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砂時計の砂が落ち切った。
「調理しゅーりょー!」
司会者の声が広場に響き渡った。
各調理台についているスタッフが、参加者に近づいた。
「すみません。この料理の名前は何ですか?」
ウチの台の担当がそう聞いてきたので、他の参加者にも同じ質問がされているのだろう。
答えると、調理台の上に用意された6人分の料理を、そのスタッフが広場の真ん中に置いてあったテーブルへ運ぶ。
審査員が座るであろう椅子は5脚。
それとは別に小さなテーブルが一つ用意されている。
各席の前に二組分の料理が並べられる。
さらに、観客にも見えるよう中央の展示用テーブルにも料理が置かれた。
撮影隊が椅子の無いテーブルに近寄り、それぞれのグループの料理をスクリーンに映し出す。
観客がざわめく。
「綺麗な色だぁ」
「おいしそう!」
「前菜は三種類の料理かぁ。この短い時間でよく作れたなぁ」
「香りがすごい! どれも直ぐに食べたい!」
観衆の感想は様々だ。
「それでは参加者の皆さま、こちらへお集り下さい」
調理台から離れて、司会者用のステージの前に並ぶ参加者。
スタッフの一人が近寄り、小声で「Aチームの皆さんはこちら。Bチームはこちらです。誰がどの料理を作ったか分からないようにランダムに並んで下さいね」と指示を飛ばす。
「続きまして、今回の審査員の方々にお出で願います」
司会者がそう言うと、5人の審査員が大聖堂の扉から出てきた。
貴族っぽい人が3名。料理人っぽい人が2名。
「皆様にご紹介いたします。本日の審査員は、ファルブル侯爵、サイマル子爵夫人、ドットピース伯爵、王城の料理長、そして王城の甘味料理長です」
5人がスタッフに誘導され、料理の並んだテーブルに座った。
「今回は審査員の方々に各料理の寸評をして頂きながら試食して頂き、最後に投票をして頂きます。まずはグループAの料理から」
司会の説明が終ると、審査員たちが徐にカトラリーを手に取った。
今までは覆面審査方式だったのに、今回は全員顔とその地位を晒してるけど、大丈夫なのかな?
上位貴族に後から文句とか言われそうなんだけどなぁ。
「Aチームの前菜について一言、審査員の方々にコメントしてもらいます」
クルーが拡声器を持って審査員のところへ。もちろん映像機もだ。
「あー、コホン。三種類とも違う料理でとても美味しい。特にこのパースニップのチップは、食事の初めとして食欲を湧かしてくれる」
「この肉の素焼きは単純だけど、火の入り方が絶妙ですね」
やっぱり『リスの宿』はすごい。
自分の得意な食材で着々と点数を稼いでいるように見える。
一皿ごとにコメントはある。
でも、何を一番評価しているのかは、まだ見えない。
……いや、ちょっと待って。
決勝もこの五人が審査するなら、好みを今のうちに見抜いた方が勝ちじゃないかしら?
審査員がどんな時に表情を変えるか見てないとと思っていたのに、いつの間にかぼーっと見ていたみたいで、気がついたら審査はいつの間にか、メインの料理まで進んでいた。
「網脂の包み揚げと言う料理らしいが、網脂とはこの白っぽい膜のことか?」
「丁度良い火加減! そして新しい料理法の揚げるをちゃんと取り入れているところは評価できる」
ルイージさんの評価、高い。
賄いでもありふれた食材を美味しく仕上げていた。
やっぱり腕は本物なんだ。
そして——。
いよいよ、ウチのシェフの番だ。
シュークリーム。
店で出すのより少し小さ目で、他にもトッピングが違う。
解説によると、細かく砕かれたアーモンドを生地に入れた層を上に重ねているとのこと。
歯ごたえも楽しめる一品ね。
「これは、いつものシュークリームと違いますね。砕いたアーモンドが載ったことで、香ばしさがプラスされています」
「最初、アーモンドの食感が邪魔になるかと思いましたが、いざ、口に入れるとシュークリーム自体が小さいのもあり、この歯ごたえがクリームの邪魔にならない配分になってることに驚きました」
「では、次にグループBのコース料理を召し上がって頂きましょう!」
司会者に促され、スタッフが審査員の手前の皿と奥の皿を入れ替えた。
まずは私の前菜だ!
「3皿とも全く違う味わいのものが並んでいます。野菜も肉も、魚料理まであの短時間に作ってきていることに驚きます」
「どれも美味しい! 前菜としてでなく、それぞれメインにしてもおかしくない料理です」
「酢漬けが私は一番好き。ここまでたくさんの料理を食べてきたので、胃が休まりますね」
……よし!
思わず拳を握った。
ただ、コース料理はデザートまで入れての評価なので、まだまだ安心はできない。
私から見ても、チームAのコース料理は一本筋が通った組み立てになってると思う。
前の皿と後ろの皿が喧嘩しない並びになってるのだ。
「前菜は力作だったのに、後は、美味しいかどうかと聞かれれば美味しいですが、先ほどの料理の後でこれだと、味が被ってしまいますね」
「これは普通のスープですね。お題は貴族に出すコース料理ですよ? 平民の料理ではありません」
「ありきたりの料理が多いですね」
「悪くはないんですよ、悪くは……」
ウチのチームの残りの料理は鳴かず飛ばず。
それは最初から分かっていた。
やっぱり連携が取れていない……! 私がもっとうまく指示を出せれば……。
私が男だったら、少しは違ったのかな……。
思わず知らず両手をグーに強く握ってしまった。
もう、これはチームの勝利はあり得ないと思う。
ここは、最優秀賞を取って、決勝に出るしかないと思う。
「それでは、勝利チームの発表です!」
司会者の声が無情に広場に響いた。




