幼少期
ロザリア視点の話です。
どうして、あんなことになったのだろう。
ロザリアは静かに目を伏せる。
筆頭公爵家の娘として生まれ、何不自由なく育てられた。幼い頃に皇太子との婚約が決まり、皇太子妃となるための教育を受け、皇太子であるアレクシスの隣に立つことを当然のこととして受け入れていた。
けれどいつからか、何かが少しずつ狂い始めていった。聖女が現れ、アレクシスの隣には気が付けば自分ではない少女が立っていた。
――そこから先の展開は、あまりにも早かった。
聖女を巡る騒動。
皇太子との婚約。
最後には、聖女を殺そうとした罪によって死罪を言い渡され、ロザリアは処刑された。
ロザリアには分からなかった。
自分はどこで道を間違えたのだろう。何がいけなかったのだろう。
あの時、別の選択をしていれば。
あの言葉を口にしなければ。
聖女に関わらなければ。
結果は、変わっていたのだろうか。
ロザリアは、ゆっくりと息を吐く。
そして、こうなるまでに至った過去を、一つずつ思い返していった。
◇
ロザリアがアレクシスと初めて会ったのは七歳の時だった。
その日、自分が皇太子殿下の婚約者になるのだと父から告げられた。筆頭公爵家の娘である以上、いつか政略結婚をすることになるのだろう。そう、幼いながら理解はしていた。けれど、まだ七歳のロザリアにとって結婚も婚約も遠い未来の出来事であり、実感が湧かなかった。持てなかったと言った方が正しいのかもしれない。
皇城へ向かう馬車の中で、ロザリアは何度も両親から言われたことを思い返す。母からは失礼のないように、淑女らしく振る舞うこと。父からは皇太子殿下のお気に召すよう努めるようにと、口を酸っぱくして言われていた。その言葉に分かりましたと頷きながら、心の中でそっと思う。
――皇太子殿下って、どんな方なのかしら。
優しい人だったら良いな、と思う。意地悪だったり、怖かったりしたら嫌だな、と思った。
皇太子殿下の姿を見たことはある。けれど、その時は大勢の人々に囲まれていて、よく見ることはできなかった。
皇太子アレクシスは自分と同じ七歳。不安を覚えながらも、ロザリアは期待に胸を躍らせていた。
そうこうしているうちに馬車は皇城へと到着した。
案内された部屋の前で、ロザリアは一度だけ深く息を吸う。隣に立つ母はそんなロザリアを見て、小さく微笑んだ。
「大丈夫よ、ロザリア。いつも通りになさい」
「はい」
頷いて前を向いた。その様子を確認した侍従が扉を開く。
中には一人の少年がいて、少年は扉の開く音に反応してこちらを向いた。
柔らかな金色の髪をした、美しい少年だった。陽の光を受けて輝く黄金の髪に、澄み渡る空のような色をした青い瞳。皇族特有の金色の髪に青い瞳を持つその少年は、絵画の中から抜け出してきたかのように美しかった。
少年と視線があった瞬間、ロザリアの胸が高鳴る。
――綺麗……。
最初に浮かんできたのは、そんな感想だった。同じ年頃の少年だと言うのに、どうしてこんなにも綺麗なのだろう。
思わず見惚れてしまったロザリアに、少年は笑顔を向けて口を開いた。
「ロザリア・ヴァレンティア公爵令嬢ですね」
穏やかで、柔らかい声だった。
いつまででも聞いていたくなるような声だったが、ロザリアははっと我に返り、慌てて背筋を伸ばす。
「は、はいっ。ヴァレンティア公爵家の長女、ロザリアと申します。お目にかかれて光栄に存じます」
「初めまして、ロザリア嬢。僕は神聖ルミナリア帝国皇太子、アレクシス・ルミナリアです。貴女にお会いできるのを楽しみにしておりました」
そう言って優しく微笑んだ少年を見て、ロザリアは完全に恋に落ちた。知らず、頬は熱を帯び、心はときめいていた。
――アレクシス皇太子殿下。わたくしの、婚約者。……わたくしの、皇子さま。
優しそうな人で良かった。そう安堵するよりも早く、アレクシスの婚約者になれたことを、ロザリアは喜んだ。
この人の隣にいたい。
それは、子供らしい、可愛い願いだった。
それから、ロザリアは定期的に皇城へ行くことが義務付けられた。
皇太子妃の教育を受けることはもちろん、アレクシスとの交流を深めるためである。
最初の頃は互いに少し距離があった。婚約者とは言えまだ七歳。大人たちが見守る中で、ぎこちなく会話をする程度だった。アレクシスが場を持たせようと話題を振ってくれるのだが、ロザリアは緊張して上手く話せずにいた。
けれど、交流を重ねるうちに少しずつ会話は増えていった。アレクシスに慣れてきたのもあるだろう。好きな本の話や学んでいること、公爵邸であった出来事や皇城であった出来事を話す。そうすればアレクシスは優しく微笑んで、一つ一つ丁寧に自分が話した内容の返事をくれるのだ。そんな彼に、ロザリアは終始胸を高鳴らせていた。
アレクシスの方も自分の近況を話してくれる。ただ、アレクシスの場合は大抵が妹の話だったけれど。
それでもアレクシスは、きちんとロザリアの話にも耳を傾けて一緒に笑ってくれる。だからアレクシスとの時間は、ロザリアにとってとても楽しい時間だった。
そして婚約してから半年が経った頃。
いつものように皇城を訪れていたロザリアは、庭園でアレクシスと向かい合っていた。
「ロザリア嬢」
「はい、アレクシス皇太子殿下」
そう答えると、アレクシスは眉を下げて笑う。
「僕たちは婚約者なのですから、もう少し気楽に話してもいいのではありませんか?」
「え……?」
何を言われたのか分からず、目を瞬かせる。
「それに、いつまでも『皇太子殿下』と呼ばれるのは、少し寂しいです」
「……寂しい?」
「はい」
こくりと頷いたアレクシスは、柔らかく微笑む。
「ロザリア嬢は、僕の婚約者でしょう?」
その言葉だけで、胸がどきりと跳ねた。
「ですから、僕のことはアレクシスと呼んでください」
一瞬、思考が止まる。それは、と期待してしまう。
恐る恐るアレクシスの名前を呼ぶ。
「……アレクシス様、と」
「はい」
「お呼びしても、よろしいのですか?」
「もちろんです」
アレクシスが当たり前のように頷く。そんなアレクシスに、顔が一気に熱くなった。
名前で呼ぶ。皇太子殿下を。自分の婚約者を。
――アレクシス様、と。そう呼べる許しを与えられた。
「……アレクシス様」
「はい」
すぐに返ってきた返事と、こちらへ向けられたアレクシスの笑顔に、さらに顔が熱くなった気がした。
そして。
「僕も貴女のことをロザリアと呼んでも構いませんか?」
「は、はい、もちろんですっ」
「ありがとう、ロザリア」
食い気味に返事をすると、少しくだけた口調でアレクシスがやわらかな笑みを浮かべた。アレクシスとの距離が近付いたような気がして、ロザリアの顔も綻んでいく。
この日、アレクシスと別れるまで、胸の高鳴りが収まることはなかった。
◇
アレクシスと婚約してから、一年ほどが過ぎた頃だった。
その日もロザリアはいつものように皇城を訪れていた。
庭園を歩いていた時に、不意に隣にいたアレクシスが口を開く。
「ロザリア」
「はい?」
「……お願いがあるんだ」
いつもと少し違う様子のアレクシスに首を傾げる。
「わたくしに出来ることでしたら、何なりと」
そう答えると、アレクシスは一度だけ視線を伏せた。
そして、少し躊躇うように声を潜めてロザリアに告げる。
「僕の妹に、会ってほしいんだ」
「妹君にですか?」
その言葉を聞いた瞬間、ロザリアの頭の中に一人の皇女の情報が浮かんできた。
――神聖ルミナリア帝国アリアンヌ・ルミナリア皇女殿下。
アレクシスの六歳年下で、御年二歳。生まれつき身体が弱く、これまで一度も皇女宮の外へ出たことがない皇女。
そして、アリアンヌ皇女が生まれた時に皇后が命を落としており、皇后を深く愛していた皇帝は娘の顔を見ることが辛く、皇女を遠ざけている。
それが、表向きに知られている理由だった。
けれど。
皇帝に近しい者たちは知っている。皇帝が皇女を遠ざけているだけではないことを。
――皇帝は、アリアンヌ皇女を憎んでいる。
皇后が亡くなった原因として、その責任をアリアンヌ皇女のせいにして。そうして生まれたばかりの幼い皇女に、心ない言葉を皇帝はぶつけたのである。
ロザリアもまた、父から皇帝について聞かされていた。皇帝の前で、決してアリアンヌ皇女の話題を出してはいけない。皇太子の婚約者となった以上、皇族について知っておく必要があるからと、そうして教えられたことの一つだった。
そして、もう一つ。
皇太子アレクシスが、そんな妹姫を守っていることも教えられていた。
だからだろうか。
アレクシスが妹の話をする時は、いつも優しい表情を浮かべていた。ロザリアにも何度も妹の話をすることがあった。妹が今日は何をした、何を食べた、と。そして、いつもより体調が良さそうだったと嬉しそうに笑う日もあれば、また体調を崩してしまったと、悲しそうにしていた日もある。けれど、いつだって妹の話をするときのアレクシスの表情は柔らかかった。
その様子から、妹のことが可愛くて仕方がないと思っている様子が窺えた。
そんなことを思い出しつつ、ロザリアは迷うことなく答えた。
「もちろんですわ。妹君にお会いできるのでしたら、わたくしも嬉しいですわ」
「ありがとう」
アレクシスがほっとしたように微笑む。
そうして、ロザリアは初めて皇女宮を訪れることになった。
皇女宮の周囲には、厳重な警備が敷かれていた。
入口には常に騎士が控え、訪れる者は厳しく確認される。皇女宮へ入ることを許された者は限られており、気軽に出入りできる場所ではない。皇族としてそれは当たり前のことかもしれないが、それでもロザリアが厳重過ぎると思うくらいには、厳重に守られた場所だった。
けれど、一歩その中へ足を踏み入れると、そこには外から受ける印象とはまったく異なる空間が広がっていた。
大きな窓からは柔らかな陽の光が差し込み、室内を穏やかに照らしている。そこかしこに色とりどりの花が飾られており、花瓶に活けられた花々は部屋に彩りを添え、ほのかな香りが漂っていた。
柔らかな色合いで整えられた室内は、温かい雰囲気で満たされている。厳重な警備に守られたその内側には、アリアンヌのための穏やかで優しい世界があった。
そうして、アレクシスに案内されて部屋へと入る。
すると。
「おにいしゃま!」
小さな声が聞こえてきた。
部屋の奥にいた幼子が、ぱっと顔を輝かせ、そしてアレクシスへ向かって両手を伸ばす。
「アリア」
アレクシスが優しい声で妹の名を呼ぶ。
その声だけで、ロザリアは分かった。
――本当に、大切にしていらっしゃるのね。
アレクシスへと幼子が嬉しそうに抱きつく。
ふわりと揺れる金色の髪。澄んだ青い瞳。それらはアレクシスと同じ色彩で、ゆるやかな癖のある柔らかな髪は、幼子が動くたびに軽く跳ねていた。
……皇帝に似ている。そう感じた。
遠くからではあるが、皇帝の姿を見たことがある。王家の色である金の髪と澄んだ青い瞳。アリアンヌは、父親である皇帝によく似ていた。
アレクシスは幼子を抱き上げて、ロザリアに紹介するように立つ。
「アリア。今日は、僕の婚約者を連れてきたんだよ」
アレクシスがそう言うと、幼子がロザリアの方を見た。
大きな青い瞳と視線が合う。アリアンヌは、しばらくロザリアをじっと見つめていた。
そして。
「こんやくちゃ……?」
ロザリアとアレクシスの顔を見比べて、不思議そうに告げる。その様子に、アレクシスは優しく微笑みながらアリアンヌに説明した。
「そうだよ。将来、僕のお嫁さんになる人なんだ。アリアにとっては、義姉になる人だね」
将来のお嫁さん。その言葉に鼓動が跳ねる。けれど、今はそういう場面ではない。ロザリアは極力柔らかく見えるように笑みを浮かべた。
そんなロザリアを見て、アリアンヌは。
「……おねえしゃま?」
こてん、と小さく首を傾げる。その様子がとても愛らしい。
――か、可愛い……!
内心、あまりの可愛さに悶えた。
なんて可愛らしいのだろうと、思わず駆け寄って抱きしめたくなる衝動を必死に抑える。
「はい。ロザリアと申します」
できるだけ穏やかな声で答えると、アリアンヌはパチパチと大きな目を瞬く。
「ろじゃりあ……」
「そうですわ」
「……ろじゃりあ、おねえしゃま?」
「ええ」
ロザリアが微笑むと、アリアンヌも嬉しそうに、にぱっと笑う。
アレクシスが嬉しそうに妹の話をする様子に、可愛らしい妹なのだろうとは思っていた。けれど、実際に会ってみれば、その想像を遥かに超えていた。「おねえしゃま」と舌足らずに呼ぶアリアンヌのことを、ロザリアはすぐに好きになった。
ロザリアがアリアンヌと話をしていると、ふと視線を感じる。顔を上げると、アレクシスがこちらを見ていた。いつものように穏やかな表情を浮かべている。けれど、どこかじっとこちらを見ているような気がした。「何かございましたか?」と首を傾げると、アレクシスは「何でもないよ」と微笑む。その後は、穏やかに、いつもと同じ笑みを浮かべていた。
それからしばらくして、あまり長居をするとアリアンヌの身体に障るからということで退室する。
「ロザリア」
「はい?」
皇女宮を出て、しばらく歩いたところで呼ばれて振り返る。アレクシスは少しだけ言いにくそうに口を開く。
「ロザリアさえよければ、たまにでいい。アリアンヌの話し相手になってくれないかな?」
アレクシスの言葉に、目を瞬かせる。
「これは命令ではなくお願いだから、もちろん、断ってくれてもいい。実際、ロザリアは皇太子妃の教育もあって忙しいだろうから」
ロザリアの事情もあるだろうからと、決して強引に進めようとしない様子がアレクシスらしかった。
だからこそ、自分に出来ることなら、と引き受けることにした。実際、アリアンヌはとても可愛かったし、将来義理の妹になる。これから交流を重ねていけるのなら、それはロザリアにとっても嬉しいことだった。
「断る理由などございませんわ。わたくしでよろしければ、ぜひ」
そう答えると、アレクシスはほっとしたように、けれど嬉しそうに微笑む。
「ありがとう」
礼を告げるアレクシスに、ロザリアもまた微笑み返す。
こうして、ロザリアはアレクシスだけでなく、アリアンヌとも交流を深めていくことになった。
◇
ロザリアが十歳になった年。
アレクシスが倒れたという知らせが届く。その知らせを聞いた瞬間、ロザリアは顔から血の気が引く思いをした。
何があったのか。どれほど容体が悪いのか。詳しいことは分からないまま、ロザリアは両親に頼み込み、皇城へ向かった。
そして、そこで知らされる。
――アレクシスが、毒を盛られたことを。
幸い、たまたま常備されていた解毒薬をすぐに使用できたことで、アレクシスは一命を取り留めることが出来たらしい。
けれど、その知らせを聞いてロザリアは安堵するどころか、背筋が冷たくなるのを感じていた。事故ではなく、誰かが意図的にアレクシスの命を奪おうとした。そのことに、恐怖を覚えた。
それから、数日後。
容体が落ち着いたアレクシスの見舞いを許され、皇太子宮を訪れた。
「アレクシス様……」
寝台の上にいる彼の姿を見て、胸が痛んだ。顔色が悪く、少しやつれたように見える。けれど、ロザリアの姿を見たアレクシスはいつものように微笑んだ。
「心配をかけてごめんね」
「本当に……、心配いたしましたわ」
思わず声が震えてしまう。
もう二度と会えないかもしれない。知らせを聞いた時、そんな恐ろしい考えが頭をよぎったのだ。しかし、アレクシスは無事だった。生きている。そのことが、どうしようもなく嬉しくて、同時に安堵した。
「もう、大丈夫なのですか?」
「うん。もう問題ないよ」
そう答えたアレクシスは、けれど少しだけ目を細める。
「ロザリア、君も気を付けて」
「……わたくしですか?」
思わず聞き返す。
すると、アレクシスは静かに頷いた。
「僕が狙われたのなら、他の者が狙われないとも限らないから」
その声は穏やかだった。
けれど、ロザリアはそこに以前のアレクシスとは違うものを感じた。優しかった少年の瞳。その瞳には、今は強い警戒の色が滲んでいた。
アレクシスが恐れているのは、自分が再び狙われることではない。なぜかそう思った。そしてその予感は、その後すぐに確信へと変わる。アレクシスは以前にも増して、妹のことを気にかけるようになったのだ。ただでさえ厳重だった皇女宮の警備はさらに厳しくなり、アリアンヌに会う者も限られるようになった。
以前から妹を大切にしていたアレクシスだったけれど、今は違う。まるで、常に妹の身に危険が及んでいないかを確認しているようだった。
ロザリアと会っている時も、ふとした瞬間に妹のことを気にかける。今日は体調を崩していないだろうか。薬はきちんと用意されているだろうか。皇女宮の警備に問題はないだろうか。そう心配していた。
そして時には、ロザリアと話している最中に席を立つこともあった。
「ごめんね、今日はこれで失礼するよ」
そう言って、アレクシスはアリアンヌの元へ向かう。
そんな姿を見るたびに、ロザリアは少しずつ理解していった。
――わたくしは、アリアンヌ様には敵わないのだわ。
そう悟った時、ショックではあったけれど、悲しいわけではなかった。アリアンヌのことをロザリアも大切に思っている。だからこそ、妹を守ろうとするアレクシスの気持ちは理解できたのだ。
自分自身が毒を盛られた。次に狙われるのが妹ではないと、どうして言い切れるだろう。アレクシスがアリアンヌを守ろうとするのは、当然のことだった。ただでさえアリアンヌは皇帝に疎まれている。皇帝に疎まれている皇女を守れるのは、皇太子であるアレクシスしかいないのだ。
しかし、理解することと寂しくないことは別だった。アレクシスはロザリアに優しい。話を聞いてくれるし、困っていれば力になろうとしてくれる。そして何より、彼はロザリアを信頼してくれていた。それは、同じ時間を共に過ごしていれば分かる。
けれど、そこにロザリアが望んでいるものはなかった。
――わたくしを、女性として見てはいらっしゃらない。
十歳になったばかりのロザリアには、まだその意味をすべて理解していたわけではない。アレクシスが自分に向けているのは、信頼と信用。そして、穏やかな友情。それ以上のものではない。ロザリアはそのことに気付き始めていた。
それでも、アレクシスの隣にいる時間が嫌になったわけではない。彼が自分を信頼してくれている。それだけは確かだったから。
だからロザリアは、そのことを胸の奥にしまい込んだ。
けれど、いつかアレクシスが自分を女性として見てくれる日が来るかもしれない。
そんな小さな期待を、手放すことができずにいた。




