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【完結保証】女神の愛し子はだぁれ?  作者: 月瀬小春
第一章 転生した少女の話

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⑦


 それからというもの、ロザリアの矛先はリリアーナだけではなくなった。


「セドリック・ハートフォード侯爵令息。貴方、婚約者の方にきちんと時間を使っていらっしゃるの?」

「え……」

「ルーカス・ウォルターズ伯爵令息も、ルシアン・クロフォード伯爵令息もですわ。聖女様のお世話をすることに熱心なのは結構ですけれど、ご自分の婚約者を蔑ろにしてよい理由にはなりませんでしょう?」

「俺たちは別に……」

「別に、何ですの?」


 ロザリアの冷たい視線に、ルーカスが口を噤む。以前はリリアーナに向けられていた苦言が、今では四人にも向けられるようになっていた。

 そして、その度に四人はアレクシスのもとへ集まった。


「殿下、聞いてください!」

「またロザリア様に言われたんです」

「リリアーナだけならまだしも、最近は僕たちにまで……」

「俺たちは何も悪いことなんてしてないのに!」


 四人が口々に訴える。

 その隣では、リリアーナも不満そうに頷いていた。


「そうなんです。ロザリア様、最近すごく怖くて……」

「…………」


 アレクシスは四人とリリアーナを眺めた。


「それで?」

「え?」

「彼女は、何か間違ったことを言ったのか?」

「…………」


 四人が揃って黙る。そんな四人にアレクシスは小さく息を吐いた。


「以前にも言ったと思うが、ロザリアが君たちの行動を快く思わないのは当然だろう。エドワードを除き、セドリックたちは皆、婚約者がいるのだから」

「でも……」

「それに、ベルナール嬢」

「はい!」

「君も以前から何度も注意されているはずだ。私の婚約者であるロザリアが、婚約者に近付きすぎる女性を警戒すること自体は、何もおかしくない」

「…………」


 リリアーナはしょんぼりと俯く。内心では不満でいっぱいだった。どうしてアレクシスは自分の味方をしてくれないのだろう。何か失敗して、せっかく上げた好感度が下がってしまったのだろうか。

 四人も不満そうな顔をしている。アレクシスはそんな彼らを見て、また一つ息を吐いた。

 さらにアレクシスが口を開きかけた、その時だった。


「殿下」


 傍に控えていた侍従が静かに声を掛ける。


「何だ?」

「先ほど皇女宮から知らせがございました」


 アレクシスの表情が変わる。


「アリアンヌが?」

「はい。少々お加減が優れないとのことです」

「そうか、分かった」


 アレクシスはすぐに立ち上がった。


「アレクシス様?」


 リリアーナは驚いたように顔を上げる。


「すまないが、私はこれで失礼する」

「え、あの……。ど、どこに行くんですか?」

「アリアンヌの様子を見に行く」


 それだけ告げると、アレクシスは侍従を伴って歩き出した。


「殿下!?」


 ルーカスが慌てて声を掛ける。

 しかし、アレクシスは振り返ることなく、さっさと帰宅してしまった。


「……行っちゃった」

「皇女殿下のこととなると、本当に早いな……」

「まあ……。殿下にとって、妹君は大切な方ですから」


 エドワードが苦笑する。

 その横で、リリアーナはぽつりと呟いた。


「……アレクシス様、私のことより皇女殿下の方が大事なのかな」

「それは当然でしょう」


 思わずセドリックが答えた。その返答に内心むっとする。


「妹君ですからね」

「…………」


 リリアーナは納得できない顔をする。妹より自分を優先してくれてもいいではないか。その思いが顔に出てしまったけれど、四人はそれ以上何も言わなかった。

 それから、こういったことが頻繁に起きるようになった。

 リリアーナたちが何を訴えても取り合わない。アレクシスは妹の体調が少しでも悪いと聞いただけで、あっさりと学園を後にする。

 残された五人は、その背中を見送ることしか出来なかった。



 ◇



 そんなある日のことだった。

 学園内で、ある噂が流れ始めた。


 ――聖女リリアーナ・ベルナールは、男好きの阿婆擦れらしい。


 ――皇太子殿下に付きまとっているだけでは飽き足らず、側近候補たちまで侍らせている。


 ――婚約者のいる男たちにまで手を出しているのだとか。


 それは瞬く間に学園中へ広がっていった。


「なんだよ、あの噂!」


 ルーカスが怒りを露わにする。


「リリアーナがそんなことをするわけないだろ!」

「ええ。あまりにも悪質です」


 エドワードも険しい顔をしている。


「誰がこんな噂を流したのか、突き止めるべきでしょう」

「僕もそう思う」


 セドリックの言葉にルシアンが頷く。


「リリアーナが何をしたっていうんだよ!」

「……まあ、実際に殿下や僕たちのところへ来る頻度は多いですが」


 セドリックが冷静に指摘すると、三人から睨まれた。


「セドリック!」

「すみません」


 素直に謝りながらも、セドリックは考え込む。


「ですが、だからといってこのような噂を流される理由にはなりません。誰がこのようなことを言い始めたのか、調べてみましょう」

「よし!」


 ルーカスが拳を握る。


「絶対に犯人を見つけてやる!」


 四人は怒りに燃えていた。

 アレクシスにも相談したが、彼は「そうか」と告げるだけで、対処するとは言わなかった。どうしてかと問えば、噂は噂でしかないと、答えになっていない返答をする。そのため、四人が調査してくれることになったのだ。

 いつまで経っても完全な味方になってくれないアレクシスに、リリアーナは少し苛ついた。

 そんな中、リリアーナは気分転換も兼ねて、教会で奉仕活動をすることになった。

 向かった先は、教会が運営している孤児院だった。


「今日は来てくれてありがとうございます、聖女様」

「いえ。私も皆さんのお役に立ちたいですから!」


 子供たちと遊んだり、掃除を手伝ったり。

 本当ならそんなことしたくもなかったけれど、聖女という肩書がある今は、やらなければいけないことは分かっている。なので人のよさそうな笑みを浮かべ、任された仕事をこなしていた。


 そして。


「それでは、私はそろそろ戻りますね」

「お気を付けてお帰りください」


 エドワードは孤児院に残って、子供たちの世話を続けるとのことだった。

 なのでリリアーナは一人で帰路につく。


 ――はあ、やっと解放された。


 そう思いながら、馬車があるところまで歩いていた。

 その時だった。


「……え?」


 背後から気配を感じた。

 だが、振り返っても誰もいない。

 気のせいかと思って前を向いた、その瞬間。


「――――っ!」


 突然、横手から男が飛び出してきた。全身真っ黒な衣装で、顔も黒い布で覆っており、見えるのは茶色の瞳だけだった。

 その男の手に短刀のような鋭い刃が握られているのが見える。そして、その刃が振り下ろされた。


「きゃあっ!」


 咄嗟に身を躱せば、刃がリリアーナの頬を掠めた。

 ピリッとした痛みが頬に走る。


「な、何……!?」


 男は何も言わない。

 ただ、再び刃を振り上げる。


 ――怖い。逃げなければ。


 そう思うけれど、足が竦んで動かない。

 再び刃が振り上げられ、もう駄目だと思った。

 けれど。


「――リリアーナ! 伏せろ!」


 その声が聞こえ、ルーカスが飛び込んできた。

 男に体当たりをして、体制を崩した男の腕を掴み、そのまま地面へと叩きつける。


「この野郎!」

「ルーカス!」

「大丈夫!?」


 ルシアンとセドリックも駆け寄ってくる。


「怪我はありませんか、リリアーナ!」

「……っ、う、うん……」


 震える声で答える。

 ルーカスは男を押さえつけたまま、歯を食いしばった。


「危なかった……! あと少し遅かったら……!」

「本当に良かったよ。間に合わないところだった」


 ルシアンも安堵したように息を吐く。


「でも、どうして三人が……?」

「奉仕活動をすると聞いたから、手伝いに来たんです。ですが、向かうはずの孤児院を間違えてしまったので、この時間になってしまって……」


 セドリックが答える。


「……そうなんだ」


 リリアーナは胸を撫で下ろす。けれど、すぐに表情が強張ってしまう。

 刃が振り下ろされたときは、もう駄目だと思った。その時の恐怖を思い出して、カタカタと身体が震えてしまう。これは演技ではない。何せ自分は平和な日本にいた。こんな、誰かに殺されそうになるなんて、一度もなかったことだった。


「……私、殺されるところだったの?」

「たぶん、そうだろうな」


 ルーカスが答える。


「こんなこと、絶対に許せねぇ!」


 怒りに震えるルーカスを見て、リリアーナの目に涙が浮かぶ。


「……怖かった……」

「もう大丈夫だ!」


 ルーカスが力強く言う。


「俺たちがいる。絶対に守ってやるから!」

「ありがとう……」


 リリアーナが涙を拭う。セドリックたちを見ていたら、少しずつ落ち着きを取り戻すことができた。

 その様子を見ながら、セドリックが険しい顔で考え込んでいた。


「……ここまで続くとなると、偶然とは思えませんね」

「だよね」


 ルシアンも頷く。


「学園での噂。嫌がらせ。そして今回のこと」

「全部、繋がっていると考えるべきでしょう」

「だったら……」


 ルーカスが顔を上げる。


「犯人は、やっぱり――」


 視線が交わる。

 そして、同じ人物の名前が浮かんだ。


「ロザリア様……」


 リリアーナが呟く。全員が分かっている。こんなことするのは、ロザリアしかいないと。


「やっぱり、そうですよね」


 セドリックが低く答えた。


「証拠はありません。ですが、これまでのことを考えれば……」

「絶対にあの女だ!」


 ルーカスが拳を握る。


「絶対に証拠を見つけてやる!」

「うん。僕も協力するよ」

「私もです。これ以上、リリアーナを傷付けさせるわけにはいきません」


 三人が力強く頷く。

 リリアーナも、その言葉に勇気づけられた。


 ――やっぱり、みんな私を守ってくれるんだ!


 そして後に話を聞かされたエドワードも、顔を真っ青にしてリリアーナの無事を喜んでくれた。そうして、四人はロザリアが犯人だという証拠を見つけることを誓った。


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お顔の傷が(´;ω;`)
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