回帰
ロザリア視点の話です。
ロザリア・ヴァレンティアは死罪を言い渡された。
聖女リリアーナ・ベルナールの暗殺を企てた罪。
皇太子の婚約者でありながら、聖女の命を奪おうとしたことは決して許されるものではない。ただし、筆頭公爵家の令嬢であり、かつては皇太子の婚約者でもあったことから、処刑は非公開で執行されることとなった。
刑場での斬首。
それが、ロザリア・ヴァレンティアに下された沙汰だった。
そして、処刑の日。
その日は雲一つない青空が広がっていた。
刑場にはすでに処刑人が待っている。中央には処刑のための台が設けられ、その上には鋭い刃を備えた処刑具が置かれていた。
ロザリアは刑場へ連れてこられると、処刑人の指示に従って台へと上がった。
周囲にいるのは刑の執行を見届けるために選ばれた数人の役人だけ。民衆の姿はない。もちろん、皇太子の姿もない。
やがて処刑人が所定の位置についた。ロザリアは台の上で身を伏せる。処刑のために切られた髪がさらりと流れ、ロザリアの表情を隠す。
処刑人が刃を固定し、最後の確認が行われた。
そして。
――刃が落ちた。
「――――っ!」
勢いよく目を覚ました。
荒い呼吸を繰り返しながら、ロザリアは周囲を見回す。
「……ここ、は……?」
知らない場所ではない。見慣れた部屋、自分の寝室だった。
柔らかな寝台、見慣れた天蓋、窓から差し込む朝の光。どう見ても処刑場ではない。何日も過ごした貴人牢でもない。
ロザリアは先ほどまで刑場にいたはずで、そこで断頭台の上に立たされ、首を固定され、そうして――。
そこまで思い出したところで、慌てて寝台から身を起こす。急ぎ足で部屋に置かれていた鏡へ駆け寄る。そうして鏡の中の自分を見れば、そこに映っていたのは紛れもなく自分自身だった。
――首が、繋がっている。斬られていない。
こうして生きているのだから、当たり前のことだろう。けれどその当たり前のことに、心底安堵した。
さらに髪が長い。処刑するために切られたはずの髪が、切られる直前の腰まであり、艶やかに輝いている。
「いったい何が……」
自分の身に何が起きたのか分からない。困惑したまま辺りを見回すと、机の上に置かれていた学園の予定表に目を留めた。
そこに記されていた日付を見て、目を見開く。
「……そんな……」
予定表に記載されている日付は、学園の最終学年が始まるほんの少し前のものだった。
この予定表には見覚えがある。確かこれを机に置いていた日に、アレクシスから皇帝の命で聖女の世話係をすることになったと告げられたはずだ。
ということは、聖女との騒動も、婚約破棄の騒動も、側近候補たちの処刑もまだ起こっていない。
――そして、わたくしの処刑も執行されていない。
「……戻って、来ましたの?」
呆然と呟くロザリアの声が、静かな部屋に響いていた。




