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今日の空も綺麗だ。
舞台には調理台は設置されていても、天幕ひとつない。参加者は、直射日光を受けることになる。
でも、爽やかな風が吹いているので、不思議と暑さは気にならない。
頬を撫でる風が、ほんの少しだけ現実を遠ざけてくれる。
大会日和だね。
いよいよ『リスの宿』の結果発表だ。
自分はもう勝ち残りが決まっている。大分心に余裕があるけれど、『リスの宿』は侮れないから、どうしても結果を聞きたい。
「『リスの宿』の食材はぁぁぁ、紫キャベツ、紫玉ねぎ、レタス、鮭とアーモンドだぁぁぁ。完成した料理はぁぁぁ、鮭のレタス包み。焼いた紫キャベツと紫玉ねぎを焼いた鮭の上に散らし、その上にローストしたアーモンド、それを全部レタスで包んだ色彩と食感の競演だ」
スクリーンには紫が目を引き、アーモンドスライスが美味しそうにちらされている皿が映し出されている。
視覚に訴える料理だ。
彼女のことだから味にも細心の注意を払っているはず。
「得点はぁぁ、10点! 満点だぁぁ。第一試合でも満点を取った化け物だ!」
もちろん、デュエルの相手にも勝っていた。
今日も10点ではないかと固唾を呑んでいたのだけれど、想像していた通りだ。
彼女とは最後まで競い合うことになりそうだ。
――想定より、ずっと厄介だ。
『リスの宿』の料理人が一瞬こちらを鋭い目で見た!
一瞬だけ、空気が張り詰めた。
逸らしたのはどちらか分からない。
私としては順調に勝ち進めれば、ウチの『フローリストガーデン』の本店料理長との一騎打ちになるかもなんて思っていたけれど、他にもスゴイ料理人はいたんだねぇ。
モンテベルデ伯爵家のルイージさんも出場していて、二人とも第一試合は勝ち残っていた。
第二試合は別の広場なので結果はまだ分からないけど、たぶん二人とも高得点で勝ち残っているはずだ。
明日は1日お休みで、明後日から第三試合以降が開始されるけれど、まだまだ勝ち残りの参加者が多い。
いつの時点でごっそりと参加者を落とすのか、予測が付かない。
まぁ、取り敢えず今日も勝てたので、心配して待っててくれているユーリや母さんたちに報告だね。
今日も『フローリストガーデン光』に寄って、両親に報告して、ユーリと腕を組んで歩きで家へ向かう。
「なぁ、お前、何時、アドリエンヌに会えるんだ?」
ユーリは貴族だった時から、アドリエンヌ様の名前を出す時に敬称を付けたことがない。
元婚約者ってこともあり、私もそこら辺を指摘するのが憚れる。
ここは、大人な私がスルースキルを発動する場面だね。
「そうなんだよね。私も早くお会いしたいんだけれど、こちらから要請するわけにもいかず……。決勝戦まで残れば、試合前には会って貰えるんじゃないかなと思ってるの」
「なら、勝ち残らないとな」
「うん」
貴族街の方を通っているから石畳の道になり、カツーンカツーンと靴音が響く。
人通りなどなく、時折馬車が横を通る。
「第何試合まであるのかしら? 最初の話だと第三試合までみたいなこと言ってなかった?」
「無理だろ。王都だけじゃなく、国中からの参加を許可したから参加者が多すぎる」
「あら、新聞王なんだから、そういう情報もしっかり入っているんじゃないの?」
ユーリはクスっと笑った。
「後3試合。こういうのはイベントの途中でも変えられるから、今入手している情報が役に立つとは限らないぞ。それに試合方法までは情報が取れてないからな」
「恐らく、途中からは採点方式とか団体戦とかにして試合回数を絞ってくる気がするのよね」
「このイベントさぁ」
「うん」
「ペペんところが運営しているからさぁ、これまでの対戦方法がお前の考えているものに似てるだろう?」
「っ!」
言われてみればそうだ。
そう言えば、あややクラブの皆と飲んでいる時も、どんな試合方法があるかなんて話し合ったこともあった。
もしや……。
「くすっ。漸く気付いた?」
「フェリーペね?」
ユーリが無言で頷く。
フェリーペがペペに頼まれて、どんな試合方法があるか探っていたのだろう。
う~む。
なら、試合方法について、一気に予測を立てやすくなってきた。
でも、使われる食材なんかは分からない。
旬。流通。頭の中でいくつかの候補が浮かんでは消える。
「でもさぁ、お前がペペの考えそうなことが分かるように、向こうもお前の発想は予想してるだろうから、何か仕掛けてくるかもだな」
そう言われて、一瞬息が詰まった。
その可能性はある……、いや、高い。
もっと気を引き締めてかからないと……。
そんなことを思いながらホテルの門前まで来ていた。
「なぁ、偶にはホテルで食事してみないか?」
「え?」
「昨日も今日も緊張する中、料理したんだから、今夜くらいは楽したらどう? それとも予約でいっぱいかな?」
「席がないなら、空いている会議室でも大丈夫だけど……」
「ここのところデートしていないから、デートと洒落込むかぁ」
ちょっぴり顔が赤くなった気がして、絡めていた腕を解き、両手で頬をおさえた。
「お家ご飯も美味しいから大好きだけど、たまには雰囲気を変えよう。それに、ここの料理長とも、いずれ戦う事になるだろうし……敵情視察だな」
「うっ! 自分の店なのに……」
「あははは」
料理大会が続く内は、どうしても思考がそれに引っ張られる。
本当はウチの王都店だけじゃなく、『リスの宿』でも客として食べてみたいと思う。
まぁ、料理長が王都に居るから、店は閉まっているんだろうけど……。
彼女を侮ってはいけない気がする。
――まだ、何かある。
考えすぎ、だと思う。
――それでも。
何かが少しだけ噛み合っていない気がした。




