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昨日、『リスの宿』の二人がウチの『フローリストガーデン 光』を見学し、色んな料理を味見して帰った。
「無理矢理捻じ込んだのに、受入てくれてありがとうよ。ここは、料理人の憧れの店だ。そこの味を知る事ができて、本当にありがたい。……でも、明日の勝負では手加減しないよ」
私は答えずにっこりと笑った。
勇ましい言葉を発するのは私のやり方ではない。
でも、余裕の笑みくらいは浮かべないとね!
「まぁ、なんだ。本当にありがとう。じゃあ、また明日」
「はい。また明日」
そう言って見送った広い背中。
それが今、この大聖堂広場の中、2つ先の調理台に立っている。
後から入って来たこちらを見て、無言で頷いている。
こちらも同じ方法で挨拶を返す。
広場には既に聴衆が大勢集まっている。
参加者はとうとう10組になっている。
しかし、今回はどこの調理場が割り当てられているのか分からなかった。
先に来ていた組が立っていない調理台の後ろに立ったのだ。
しばらくすると、観客から歓声が上がった。
この前と同じ、女性の司会者が大聖堂の扉から出てきて、いつもの司会者用の舞台に上がった。
「おはようございまーす! いよいよ今回が準決勝です」
え?10組で準決勝? 数が絞り切れていないのでは?
そんな風に訝しんでいる間も、司会者の話は続いていた。
「今回は10組を2グループに分けます。前回の試験の1位、4位、5位、8位と9位はグループA。残りがグループB。そして今回のテーマは『貴族に出すコース料理』!」
「グループに分けるってどういうことだ?」
「一気に5組脱落するってことか?」
「コース料理……?」
「なんだそりゃ?」
観客席から困惑が漏れた。
聴衆も、今回の対戦ルールに戸惑っている様だ。
「今回の対戦、グループに分けたのには意味がありますっ!」
女性司会者の声に、会場がシーンとなった。
「コース料理というのは、『フローリストガーデン 光』が始めた料理の提供方法で、まず、前菜。そしてスープ、サラダ、メインディッシュそしてデザートの順に提供される5品で構成されます」
当然、聴衆の殆どを占める中級や貧しい平民層では何のことか分からないだろう。
下手をすると、今回の10組の中にも知らない料理人はいるだろう。
「前菜とは! お客がこれから出される料理を早く食べたくなる様に、食欲を呼び覚ます小皿料理のことです」
「「「「おおおお」」」」
「スープは言わずもがなですね。サラダは野菜を主にした料理になります。生でも火を通してもOK!」
「野菜だけの料理なのけ?」
「え? 野菜だけで美味しくできるのかなぁ?」
聴衆の殆どが考えている野菜料理とは恐らく平民が慣れ親しんでいる根菜や豆だろうが、サラダは生野菜などが主なのだ。でも、聴衆にはそれが伝わっていなさそうだ。
これもウチの店が発祥と言って差し支えないと思う。
ただ、そこら辺の葉物野菜はちゃんとした肥料で育ててない可能性があるので、私はウチの契約農園でウチのルールで育てた葉物野菜しか使わないけどね。
イベント関係者にそこら辺が分かっているといいんだけど……。
「そして、メインディッシュは魚か肉の主となる料理。最後が甘い料理です。各グループでどの調理人が何の料理を担当するのか話し合って決めて下さい」
空気が変わった。
参加者たちの顔が、一斉に険しくなる。
当然だ。
目立つメインをやりたがる料理人は多い。
或いは、自分が得意な料理、恐らく貴族家所属の料理人以外はスープを選びたいはずだ。
特定の料理に立候補者が殺到するはずだ。揉めないと良いけど……。
しかも今回は、“個人戦”じゃない。
足を引っ張る仲間を引けば、それだけで負ける。
「続いて勝利条件です!」
司会者が声を張り上げる。
「審査員は七名! 両グループのコース料理を食べ比べ、勝敗を決定します!」
女性司会者は参加者の顔を一人一人見た。
「さらに! この10組の中で一番を決めます。最優秀の参加者はどちらのグループであっても決勝に参加できます!!」
「なんだって!?」
「……という事は、負けても決勝に行ける可能性もあるのか!?」
司会者は満足そうに頷いた。
「グループ戦では、相性の悪い相手と組まされる可能性があります! そのため今回は、純粋な実力評価として“最優秀者”枠を用意しました!」
なるほど。
「相性の悪いチームと組むってどういうこと?」
「あぁ、儂にも分からん」
「どのチームと組むかは、最初に決められているからかぁ」
「そうか!」
聴衆の言っていることももっともだ。
全てのチームメンバーがグループに協力的とは限らないもの。
「それではこれより十分間、グループ毎の作戦会議を開始してください!」
司会者が小さな砂時計を掲げる。
「砂が落ち切った時点で担当決定! その後、調理時間は一時間半! 後方の大砂時計が終了の合図です!」
まずはグループのメンバーで話し合わないとと移動を開始する参加者を横目に、女性司会者は更にルールについて話している。
「食材は広場の反対側のテントの中のものを使ってください。調味料はいつもの台です。それでははじめー! 検討を祈ります」
ウチのチームは2番の私、後、3番、6番、7番そして10番。
5位のフローリストガーデングループと4位のモンテベルデ伯爵家料理長、つまりルイージさんは、『リスの宿』グループだ。
「では、グループになってどの料理を担当するか話し合ってください」
女性司会者の声に合わせて『ゴンスンデの古宿』、7位だった『ハリアット子爵家』の料理長、『リスボア男爵家』の料理長、王都の知る人ぞ知るって私は知らなかったんだけど……有名な店らしい『双頭の鷲亭』がウチのチームの様だ。
「失礼だが、あんたたちゃ貴族の料理を知らないだろうから、俺とリスボア男爵んところの料理長で仕切らせてもらうよ」
でっぷり太ったハリアット子爵家の料理長がいきなり宣言した。
「それは横暴だ!」
『双頭の鷲亭』が顔を真っ赤にして抗議している。
「何言ってるんだ。こっちの方があんたたちより順位は上だ」
しかし、ハリアット子爵家の料理長は歯牙にもかけていない。
見事に私以外は全員男性で、年上。
口を挟む気にもなれない。
だって、この国男尊女卑だもんね……。特に貴族周りはね。
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