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【完結保証】女神の愛し子はだぁれ?  作者: 月瀬小春
第一章 転生した少女の話

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⑩


 こうして、四人の処分が決まった。

 しかし、ただ一人、リリアーナだけは処罰を免れた。聖女であるリリアーナは、これまで教会の預かりとなっていた身である。皇帝としても、教会との間にこれ以上余計な問題を起こすことは望んでいなかった。なにより、聖女を罪に問うことで国民から反発を受けることは避けたかったのだ。

 もっとも、無罪とされたからといって、何も知らされないわけではない。リリアーナ自身も今回の騒動の当事者である。だからこそ、四人に下された処分を最後までその目で見届けさせたのだ。


 そして――。


 ロザリアにも処罰が下された。

 聖女暗殺未遂の罪。その犯人であると断定され、死罪を言い渡されたのだ。さらに、ヴァレンティア公爵家は爵位を二段階下げ、一部領地を没収させられることとなった。

 こうして一連の騒動を収めるため、皇帝は一つの決定を下す。


 ――聖女リリアーナと皇太子アレクシスの婚約。


 聖女と皇太子を結びつけることで、今回の騒動によって生じた問題をすべて収束させる。それが皇帝の判断だった。

 そして、そのことが決まったその日のうちに、貴賓室に軟禁されているリリアーナのもとへ、アレクシスが訪れた。


「アレクシス様!」


 扉が開いた瞬間、リリアーナの顔がぱっと明るくなる。

 けれど。


「……え?」


 姿を現したアレクシスを見て、リリアーナは目を瞬いた。

 いつもと変わらない、整った顔。けれど、その頬には赤く腫れた跡が残っていた。


「アレクシス様、その頬……!」

「皇帝陛下から叱責を受けただけだ」


 淡々とした声だった。


「己の側近候補たちすら制御できないのか、と」

「そんな……」


 リリアーナは心配そうに見つめる。しかしアレクシスは気にする様子もなく、今回の騒動について説明した。

 四人に下された処分。ロザリアに下された処分。そして、事態を収拾するために決められたアレクシスとリリアーナ、二人の婚約。

 すべてを告げ終えると、アレクシスは静かにリリアーナを見た。


「以上が、今回の件の顛末だ」


 リリアーナはその言葉を聞きながら胸を高鳴らせる。

 ロザリアは死罪になった。四人も処刑された。四人が処刑されたのは悲しいし、残念だ。けれど、自分はアレクシスと婚約した。

 仲の良い友人たちを失った上で、結ばれる。まるで、悲劇の果てに待つ物語の結末そのものだ。


 ――やっぱり。


 リリアーナは嬉しそうに微笑む。


 ――私が、聖女だから。私がヒロインだから、皇太子と結婚できるんだ。なんだ、ハッピーエンドじゃん!


 アレクシスは自分を選んでくれたのだ。そう思ったリリアーナは満面の笑みを浮かべ、「分かりました!」と頷く。嬉しそうに笑うリリアーナを、アレクシスは冷ややかな目で見つめていた。そこに浮かぶのは、隠しようもない軽蔑の色。

 けれど、リリアーナはその視線に気付くことなく、ただ幸せそうに微笑んでいた。



 ◇



 リリアーナにとって、それは望んでいた未来だった。


 ロザリアは処刑され、四人の側近候補も処刑された。仲の良い四人が処刑されたのは悲しかったが、自分は皇太子アレクシスの婚約者となった。皆の分まで必ず幸せになるから! と、リリアーナの胸にあったのは、そんな考えだけだった。

 まだ結婚式こそ挙げていないものの、これでいずれ皇太子妃となる。皇族となれば、きっと何不自由のない暮らしができる。美しいドレスも、豪華な食事も、広い部屋も。前世では手に入れられなかったものを、これからはいくらでも手に入れられる。

 そう思っていた。


 けれど。


「国中を巡礼してもらう」


 皇帝から告げられた命令に、リリアーナは目を丸くする。


「……巡礼、ですか?」

「ああ。聖女であるお前には、各地を訪れてもらう。民に聖女が健在であることを知らしめるためだ」

「え……、でも、私は皇太子殿下の婚約者で」

「婚約者であることと、聖女としての務めは別だ」


 有無を言わせぬ皇帝の言葉に渋々頷く。

 アレクシスは多忙を理由に見送りに来てくれなかった。顔が見れなかったのは残念だが、帰ってきたら存分に甘えさせてもらおうと思えば我慢できた。

 こうしてリリアーナは護衛と監視役を伴い、帝国各地を巡る旅に出ることになる。


 最初のうちは、仕方がないと思っていた。


 聖女なのだから、これくらいは仕方がない。

 旅を終えれば皇城へ戻れる。

 そう思っていた。


 けれど、一月経っても戻れない。


「まだ帰れないの?」


 さらに月日が経つ。


「いつになったらお城へ戻れるの?!」


 次第に、リリアーナは苛立ちを隠さなくなった。


「私は皇太子の婚約者なんだよ?! いつまでこんなところにいればいいのよ!?」


 それでも、旅が終わることはなかった。

 皇帝の命令は絶対だ。監視役も常に傍にいるため、勝手に帰ることも逃げ出すこともできない。

 そして、旅が長引くにつれて、リリアーナの生活は少しずつ苦しくなっていく。持たされていた旅の資金も底をつき、思うように食事も取れなくなる。

 それでも、皇城へ戻ることはできなかった。

 そうして体力を落としていったある日。


 リリアーナは、流行り病に罹った。


「……いや……」


 辺境の教会で寝台に横たわりながら、リリアーナは弱々しく首を振る。


「私、まだ……皇太子妃に……」


 ――まだ結婚式も挙げてない。楽しみだった豪華な暮らしも満喫してないのに。それなのに、どうしてこんなことに……。


 ヒューヒューと乾いた吐息が出るだけで、もう声を出すことも出来なかった。視界も段々霞んでいく。

 手を握る者はなく、心配してくれる者もいない。贅沢な暮らしを与える者も、リリアーナを物語の主人公として扱う者もいなかった。

 監視と護衛は遠くからリリアーナを見ているだけだった。さらに、「早く死んでくれないかな」という、小さな声が聞こえた。

 

 ――どうして……。私は、ヒロインのはずなのに……。


 リリアーナは最後まで自分がヒロインだと思っていた。主人公だと思っていた。けれど結局、リリアーナを救う人は誰もいなかった。

 やがて、リリアーナの瞳から光が消える。誰に向けたかも分からない、持ち上げた手が落ちた。


 享年二十歳。


 聖女リリアーナ・ベルナールの短い生涯は、帝国の片隅にある小さな教会で幕を閉じた。


 

 ◇


 

 聖女リリアーナが巡礼の旅へ出て間もなく、皇帝は初めて後妻として一人の側妃を迎えた。

 先の皇后、アレクシスとアリアンヌの母は、アリアンヌを産んだ際に命を落としている。皇后を深く愛していた皇帝にとって、その死はあまりにも大きな喪失だった。皇后が死んだ原因を娘であるアリアンヌのせいだと断じてしまうほど、皇帝は皇后を愛していたのである。

 アリアンヌは妻を奪った娘として皇帝から憎まれた。そんな妹を守ったのが、兄であるアレクシスだった。皇帝から妹を庇い、何かあれば自分が責任を負う。それが、アレクシスにとって当たり前のことだった。

 皇帝は皇后を深く愛していたが故に、後妻を娶ることはなかった。アレクシスという後継者がいたことも理由の一つだろう。しかし、その皇帝が後妻を迎えた。

 そして。


 アレクシスが二十歳を迎えた頃、皇帝の側妃が、子を産んだ。


 ――男児だった。


 皇帝にとって、新たな皇子の誕生は喜ばしいものだった。そして同時に、皇太子アレクシスの存在が必要ではなくなった瞬間でもある。

 皇帝が定めた婚約を巡る騒動。その結果、側近候補たちの処刑。聖女暗殺未遂による、婚約者の処刑。

 それらすべてに関わり、防げなかった皇太子を皇帝は快く思っていなかった。それでも他に皇位を継ぐ者がいなかったからこそ、アレクシスは皇太子であり続けていた。

 だが、男児が生まれた今は違う。皇帝には新たな後継者がいる。

 ならば、アレクシスを生かしておく必要はない。


 ――ある日。


 アレクシスは何者かに盛られた毒によって命を落とした。その死が病によるものと発表され、真実を知る者は少なかった。

 そしてその直後、身体の弱かった皇女アリアンヌもまた、息を引き取った。

 皇太子も、皇女も、聖女も、そして、かつて皇太子の婚約者だった公爵令嬢も。

 すべての者の物語が終わった。


 そして、一度目の世界が閉じたのであった。

 

これでリリアーナ編は終了です。

次から違う人物視点の話となります。

よろしければ、そちらもお付き合いくださいますと嬉しいです。

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皇帝へーか、怖い……! がんばってたみなさんが……!
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