彼のおねがい
現在不定期で連載中の「席替え*honey」のちょっと未来の話です。
「島崎くん」
彼女は俺を呼ぶとき、いまだに少しだけ顔を赤らめる。それはとても可愛いんだけど、つきあって1年半くらいになるというのに、いつになったら俺のことを下の名前で呼んでくれるのだろうか。
同じクラスなのに話したこともない彼女とのきっかけは席替えで隣になったこと。最初は自分の声に対する彼女の反応が楽しかっただけ。
でも恥ずかしがり屋で素直な性格、親友の村上さんと話しているときや合唱部で楽しそうに歌っている姿を見ているうちにいつの間にか好きになっていた。
彼女は系列の大学、俺はちょっと離れた国立大学でしょっちゅう顔を見ることはできないけど俺たちは仲良くやっている。
彼女との待ち合わせ場所に行く前に、俺はコンビニに立ち寄ってとある商品を購入した。いつも売り切れで買えたためしがない・・・と彼女がぼやいていた“君想いマカロン”。
薄い水色で半透明の包装紙にシルバーのリボンがななめに結ばれているこの商品は、キャッチコピーがまた話題になったんだ。確か“君に会いたい……だから君を想う”。
これをテレビで見たらしい彼女が、ちょっと距離が離れてる二人にぴったりだと楽しそうに話していた。まるで私たちみたいとも言ってたけど、あれは絶対無自覚だ。
だけど俺をあおってる?と言おうものなら、もう二度と言ってくれなさそうなのでそのへんは黙っておく。
今日はぽかぽかとした陽気なのもあって、俺たちは映画を見たあと公園のベンチでのんびりすることにした。
「沙和、これ食べたがってたでしょ」
袋から“君想いマカロン”を取り出して彼女に渡す。
「えっ!!わあ・・・ありがとう島崎くん。これどこ行っても売切れなのに・・・すごい」
「タイミングがよかったんじゃないかな。沙和、箱を開けてみたら?」
「うん」
リボンをほどき、箱を開ける彼女の顔はとても嬉しそう。中にはパステルカラーの丸いマカロンが6個。
「かわいい・・・」
「ここで1個食べてみたら?」
「え。でも・・・」
彼女が戸惑ってる間に、俺は薄いピンクのマカロンを一つ指でつまんで彼女の口元へ。
「はい、あーん」
「えっ、ししし島崎くん?!」
「俺が食べさせてあげるよ。ほら口を開けて?」
「い、いやいやいや。自分で食べるから」
あわてて拒否をする彼女に対して、ふといたずら心が浮かぶ。これっていい機会じゃないか?
「そんなに俺に食べさせてもらうのはいや?」
「え、えっと・・・外では恥ずかしい、よ」
「なるほど。じゃあ、ひとつ俺のお願いを聞いてくれたら外で沙和が恥ずかしがることはしないよ」
「ほんと?じゃ、じゃあ“お願い”を聞くよ・・・聞けるやつだったら」
「言ったね?じゃあ、これからは俺のことを下の名前で呼ぶって約束して」
「うぇえっ?!し、下の名前?!」
「俺はいつまで“島崎くん”なの?少し寂しいんだけど」
すかさず耳元でささやくと、たちまち真っ赤になる彼女。こういうところ高校生の頃と変わらない
彼女は顔に手をあてて耳元でささやくのは反則だよ・・・と小さい声で言ってるけど、俺は聞こえないフリをした。
小さな声で彼女がつぶやいた。
「・・・・くん」
「ん?なんていったの沙和」
「ゆ、悠くん・・・」
「はい、よくできました。じゃあご褒美」
すかさず彼女にキスをする。
「・・・・外では恥ずかしいことしないって言ったのに!!」
「ご褒美は別でしょ?ほら、ついでに」
「なっ・・・んぐ」
彼女の口にマカロンを食べさせる。真っ赤になりながらもマカロンをもぐもぐと食べている彼女は本当に可愛い。
「マカロン美味しい?」
「・・・うん。でも島崎くん!!」
「下の名前で呼ぶって約束だよね?」
「・・・うっ・・・・島・・・悠くん」
今はまだ慣れないみたいだけど、そのうちもっと馴染んで“ゆうくん”と柔らかく呼んでくれるだろう。そのあたりの忍耐力は高校時代で培われている。
俺って本当、彼女に対しては気が長いかもしれない。
「今度は俺の部屋でのんびり過ごそうね」
「島・・・悠くんの部屋?」
「そう。楽しみだね」
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