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 いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。

 今回はちょっと長めになってしまいました。

 自分でも書いていてお腹が空いてしまうような料理回です。

 どうぞお腹を空かせてお楽しみください。

 結局、ベシャメルソースやミートソースまで作ってギリシャ料理のムサカにすることにした。

 だって小型のオーブンがあるわけだし……使わない手はないよね。

 一番大変なのは肉を挽くこと。現代みたいな細かいひき肉じゃなく、肉の食感が残るくらいにナスカが刻んでくれている。

「ウチの店ならお嬢様が作って下さったミンサーがあるのに……」

 なんてボヤいていたけれど、見ると結構細かく刻んでくれている。


 スズキの酢漬けは最低でも30分、できたら1時間酢だれに漬けたい。

 なので、まっさきにフリッターにする。

 揚げている間に彩とりどりの野菜を縦に細く切る。

 できるだけ長さも幅も揃える。

 酢だれに野菜を入れ、揚げた端からスズキをドボン! だ。

 冷蔵庫がない分、少しでも長く酢に漬けておきたい。

 それに熱々の時に漬けると、味が染みるんだよねぇ~。


 掃除の終わった鶏の肝臓は涼しいところへ保管したまま、続いてベシャメルソースとミートソースに取り掛かる。

 ナスカは、ミンチ肉を作りながら、その直前にオーブンに入れておいた、パテで使うかもしれないクラッカーの焼き上がりを気にしてくれ、ちょくちょくオーブンの方を見ている。

 その間私は、ミートソース用に玉ねぎやニンニク、ピーマン、人参、セロリをみじん切りにしながら、火にはベシャメルソースをかけている。

 ミートソースには苦みのあるピーマンと、肉の臭みを抑えるセロリ、そしてトマトの酸味を和らげるにんじんを毎回入れることにしている。今回もだ。

 細かく刻んであるし、そんなに大量に入っているわけでもないのだが、この三つが入るのとそうでないのではミートソースの味の奥行が変わってしまうと私は思っているのだ。

 カレーにインスタントコーヒーをほんの少し混ぜるのと一緒のことだよね。

 ベシャメルソースは火から目が離せない。でも、みじん切りくらいなら料理魔法のお陰かとても早く刻めるのだ。


 それが終るとすぐにミートソース。

 ミンチ肉の仕度が終わったナスカは、茄子とトマトを切ったり、それをフライパンで焼いてくれる。

 それを横目にパイ型の中に、それらを全部綺麗な層になる様に重ねていき、最後にナスカにチーズを削ってもらったのを振り掛け、後は提供時間を逆算してオーブンへ入れれば良いだけだ。

 調理開始から40分。砂時計だから時間は多少前後する。30分前より少し早めにオーブンへ入れておくことにした。


 いよいよパテ作りだ。

 みじん切りしたニンニクや玉ねぎをバターやオリーブオイルで炒めてから1cm角に切った肝臓を入れて火を通す。

 ナスカはこれをすり鉢でパテになるまで摺らなくてはならない。だから少しでも楽になるよう、肝臓は1cm角まで細かく切っておいた。

 でも、炒める工程がある。それ以上小さく切り過ぎるとパサパサになってしまうのでは? と決めた大きさが1cm角。これが吉と出るか凶と出るか……。


 その甲斐あってナスカの作業がぐんぐん進む。

 ナスカが摺ったパテは滑らかで、それでいてしっとりしていた。

 よし、一センチ角で正解だった。

 今度は出来上がったパテの上に、粗熱を取った溶かしバターを薄く延ばす。


「お嬢様? 何故バターを?」

「ん? ああ、ナスカ。あのね、これからこれを冷やすんだけれど、冷たくするよりも傷み辛くしたいから、表面に膜……空気……」

 この世界にはまだ和製漢語にあたる言葉が少ない。

 説明しようとするといつも語彙の壁にぶち当たる。

 あややクラブの時にも何度もそんなことがあったけど、あの時はみんなが子供だったから、知らない単語があるのは当たり前って雰囲気だったのよね。

 だから遠慮なく新しい言葉として和製漢語も使い、説明してきたんだけれど、今ナスカに説明するのがこんなに難しいとは……。

「肉は風に当たると傷みが早いのよ。だからバターでぴたりと覆ってやるの」

「なるほど! そういう理屈だったんですか。ウチでは冷蔵庫も冷凍庫もあるから、考えてもみませんでしたよ」

「そうね。濡れ布巾を被せて冷蔵庫で保管するのと同じことなのよ」

「なるほど!」

 ナスカも納得してくれたようだ。

 次は、このレバーを冷やしたい。


「ナスカ」

「はい」

「素焼きの蓋付きの入れ物と大きな布を探してきて。で、見つかったら急いで井戸の冷たい水を汲んできて」

「分かりました!」


 ナスカが道具探しに走っていってくれている間に、皿の用意をする。

 今回はムサカは温かく、スズキの酢漬けやパテは冷たい状態で提供したい。

 皿は3つの深皿が横に繋がった物なので、鍋に湯を沸かし、端の一つだけ温める必要がありそうだ。


 そんな事を考えながら段取りをしていたら、ナスカが素焼きの入れ物と井戸の水を持ってきてくれた。

 そう、気化熱を利用してパテを冷ますのだ。

 丁度粗熱のとれたパテを井戸水で外側を濡らした素焼きの入れ物に入れ、蓋をしてから、これまた井戸水で濡らした布を巻きつける。

 涼しい場所に置いておけば、これならきっと冷える!


 もう一度、自軍の調理台を視察することにした。

 野菜は根野菜を蒸したものに、塩と胡椒、オイルを混ぜたソースっぽい物を添えようとしているみたい。

 皿の上にどう並べれば綺麗かを一所懸命考えながら、人参やカボチャなどの位置をあれこれと変えている。


 スープは普通のスープっぽい。

 色は茶色系だが、普通に肉と野菜を煮たものの色だ。


 肉は、やっぱりパイなのだろう。

 まだオーブンから取り出されてはいないけれど、パイ生地の切れ端が調理台の上に転がっている。


 デザートはフルーツのカービングの様だ。

 これもウチのレストランから始まった文化なんだよね。

 りんごの周りにさくらんぼとベリー系を彩りよく並べようと四苦八苦しているみたい。


 私は自分の調理台に戻るなり、3連の深鉢の一つだけがお湯に漬かる様に調整してあたため始めた。

 用意しなければならないのは5皿分。でも、何かの時のために7皿、温めている。

 素早くムサカをカットし温めた深皿に乗せる。

 真ん中にはスズキのフリッターを酢漬けにしたものに、野菜をその種類や数が同じになるように飾り付けた。

 素焼きの入れ物から取り出したパテはまだ少し温かいが、充分に冷やされたと思う。

 バターの層を取り除き、パテをムサカと同じ大きさに切る。


「あっ!」

 パリン!

 クラッカーの準備をしていたナスカがクラッカーを割ってしまった。

「ちょっと見せて」

 ナスカが差し出したのは、縦に半分になってしまったクラッカー3枚。

 予備は無い。

 もちろん新たに焼くのは論外。

 クラッカーは縦に割れただけ……。


「ナスカ! 包丁と布巾で、この大きさに合わせて全部のクラッカーを縦に切ってちょうだい」

「え? はいっ」

「布で包んで、刃じゃなくて背でね」

 言いながら見本をやってみせる。

「全部のクラッカーをこの大きさにね。失敗は気にしないで、落ち着いてやってね。これでダメならクラッカーは無しで出しても問題ないから」

「はいっ!」

 多少失敗しても、割れたことで枚数は増えているので、綺麗に割れたのだけを選んで皿に載せればいい。

 ナスカは最初慌てた様だったけど、何とか落ち着いて作業してくれている。

 パテの上に斜めにクラッカーを刺してみると、最初の大きさのままより上品な感じに仕上がっている。

 ……うん。最初の案より、こっちの方が好きかもしれない。


 焼き上がったチーズの香りと、甘酸っぱい酢の香り。それにパテの滑らかな表面を見ると、思わず自分でもお腹が鳴りそうになる。


 全部で5人前が調理台に並んだ時、「時間です!」と言う司会者の声で手を止め、両手を肩の位置にまで上げる。

 終了時間以降は何もしていませんよのアピールだ。


 大会のスタッフが5人前の料理を大聖堂の中まで運ぶ。

 いよいよ審査だ!

 もう一つのグループはどんなコースを作ったのだろう?

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