2回目からの回帰
本物の聖女視点の話です。
「わたくしは、また戻って来たのですか?」
目を開けた瞬間、アリアンヌはそう呟いた。
見慣れた天蓋が目に入る。淡い色合いの布地も、その向こうにぼんやりと差し込む朝の光も、何もかも覚えている。
ここは皇女宮にある自分の寝室。
ゆっくりと身を起こせば、身体が重い。けれど、それはいつものことだった。枕元に置かれた水差しも、窓辺に飾られた花も、壁に掛けられた肖像画も、記憶の中にあるものと何ひとつ変わっていない。
「……戻って来たのですね」
掠れた声が漏れる。夢ではない。頬を抓れば、ちゃんと痛みを感じた。
それでも信じられなくて、アリアンヌは自分の両手を見つめる。小さな手。細い手首、そして細い指。まだ幼さの残る身体だった。
「わたくしは……」
声が震える。
「また、十一歳なのですね」
どうして。
どうして、また。
一度目も、二度目も、確かに死んだはずだった。それなのに、どういうわけか再び時間は巻き戻り、アリアンヌは十一歳の自分へと戻された。
これで三度目だ。
三度目の、十一歳からのやり直しだった。
「……お兄様」
その名前を口にした途端、胸の奥が締めつけられる。
アレクシス・ルミナリア。六つ年上の、大好きな兄。今の彼は十七歳のはずだ。もうすぐ最終学年が始まる。そして、この先に待っている未来をアリアンヌは知っていた。
知っているからこそ、怖かった。
「……嫌」
小さく首を振る。
また、同じことになるかもしれない。また、あの結末に辿り着くかもしれない。
――前回も、前々回も、お兄様は毒を飲まされた。
そう思った瞬間、身体が震えた。
けれど。
「……今度こそ」
アリアンヌは、震える手を胸元で握りしめる。
二度も、皇太子アレクシス・ルミナリアを失った。ならば、三度目は違う未来にできるかもしれない。
そうでなければ。
――もう一度、お兄様を失うなんて……。わたくしには、耐えられません。
「今度こそ、お兄様――、皇太子アレクシス・ルミナリアには、生きていていただきたい」
十一歳の少女は、そう呟いた。




