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ほとんど取っ組み合いになりそうな勢いで4人の料理人が喧々囂々と担当決めをしている。
「だから、順位がどうのじゃなく、あんたたち、貴族に料理を出したことがあるのかい?」
ハリアット子爵家の料理長がそう言うと、『ゴンスンデの古宿』も『双頭の鷲亭』も黙った。
リスボア男爵家の料理長は何も言わない。
でも明らかにハリアット子爵家の料理長側に立っている。
これはあれだ。
自分にも都合の良いことを率先して言ってくれているハリアット子爵家料理長を上手く盾にしているの図だ。
「俺とリスボアん所の料理長とで、メインディッシュとデザートを担当する!」
「「そんな横暴なっ‼」」
「その二つが一番難しい。だが、俺たちのは毎日貴族に出している料理だから問題ない。グループが勝てば全員が次のステージへ行けるんだぞ。ちょっとは頭を働かせろよ!」
ハリアット子爵家の料理長が言うのも一理ある。
田舎の宿屋の料理は、その殆どがスープベースだ。
恐らくそれに気付いたのだろう、『双頭の鷲亭』が突然宣言した。
「なら、ウチはスープを担当するっす!」
「なっ!」
『ゴンスンデの古宿』は、先に宣言されてしまい慌てている。
「そうそう、お互い得意とする料理があるんだから、それを考慮して決めるのが勝利への早道さ」
ハリアット子爵家の料理長が悦に入った顔で言うと、残りの選択肢はサラダとアミューズしかないことに気が付いた『ゴンスンデの古宿』が悩み始めた。
「なぁ、前菜って複数の料理を作らないといけないんか?」
悔しそうな顔をしながらも当たりそうな料理の内容を確認してきた。
「ああ。最低でも3種類。でも、サラダなら火を通しても通さなくても野菜中心の一皿で良い」
ハリアット子爵家料理長の言うことは正しいが、彼らだってコース料理なんて普段作っていないはずだ。
貴族料理は一度に色んな料理をテーブルに並べるのがこの国の習慣だ。
豪華に見えるようにということらしい。
コース料理を出していた貴族家もあったかもしれないが、今回の5皿で形成されたコース料理は、私がウチのグループ店で提供しているのが始まりの、地球文化を持ち込んだスタイルなのだ。
「……なら……ウチはサラダにするさね……。野菜が主なら煮ても焼いてもいい。だな?」
「ああ」
結局、ハリアット子爵家料理長が全部仕切って分担が決まってしまった。
前菜 私
スープ 双頭の鷲亭
サラダ ゴンスンデの古宿
メイン ハリアット子爵家
デザート リスボア男爵家
私からするとサラダとデザートが厳しいように思える。
サラダが何なのか知らない『ゴンスンデの古宿』だと、何を作るか予想が付かないのと、『リスボア男爵家』で出しているデザートがどれほどのものなのか分からないからだ。
砂糖たっぷりのただ甘いだけの何かを提供されると、最後に口に入れる料理で印象が決まるコース料理では不利なのだ。
「じゃあ、それぞれ調理台に戻って担当の料理を作ろう!」
ハリアット子爵家料理長がそう言うけど、ちょっと待って!
それぞれがどんな料理を作るのか情報共有しないと、どんな料理を作って良いか分からないじゃん?
でも、みんなはそんなこと気にしていないみたい。
それ以前に私は女だからか、若いからか、半分無視されてるみたいだけどね。
「あのぉ……」
思い切って声を上げる。
「なんだ? もう担当は決まったんだ。変えないぞ」
ハリアット子爵家料理長は一番目立つメインを取られてなるものかといった形相で噛みつくように答えた。
「いえ、担当についてどうこうじゃないんです。お互いが作る料理を知らないと、味の流れがバラバラになりませんか?」
「味がバラバラ?」
「ええ。塩辛い料理の後に、また塩辛いのが来ると、食べる側は味が単調に思えると思うんです」
「はぁ? 塩以外に何で味付けするつもりなんだ?」
うわぁ。ソースとか作らないタイプの料理人なの? この人。
「ちょぴり辛めの味とか、ソースの相性とか……」
「自分が作れる最高の料理を出せばいいんだ。時間がないんだ。みんな調理を始めてくれ」
ハリアット子爵家料理長は物事を深く考えないタイプらしい。
これはダメだ……。
せめてメインとスープがどんな料理になるのか確かめてからアミューズを作るしかない。
最低でも3種類の料理を作らないといけないのに、その確認のために時間を取られるのは痛い!
……そうだ!
汎用性の高い食材を先に確保しておいて、メインとスープ担当が食材や調味料を取ってきたのを見て、自分の料理の調味料を選択すればいいんじゃない?
要は味付けだけ変えれば良いのだ。
なら……味の主張が激しくない食材だけを取ってくれば良いかぁ……。
さて、何にするか……。
「ナスカ、食材を取りに行くから、籠を持ってついてきて」
「はい! お嬢様」
参加している組が10組に減り、食材が置いてあるテントの中も前回の競技程押し合い圧し合いはしていない。
アスパラガスをはじめ、旬の野菜が目に入る。その横には様々な肉が。
ここは、野菜、肉、魚、どれも使って、私の調理の腕を審査員に見てもらわなければ!
まずは内陸なので種類の少ない魚のコーナーへ。
「すみません。そこのスズキを一匹お願いします」
スタッフの手が、一番近いところに並べられていたスズキに伸びた。
「いえ、こっちのをお願い」
黒目の輪郭がはっきりとし、身も引きしまって良そうなこっち側のスズキを指差した。
魚は鮮度が命!
さぁ、作るそぉぉ!




