そして彼女が知らぬ間に
とある芸能事務所の事務員の話。
知らぬ間に逆ハー成立。
私の名前は小杉佳野子。現在、24歳で大手芸能事務所の事務員として働いている。もともと学生時代に教授から紹介されたバイト先で、ラッキーなことにそのまま正社員として働くことになった。
うちの事務所は男性アイドルが多数所属していることで有名だ。特に最近は「初恋ショコラ」のCMが大反響を呼び、「クリスマス限定初恋ショコラ」を経て、現在は「君想いショコラ」「君想いマカロン」のCMがまたも話題をさらっている。
事務所の壁にはアイドルグループやユニットたちのコンビニスイーツ関連のポスターが貼られ、ファンには嬉しいかもしれない。
学生時代の友人は「佳野子の職場は潤いがいっぱいで羨ましい」などというが、私からすれば毎日毎日おせち料理かフルコースを食べてる気分で、潤いどころか見慣れすぎてどうでもよくなっている。
だけど、こんな私のぼやきを分かってくれるのは職場の同僚だけだ。
「かーのこちゃん。ひさしぶりっ・・・・うぐっ」
どうやら私のひじが見事におなかにヒットしたらしい。
「なにすんだよお。俺、アイドルなんだけど~」
「アイドルだからってセクハラが許されるわけないでしょう」
おなかを押さえながら若干涙目でこちらをじっと見つめる男性に私は冷静な対応をする。
「ひどい・・・親愛のハグをしたかっただけなのにいいい」
「そんなのいりませんよ。それにしてもオフィスのほうに顔出すなんて珍しいですね」
「うん。仕事が予定より早く終わったから明日の細かい打合せを会議室ですることになってさあ。あとから他のメンバーも来るよ」
この人は初恋ショコラに出演したアイドルグループの先輩に当たる人で、「クリスマス限定ショコラ」のときには先輩ユニットの一人として出演している。所属アイドルのなかでは「皆のお兄ちゃん」的キャラで後輩の面倒見もよくて慕われてるんだけど、隙あらば私にハグをしようとするのが困りものだ。
彼及びユニットを組んでいる残り3人も私がここでバイトを始めたころに事務所でレッスンを始め、年齢も近くほとんど同期みたいなものだ。
でも私が常に4人には敬語で接しているのが彼らには不満らしく、事務所に来ると必ずちょっかいをだして行く。
「さっさと会議室で待ってたらどうです。ここで油売ってないで」
「マネージャーが呼びに来るからいいよ。俺、かのこちゃんにいいもんあげようと思ってさ」
「いいもん、ですか」
「そう!じゃーん“君想いマカロン”!!」
彼がカバンから取り出したのは、発売中の“君想いマカロン”だった。
「かのこちゃん、マカロン好きだろ?これさー、撮影用だからハート型ばっかりなんだ。出演してる後輩にもらったんだけどレアでしょ?」
確かハート型はランダムに入っているため見つけるのは相当大変だと聞いている。そのおかげでこのマカロンはすごく売れてるのよね。
「俺、何個も食べておなかいっぱいなんだよ。かのこちゃん残りで悪いけど食べてくれない?」
「はあ・・・それでしたらいただきます」
ちょうどいい。今日は残業確定だからおやつに食べよう。私は彼からありがたくマカロンを受け取った。
私がお礼を言って受け取ると、なぜか彼は「よしよし。俺が一番乗りだね」と変なことを言い残し会議室に消えていった。・・・・なんなんだ、あれは。
「かのこ。マカロン好きだろ?これやる」
「かのこ。私からのマカロンをありがたく思えよ」
「かのこ、これ食べきれないからあげるよ」
えっと・・・・私の机の上にはレアといわれるハート型しか入ってない撮影用の“君想いマカロン”が4袋。同僚が「すごいねー。小杉さん」と苦笑いしている。
あれから到着したユニットのメンバーが次から次へと人のところに“君想いマカロン”を置いていく。私はあなたたちの残り物を食べる係ですか・・・まあ、マカロンに罪はないから美味しくいただくけどさ。せっかくだから今いる人たちに配ろう。
私はマカロンの袋を手に持つと席を立った。
(その頃の会議室/雑談中)
「なんだ、おまえたちもかのこちゃんにマカロンあげたのかよ。まあ、俺は一番乗りだったけどね」
「ふん、たまたまだろう」
「“君に会いたい……だから君を想う”・・・あいつ俺らがあげた意味分かってるのかな」
「抜け駆けはしないって約束だからね?分かってると思うけど」
「無表情で怒るなよ~、こわいぞ。だけどハグをしたことある俺が有利だと思わない?」
「「「思わない」」」
果たして、彼女は誰かと恋に落ちるのか?
-それはもうすこし年月を経てみないと分からない。




