の料理長の感想がふと耳に入ってきた。
え? 私の料理でウチのチームを選んでくれたの?
本当に?
「冷蔵箱も無いのに、パテが新鮮で美味しかったんですよ。これはこんな天気の良い日に、野外で調理したことを考えると、本当に凄い事なんですよ! 生臭くなかった。いや、それどころか、味に深みがあったんですよ」
何か、嬉しい!
私が気を配って調理したところを、的確に拾ってくれてる感じだ。
ここまで褒めてくれるということは、最優秀賞、望みある?
「それではいよいよ最優秀賞の発表に移ります。審査員5名で話し合って、既に優秀者を選んでいただいております。審査員を代表してファルブル侯爵より発表をお願いいたします」
徐に席を立ったファルブル侯爵は、しかめっ面のまま、司会者の舞台へ向かっている。
白い封筒がその手に握られていて、目はその封筒に釘付けになってしまうのはしょうがないと思う。
「ファルブル侯爵である! 最優秀賞の発表を行う!」
「栄えある最優秀賞は?」
司会者が合いの手を入れる。
あんなしかめっ面なのに、芝居気があるのか、ファルブル侯爵はなかなか発表しない。
ドラムロールを担当している奏者が、途中、何度かリズムを崩しながらも、「まだ? まだ?」と言った具合に、何とか続けてドラムを叩いている。
ニヤリと一回笑ったファルブル侯爵が封筒の中を見た。
「最優秀賞は。フローリストガーデン・グループ料理長 オシム氏!」
えっ⁉
……。
負けた?
もう、決勝には出られない……の?
本当に?
ユーリや、母さんたち、私を応援してくれていた人達の顔が浮かぶ。
皆に何て言おう……。
「では、最優秀賞のオシムさん。こちらへどうぞ!」
料理長は右手と右足を同時に出して、カチコチになって舞台まで上がった。
「おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます」
思わず拍手していた。
……嬉しい。
本当に嬉しい。
フローリスト・ガーデンのホテルチェーンを立ち上げる時から一緒に頑張った人だ。
それも、今回、あの『リスの宿』を制しての受賞だ。勿論、嬉しい。
なのに胸の奥は、ずっと痛い。
「それでは、最優秀賞の盾をドットピース伯爵から手渡して頂いて、最後にファルブル侯爵に評価をお願いしましょう!」
ドットピース伯爵は笑いジワの浮いた顔を更に崩して、小さな木製の盾をオシム料理長へ手渡した。
ファルブル侯爵は料理長ではなく、観衆の方に向かって話し始めた。
「今回のコース料理。素晴らしい料理がたくさんありました。審査員の中でも最優秀賞については意見が大きく割れましたが、最終的にコース料理を考え出したフローリスト・ガーデンの料理長でもあり、チームの味をちゃんとまとめたオシム料理長に決定しました!」
「えっ?」
オシム料理長の口から驚いたような声が零れた。
「お嬢様!」
ナスカはコース料理をこの世に出したのが私だと知っているので、納得がいかないようだ。
盛大に眉を寄せて、身を乗り出している。
「でも、審査員は、コース料理を考え出したことだけでなく、チームの味をちゃんとまとめたところを評価しているのだから……」
「そんなの変です! お嬢様が貰うべきですっ!」
でも、舞台袖でそんな事を言っても、結果は変わらない……。
決勝に出られない。
その現実を受け入れた瞬間、胸に浮かんだのはアドリエンヌ様の笑顔だった。
ああ……もう、お会いできないかも……。
優勝して、堂々と胸を張ってお会いしたかった。
飲み込めない塊が喉の奥につかえたまま、私は舞台を見つめ続けた。




